元OSK千原輝子|仕事の価値を自分の言葉で伝えるまで

元OSK日本歌劇団で舞台に立ち、現在はSHAON Grace Programを主宰する千原輝子(ちはら てるこ)さん。姿勢や発声、表情といった舞台表現に、香りをきっかけとする自己理解の対話を取り入れ、女性起業家が自分の経験や仕事の価値を、自分の言葉で伝えるための支援をされています。そこには、かつて千原さん自身が「伝えたいのに言葉にできない」という壁にぶつかった経験がありました。
舞台を離れ、言葉を失った

OSK日本歌劇団の舞台では、立ち姿、歩き方、目線、声、表情のすべてを使い、役や物語を観客へ届けます。
スポットライトを浴びる喜びと、失敗できない怖さ。その両方を知る中で、私は「魅せる」とは自分を大きく飾ることではなく、積み重ねてきた経験や覚悟を、相手が受け取れる形で表現することだと学びました。
舞台では、言葉を発する前から、その人の姿勢や表情が見られています。しかし、見た目だけが整っていても、届けたい思いが曖昧であれば、表現は相手の心まで届きません。自分が何を伝えたいのかを理解し、その思いと立ち居振る舞いを一致させることが、舞台に立つ人の土台でした。
ところが舞台を離れた私は、自分の経験を社会の中でどう生かせばよいのか分からなくなりました。
芸の世界しか知らず、経営や一般社会の仕組みも分からない。プロとして舞台に立ってきたにもかかわらず、「これまでの人生は役に立たないのではないか」と落ち込んだ時期もありました。
舞台の上では堂々と立てても、自分が何者で、何ができる人なのかを説明できない。その経験は、現在、仕事やサービスの説明に悩む女性起業家と向き合う際の原点になっています。
経験を自分の言葉に変える

一般社会の常識や仕組みを一つずつ学ぶうちに、私は知らないことを知る面白さを感じるようになりました。
舞台で培った発想力や、簡単には諦めない姿勢を評価してくれる経営者との出会いもあり、「自分にも社会の中で果たせる役割がある」と思えるようになりました。
けれども、次にぶつかったのが「成果と数字の壁」です。
頭の中には「こうすればよくなる」というイメージがあるのに、それを言葉にできない。相手の悩みを聞くことはできても、解決策まで分かりやすく伝えられない。焦るあまり、相手を強引に動かそうとしてしまったこともありました。
思いが強ければ伝わるわけではありません。相手に届く言葉へ整えなければ、どれほど価値のある経験やサービスも、その良さを知ってもらうことはできません。
私自身の失敗から、伝える前に、自分の経験と価値を自分で理解する必要があると気づきました。
転機になったのは、自分にとって当たり前にできることほど、大切な財産だと知ったことです。
姿勢を整えること、声を届かせること、相手の反応を見ながら表現を変えること。それらは私にとって日常でしたが、長年の舞台人生で積み重ねた、簡単には得られない経験でした。
現在は、姿勢、歩き方、発声、表情などを整えるだけでなく、その人が歩んできた道を振り返り、何を大切にし、誰に何を届けたいのかを言葉にすることを重視しています。
香りを嗅いだときに浮かぶ感覚や言葉も、まだ整理できていない価値観や思いを見つめるための、対話の糸口として取り入れています。
仕事の説明ができないとき、足りないのは話術だけとは限りません。自分にとって当たり前すぎて、サービスに込めた経験や思いを、自分自身が価値として認識できていないことがあります。
だから私は、肩書きや商品名を上手に並べることよりも、「なぜこの仕事をしているのか」「どのような経験が今につながっているのか」「誰のどんな力になりたいのか」を、自分の言葉で話せることが大切だと考えています。
伝わる言葉は自分を知ることから

事業が思うように進んでいない女性起業家の中には、自分のサービスを説明しても興味を持ってもらえない、自己紹介で何を話せばよいか分からない、価格を伝えるときに言葉が揺らぐと悩む方もいます。
けれど、誰かの言い回しを借りるだけでは、その人らしい説得力は育ちません。
必要なのは、自分の経験に目を向け、その意味を理解し、相手が受け取りやすい言葉へ丁寧に整えることです。姿勢や声、表情は、その言葉を支える土台になります。
自分の仕事を説明することは、商品やサービスの機能を並べることではありません。
なぜその仕事を始めたのか。どのような経験を通じて、今の考え方にたどり着いたのか。そして、目の前の人にどのような価値を届けたいのか。そこまで自分の中で整理できたとき、言葉と立ち居振る舞いが一つにつながります。
私はこれからも、一人ひとりの「当たり前」の中にある強みを見つけ、その人の仕事と人生が、誇りを持って語れるものになるよう支えていきたいと考えています。
一人で何もかも抱えるのではなく、弱点を知り、強みを伸ばし、補い合える人と進む。その先に、自分たちにしかつくれない仕事が生まれるはずです。
自分の仕事をうまく説明できないと感じたときは、「私には言葉のセンスがない」と決めつけないでください。
まずは、なぜその仕事を選んだのか、これまでのどのような経験が誰かの役に立つのかを振り返ってみてください。
自分の歩みの価値に気づいたとき、借り物ではない言葉が生まれます。
あなたの仕事を最も深く語れるのは、あなた自身です。
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