「AIに任せると質が落ちる」への、経験からの反論

1年前、3日かけた自信作の提案書が不採用になった。同じ案件をClaude Codeと一緒に作り直すと採用された。株式会社コミクス代表・鈴木章裕が、「AIに任せると質が落ちる」という思い込みが崩れた瞬間について語る。
3日かけた提案書が落ちた日

1年前の春、ある取引先への提案書を自分で3日かけて作った。数字も根拠も揃った自信作だった。結果は不採用。理由を聞くと「熱意は伝わったが、相手の課題に対する解像度が低かった」と言われた。自分では相手の課題を理解しているつもりだったが、実際は「自分の視点から見た相手の課題」を書いていたに過ぎなかった。
その後、同種の案件でClaude Codeを使って提案書を作った。事前に相手企業の課題をClaude Codeと整理し、どこに響く提案にするかを議論して構成を練った。結果は採用。3日かけた自信作は「自分が伝えたいこと」で構成されていたが、Claude Codeとの対話で作った提案書は「相手が知りたいこと」で構成されていた。この違いを生んだのは「相手の特性と懸念を言語化した上で議論した」というプロセスだった。
「1人で全部やる」を手放す3段階

最初は定型作業から任せた。契約企業向けの月次報告書、週次の数字まとめだ。だが最初に作った報告書を見た担当社員から「なんか平凡ですね」と言われた。どの企業向けも同じトーンの「量産品」になっていたのだ。ここで「自分の指示が足りなかった」と考え、受入企業ごとの担当者の特性や気にしているポイントを整理してプロンプトに加えた。この整理作業を通じて、10年以上の取引があるのに担当者をよく知らなかった企業があることにも気づいた。3週間後、同じ社員から「これ、AIで作ったとは思えない」と言われた。
次に、判断軸を組み込んだ半定型作業に進んだ。相手企業の担当者の特性(法的リスクに敏感、費用対効果重視など)を言語化し、複数の角度から提案の切り口を出させる。9つの切り口のうち3〜4つは「その視点はなかった」という発見があった。4カ月目以降は「この提案書の弱点を教えてください」と批判的フィードバックを求める段階に進んだ。人間の部下には気を遣って本音が出てこないことがあるが、Claude Codeは忖度しない。指摘を受けて修正した資料は、明らかに強くなった。
質が上がった理由と自分の盲点

一番実感したのは、疲れているときの判断の質が均一化されたことだ。夕方に疲れながら書いたメールと朝集中して書いた提案書の差が、プロンプトに判断基準を書き込むことで縮まった。委任への恐怖感も変わった。Claude Codeは送信前に「相手への敬意は十分か」「攻撃されやすい箇所はどこか」を確認できる。この習慣ができてから、社外コミュニケーションの失敗が減った。
批判的フィードバックを繰り返し受けるうちに、自分の思考のクセも見えてきた。「相手のリスク認識が甘い」という指摘が多く、熱意が先行して相手の不安を軽視する傾向があると気づいた。「AIに任せると質が落ちる」と思っていた自分が、AIとの対話を通じて自分の思考の弱点を発見した。この逆転が、この半年で一番の発見だった。最終判断は常に自分がする。Claude Codeは判断の材料を整理し、見えていない角度を提示する役割だ。その姿勢さえ忘れなければ、質が落ちる心配は杞憂になる。