「社長がいないと判断できない」を変えた60本のスキル

株式会社コミクス

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2026.11.06
column_COMIX Inc

「鈴木さんがいないと判断できないんですよ」。褒め言葉のはずのその一言が、重くのしかかった。株式会社コミクス代表・鈴木章裕(すずき あきひろ)さんが、Claude Codeでスキルを書く作業を通じて10年分の暗黙知を言語化し、1年で60本に積み上げた過程を語る。

「何となく」は誰にも渡せない

見出し1画像嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_株式会社コミクス_なんとなくはだめ

「鈴木さんがいないと判断できないんですよ」。スタッフからそう言われたのは2025年の春だった。褒め言葉なのはわかっている。それでも胸に重くのしかかった。僕がいないと動かない会社は、僕自身が作ってしまった属人化の結果だ。

日々の業務は、判断の積み重ねで成り立っている。この依頼は通常の対応で進めてよいのか。クライアントから想定外の相談が寄せられたとき、どう伝え、どこまで対応するか。前例のない案件に直面したとき、何を優先し、どう進めるか。こうした判断を、僕は10年以上の経験から「何となく」やってきた。

だが「何となく」は伝わらない。「これはBだね」と答えながら理由を毎回説明しても、微妙にケースが違う次の場面で、スタッフはまた聞きに来る。「微妙に違う」の「微妙」を渡しきれていないからだ。

業務フローの整備には何度も挫折した。書き出すと無数の「場合によるが」が出てきて終わらない。その「場合」を全部書けば、マニュアルは分厚くなりすぎて読まれない。結局、「口頭で聞くほうが早い」という文化が残り続けた。

スキルは「使うために書く」言語化

見出し2画像嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_株式会社コミクス_言語化

このジレンマが解けたのが、Claude Codeでスキルを作り始めたときだった。スキルとは、「この種のタスクをどういう手順で、どういう判断基準でやってほしいか」を書いたテンプレートだ。プログラムではなく日本語で書く。曖昧な指示ではClaudeはうまく動かない。そのプレッシャーが、言語化の精度を上げてくれた。

たとえば、面談前の準備だ。以前は「直近の状況は何だったか」「前回何を話したか」を思い出すところから始めていた。Chatworkを遡り、メールを検索し、自分のメモを探す。毎回20〜30分かけていた準備を、スキルとして整理し直した。

対象企業や面談目的、直近の出来事を入力すると、ゴールや確認事項、相手の懸念、伝えるべき情報を整理する。その指示を書く中で、「面談のゴールは関係強化・問題解決・新規提案の3つ」「担当者の立場によって懸念は変わる」という、自分の感覚が初めて文字になった。

受注判断を整理するときも、案件を受けるかどうかだけでは足りない。「スタッフの負荷はどこまで許容しますか」とClaudeに問われると、対応できる範囲や既存クライアントへの影響まで考える必要がある。条件だけでなく「なぜそうするのか」を書いてこそ、基準が使えるものになる。単なる可否の一覧では、状況が変わったときに応用できない。

スキルを書くことは、過去の判断を検証する作業でもある。「少し様子を見る」と決めるなら、いつまで待つか、何が揃ったら動くかまで明確にする。「長い付き合いだから」という感情と、判断の根拠は分けて考える。書き起こして初めて、似たケースで違う判断をしていた矛盾にも気づける。見えなかった判断の癖を修正し、次の対応に生かす。その積み重ねが、判断の一貫性につながっていく。

60本のスキルが組織の知恵になる

見出し3画像嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_株式会社コミクス_組織の知恵

スキルを60本以上作り、組織に共有し続けた1年で変化が起きた。週15〜20件あった「社長への確認」は7〜10件に半減した。削られたのは「基準を知らなかっただけ」の軽い判断だ。出張などで不在の日に来る緊急連絡は、体感で3分の1になった。新人の立ち上がりも、以前の半分の時間で一人前に近い判断ができている。

想定していなかったのは、スタッフが「なぜ」を問い始めたことだ。「このスキルの判断基準、このケースでは違うと思うのですが」という指摘が出てくる。それがスキルの更新につながり、判断基準が組織全体で磨かれていく。最初のスキルには「社長の感覚」がそのまま書かれている。使い込まれると、そこに「スタッフの実戦経験」が積み重なる。スキルが自律的に成長していく感覚だ。

最初の1カ月は5本しか作れなかった。何を書けばいいかわからなかったからだ。3カ月目から加速し、6カ月で30本、1年で60本を超えた。60本とは「60種類の判断基準が言語化された」という意味だ。それ以前の10年間で言語化できたものは、ほぼゼロだった。

完璧に書こうとしなくていい。粗くていいから書いて、使って、更新する。粗くても動くスキルのほうが、完璧なドラフトより100倍価値がある。今日下した判断を一つ、Claude Codeに「なぜそうしたか」と話しかけてみてほしい。5分の対話が、明日の組織の資産になる。

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