言葉で世界をつなぐ!25年間、IT翻訳の最前線で歩み続けて

英日翻訳をメインに活動しており、IT関連、プレゼン資料、契約書等、幅広い分野の翻訳に関わっている、中村正剛(なかむら まさたけ)さんにお話をお伺いしました。
海外経験が導いてくれた翻訳者という道

私は2001年から現在に至るまで、25年間フリーランスの翻訳者として活動しております。振り返ってみると、この仕事の原点は幼少期の海外生活にありました。
父の仕事の都合で、私は子どもの頃に合計6年間海外で暮らしました。なかでもイギリスには4年間滞在し、現地の学校に通っていました。その経験は、単に英語を学ぶという以上に、文化や価値観の違いを肌で感じる貴重な機会となりました。言葉は単なる単語の集合ではなく、その背景にある文化や考え方まで含めて理解する必要があることを、当時の私は自然と学んでいたのだと思います。
帰国後は、英語力を生かして帰国子女枠で高校へ進学し、大学卒業後も英語を使う仕事に就きました。会社員時代は輸出営業を担当し、海外とのやり取りや海外出張など、英語を活用する環境に身を置いていました。しかし、部署異動などを経験するなかで、「自分が本当にやりたい仕事とは何だろう」と考えるようになりました。
そんなとき、偶然手に取った雑誌で「翻訳」という仕事を知りました。私は数学が苦手でしたが、英語と国語は好きでした。「英語と日本語、両方を使う仕事なら自分に向いているのではないか」。そう考え、翻訳の世界に飛び込むことを決意しました。
今思えば、かなり無謀な挑戦だったかもしれません。会社を辞めてすぐに独立したものの、最初から仕事が順調に入るわけではありませんでした。翻訳会社の登録試験には合格しても、実際の仕事にはなかなかつながりません。収入が安定せず、貯金が底をついた時期もありました。
転機となったのは、ある翻訳会社から「もう少し体系的に勉強した方がよいのではないか」と助言をいただいたことでした。それまで独学で学んできた私は、翻訳学校に通い、実務と学習を並行して行うことにしました。そこで翻訳の基本や実践的なノウハウを徹底的に学び、「翻訳とはこういうものなのか」と理解できるようになりました。
多くの方々との出会いと支えがあったからこそ、私は今日まで翻訳者として歩み続けることができたのだと感じています。
IT翻訳に求められるのは“自然な日本語”

現在、私が主に手掛けているのはIT分野の翻訳です。具体的には、北米のIT企業が日本市場向けに展開するコンテンツの日本語化を監修しています。
皆さんが日常的に利用しているスマートフォンアプリ、そのヘルプサイト、マーケティングページ、さらにはサービス利用時に届くメールなど、企業に関わるさまざまな日本語コンテンツに携わっています。多くの方にとって、私たちが翻訳した文章が、そのサービスとの最初の接点になることも少なくありません。
翻訳において最も避けなければならないのは「直訳」です。英語の語順をそのまま日本語に置き換えるだけでは、読みづらく、不自然な文章になってしまいます。
利用するのは日本のユーザーです。ユーザーは原文が英語であることを意識していません。だからこそ、最初から日本語として自然に読める文章にすることが重要です。
私は翻訳後、実際のアプリや画面上で表示を確認し、文字が切れていないか、改行位置は適切か、意味が正しく伝わるかなどを細かくチェックします。いわゆる品質保証まで担当し、問題がない状態で世の中へ送り出します。
IT業界は技術革新のスピードが非常に速く、翻訳の現場も常に時間との勝負です。午前中に依頼された案件を午後には納品することも珍しくありません。1日のなかで何度も締め切りが訪れるような仕事です。
そのため、私が仕事で最も大切にしていることは、「納期を守ること」と「限られた時間のなかで最大限の品質を提供すること」の二つです。
また、翻訳には文化の橋渡しという側面もあります。海外では当たり前の表現でも、日本では意味が伝わらないことがあります。その場合、その文化的背景を説明するのか、日本の文化に置き換えるのかを判断しなければなりません。
言葉を翻訳するだけではなく、文化や価値観をつなぐこと。それこそが翻訳の醍醐味であり、同時に難しさでもあると感じています。
約束を守り、人の役に立ち続ける人生を

25年間翻訳の仕事を続けてきて感じる魅力の一つは、常に新しい世界に触れられることです。
IT業界は変化のサイクルが非常に速く、新しい技術やサービスが次々に登場します。私は翻訳者として、それらの最先端の情報にいち早く触れることができます。そして、それを日本のユーザーの皆さんに届けるお手伝いができることに、大きなやりがいを感じています。
普段、翻訳者の存在が表に出ることはほとんどありません。しかし、多くの人が日常的に使うサービスの一部を支えているという実感は、何ものにも代えがたい喜びです。
今後については、翻訳という仕事には定年がありませんので、生涯プレイヤーとして、たとえ小さな規模であっても続けていきたいと考えています。
また現在は、相続に関する仕事のお手伝いをする機会も増えております。翻訳とは異なる分野ではありますが、人のお役に立てる仕事に関わることに大きな意義を感じています。これからも、直接的に誰かの力になれる活動にも積極的に携わっていきたいと思っています。
そして、人との関わりのなかで私が何より大切にしているのは、「約束を守ること」です。
当たり前のことかもしれませんが、私はこれに勝る信頼の土台はないと考えています。時間を守ること、約束したことをきちんと実行すること、人の時間を無駄にしないこと。その積み重ねが信頼につながり、長いお付き合いを生み出していくのだと思います。
翻訳も、人との関係も、一朝一夕で築けるものではありません。これからも誠実さを忘れず、言葉を通じて人と人、文化と文化をつなぎながら、誰かの役に立てる人生を歩んでいきたいと思っています。
観光資源か、当事者の生活か——マオリの事例から考えるアイヌ文化の発信と「文化盗用」の境界線
文化交流と文化盗用の境界はどこにあるのか
娘の肌を守りたい!オーガニックレスキューバーム「ラチャアム」が描く未来
どこでもテーマパークに!エンタメトラックで子供たちに没入体験を
「野菜を食べましょう」では誰も動かない。「正しい情報」を「モノ」に変えるイノベーション
誰かを支える人生から、自分の夢を追いかける人生へ—— “飲めるようなわらび餅”から始まった新しい挑戦
無添加キムチを多くの食卓へ!15年続く韓国料理店とフォロワー17万人のYouTubeを手がける経営者夫婦の躍進
「漫画で日本を元気に」プロレス×ギャグを極めた漫画家のこだわりの仕事術