「野菜を食べましょう」では誰も動かない。「正しい情報」を「モノ」に変えるイノベーション

ワクセル編集部

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医学博士でありベジタブルテック株式会社の代表を務める岩崎真宏(いわさき まさひろ)さん。生活習慣病の医学研究と病院での管理栄養士としての経験を経て、2015年、何もない状態から起業しました。現在手がけるのは、野菜を丸ごと粉末化した「飲む粉野菜」。健康・農業・環境をつなぐ循環型のビジネスを仕掛ける岩崎さんに、起業にいたる原点とこれから描くビジョンを伺いました。

ムンクの『病める子』が教えてくれたこと

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小学校のときは図画工作や漫画、粘土細工に熱中し、一時は建築家や大工さんになりたいと本気で思っていました。そんな私の進む道を決定づけたのは、あるとき美術館で見たムンクの『病める子』という一枚の絵です。

ベッドの上で病に伏せる少女と、その傍らで首をうなだれている母親。じっと見つめているうちに、あることに気づきました。少女自身は、どこか自分の死を受け入れているような無表情を浮かべている。しかし隣の母親は、娘の死をどうしても受け入れられずに絶望している。

人は、自分の健康が壊れても、最後はどこかで納得できる。でも、自分の大切な人が健康を害したとき、なすすべがないという無力感に苛まれる周囲の人こそが、一番つらい。そう気づかされました。

「大切な人を想う人たちを、丸ごと幸せにする、本当に健康にするものづくりがしたい」。この一枚の絵から生まれた価値観が、今も私のビジネスの軸になっています。

形のない「情報」から、生活に入り込む「モノ」への転換

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その後、糖尿病などの生活習慣病がなぜ体の中で起こるのかを追う基礎研究に没頭しました。管理された条件下で動物や細胞を扱う基礎研究では、栄養やホルモンの有無によって、驚くほど綺麗に結果が出ます。

しかし、その後に入った病院という臨床現場は違いました。人間はライフスタイルが多様で、現場には日々の食事のコントロールやコンディション維持に苦労されている患者さんが厳然と存在しているのです。身体の土台を整えるには、まずは日々の食事からアプローチし、内側からの健康維持をサポートすることが何より大切なのではないか。基礎研究の知見と臨床の現場感覚が交差したところに、この仮説が生まれました

ただ、病院にはすでに悩みを抱えてからの方しか来ません。そして、これまでの栄養指導は「これを食べましょう」「あれはやめましょう」という、形のない情報を伝えることしかできていませんでした。患者さんから「じゃあ、具体的に何を買って、何を食べればいいんですか」と問われたとき、必要なのは言葉ではなく、生活に物理的に入り込める具体的な「モノ」なのだと痛感しました。

「エビデンスを蓄積する側に居続けるか、自分で解決策となるプロダクトを作るか」。大学や病院という安定したキャリア、親や教授からの期待を手放し、2015年、まだ商品も何も無いまま、とにかく健康のために野菜を食べられるようにしていこう、流通させていこうという発想だけで会社をつくりました。

野菜に足りなかった「食べ方のイノベーション」

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野菜の価値を「モノ」として届けると決めてから、既存の選択肢が抱える課題を一つひとつ分解していきました。

 ●生野菜:ボリュームの90%以上が水分で、必要な量を物理的に食べきれない

 ●加熱調理:かさは減るが、水を蒸発させる過程で抗酸化作用や機能性が大幅に低下する

 ●野菜ジュース:飲みやすくするために果物や砂糖を加えると、ただの「ジュース」になる

野菜は原始時代から「生で食べる、焼く、煮る」という料理法しか存在せず、肉におけるプロテインのような手軽な食習慣のイノベーションが起きていない領域でした。

私たちが開発したのは、水だけを抜き、空気中でぶつかり合わせて丸ごと粉末化する技術です。水分を極限まで取り除くことで、素材そのものの品質をキープしたまま、栄養の損失も防ぐ。いわば「時を止めた」ような状態で、味やボリュームを気にせず一飲みするだけで、生野菜の栄養を凝縮したサラダ一皿分を効率よく補給できます。

あるユーザーからは、毎日の食生活にこの粉末を取り入れたことで、すっきりとした朝のスタートや、どんよりしがちな毎日のコンディション維持に役立っているというお声をいただいています。また、ご家族や大切なペットの健やかな食習慣のためにこの粉末を活用されている方からは、驚くほど生き生きとした毎日に繋がったという嬉しい反響もありました。まさに「確かな体感」が、家族全体の健康意識をも変えていくおもしろい広がりが起きています。

種植えの瞬間に、廃棄という未来をなくす

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私たちが描いているのは、優れた健康食品を売ることだけではありません。飲み物、和菓子、離乳食など、あらゆる形で野菜を人々のライフスタイルに忍ばせる「野菜のインフラ化」です。

日本の農業では、生産された野菜の約半分が規格外として廃棄されていますが、栄養学の価値で考えれば形が悪くても価値は変わりません。私たちは腐りそうになった野菜を後から買い取るのではなく、農家さんが種植えをする段階で全量買い取りの契約を結んでいます。種は、野菜にとっての子どもたちです。土に植えられた瞬間から、彼らに「廃棄」という未来はなくなり、農家さんの収入も倍にすることができます。

契約している農家さんは、すべて無農薬・有機栽培です。健康のためにこのカプセルを飲む人が増えるほど、無農薬の契約農家さんが増え、微生物が土に戻り、水質も良くなり、日本の土壌そのものが綺麗になっていく。

環境が循環していくことで、精神や心の面でも、人々が本当の意味で健康になっていく未来を目指しています。