まかないそうめんの「不味さ」が家業を継ぐきっかけに!?小豆島から世界を目指す4代目社長の挑戦

株式会社岡上食品の4代目社長を務める岡上 博(おかうえ ひろし)さん。家業のそうめん屋を継ぎ、オンラインショップや「七夕流しそうめん」イベントを通じてそうめん文化の普及に尽力しておられます。家業を継いだ意外なきっかけから、そうめんづくりの枠を超えた今後の展望まで、熱い思いを語っていただきました。
小豆島からフランスへ!東京を経て気づいた実家の味

高校を卒業して、生まれ育った小豆島から一度離れて料理の世界に飛び込みました。10年ほどフランス料理を勉強して、東京やフランスでも修行したのですが、料理の世界を一度挫折して家業を継いだのが30歳のときです。
家業は創業して85年ほど経つのですが、僕が帰ってきてから法人化して今(2026年)は11期目です。先代からそうめんを作っていますが、先々代はこんにゃくとソーダ水、ミカン水みたいなのをやっていたみたいです。香川県の離島である小豆島には、しょうゆ、塩、ごま油、そうめん、そして近年注目されているオリーブ製品など、豊かな伝統産業が根付いています。
高校を卒業してから食の世界にはずっといて、今でも東京で働いていたときの人たちとは交流があります。実は当初、そうめん屋を継ぐ気はまったくありませんでした。しかし、東京で働いていた頃、まかないで同僚が適当に買ってきたそうめんを口にして愕然としたのです。「全然美味しくない……僕が当たり前だと思っていたそうめんの基準は、こんなにも高かったのか」と。そこで初めて実家の味の価値に気づかされました。
家業に戻る決断自体は「なんとなく」の始まりでしたが、今も父が健在で現場を手伝ってくれていることには本当に感謝しています。もし最初から一人ですべての従業員を背負う状況だったら、押し潰されていたかもしれません
各地で独自の文化を築いたそうめんの奥深さ

一口にそうめんと言っても、全国にはさまざまなご当地そうめんがあります。奈良の「三輪そうめん」、兵庫の「揖保乃糸」、長崎の「島原そうめん」、そして小豆島の「手延べそうめん」などです。
小豆島のそうめんはごま油を使うという特色があったのですが、うちでは先代からオリーブオイルを使っています。製造工程中に油を塗る工程があるので、各地ではそこにめんつゆを使ったり、小豆島はごま油を使っていたところをオリーブオイルに変えたり、といった特色の違いがあります。
外国産の小麦粉もつくっていましたが、最近力を入れているのは「国産小麦を大切にしよう」ということで国産小麦の復旧を含めた勉強会の動きをさせてもらったりもしています。国産小麦は、香りと食べたときののどごしの、小麦の風味が全然違います。外国産のほうがタンパク質が多いので、味が乗ってくる感じは外国産のほうが強いかもしれませんが、ゆでているときから小麦の香りがするのは国産小麦の特徴だと思います。
今は横山製粉さんというところと組んで、北海道の小清水、オホーツクのほうの小麦を中心にブレンドしています。麺の世界では有名な「きたほなみ」という品種と「春よ恋」という品種とを混ぜて使っていたのですが、ある程度量が使えるようになってきたので、「うち独自のブランドでやりませんか」とお話をいただいています。ラーメン屋はそう言ったコラボが多いですが、そうめん屋はあまりないので、新たな試みとして。
小豆島にそうめんの製法が伝来したのは約400年前。島民がお伊勢参りの道中に奈良・三輪の地を通り、冬場の農閑期にできる仕事として持ち帰ったのが始まりとされています。そこから長い年月をかけ、各地の風土に合わせた麺文化へと派生していったのだと考えています。
現在、岡上食品では定番の手延べそうめんに加え、半生うどん、冷や麦、乾麺うどん、そして「鯛そうめんセット」(鯛のだし汁・炙り鯛のオイル漬け・鯛だしを練り込んだ麺のセット)などを展開しています。さらに、大阪のかすうどん専門店「加寿屋(KASUYA)」さんとコラボした「あぶらかすにゅうめん」など、新しい食べ方の提案にも挑戦しています。
そうめんを世界に広める飲食店の展開や食の底上げを見据えた国産小麦の普及

今後の展望として、まずはそうめんの価値を上げたいですね。ラーメンやうどんは世界的に有名ですが、そうめんの認知度は低い。あまり分析はしていませんが、家で食べることが多いのと、うどんと比べて単価が高いからかと思います。ただ東京ではそうめん居酒屋もあるので、出し方、食べさせ方なのかなと。飲食をやっていた強みを生かして、そうめんの飲食店をやりたいと考えています。
まずは国内で店舗モデルを確立し、将来的には海外で立ち食いスタンドのような小さな規模からでも出店してみたいですね。そのためにも、製造会社としての基盤を固めて、事業投資への余力を蓄えることが先決です。
手延べそうめんは手作業の工程が多く、無制限に規模を拡大するのは容易ではありません。しかし、同じ四国・徳島にある「半田そうめん」の企業では、年商数千万円規模から35億円規模へと成長を遂げた先例もあります。基盤づくりに15年ほどかかったそうですが、そうめんという商材にもそれだけの大きな可能性があると確信しています。
今はまだ自社を育てる段階ですが、将来的には生まれ育った小豆島へ雇用や経済の形で恩返しをしたいと考えています。そしてもう一つ大切にしているのが、日本の農業・食文化全体の底上げです。
現在、日本の食料自給率は約38%、小麦単体で見ればわずか16%前後に留まります。自給率の低さは、有事の際に自国だけで食をまかなえないという国の脆弱さに直結します。以前、北海道へ種まきや収穫の視察に伺った際、「現場で土にまみれて小麦を作る農家さんがいて初めて、僕たちのものづくりが成り立つ」と痛感しました。彼らを支える唯一の方法は、私たちが良い製品を作り、適正な価値で世の中に届けていくことです。
「安く仕入れて高く売る」のが商売の基本だとしても、生産者を買い叩くようなビジネスは健全ではありません。良いものを適正な価格で買い、魅力的な商品として適正な価格で届ける。この循環を愚直に守り続けることこそが、日本の食文化を未来へつなぐ道だと信じています。
世界へ向けたそうめん文化の発信、小豆島への地域貢献、飲食店の展開、そして社員が誇りを持って働ける会社づくり。この4つの柱を軸に、これからも挑戦を続けていきます。
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