「引退が3年延びた」60代経営者の事業承継

株式会社コミクス

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2026.10.20
column_COMIX Inc

「Claude Codeを1カ月触ったら、引退時期が3年延びた気がする」。60代の製造業経営者・山田さん(仮名)の言葉を聞いた株式会社コミクス代表・鈴木章裕(すずき あきひろ)さんが、その支援の過程で見た事業承継のもうひとつの形を語る。

35年分の暗黙知、渡し方がわからない

見出し1画像嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_株式会社コミクス_35年分の暗黙知

山田さんは製造業を35年経営している。会社の強みのほとんどは山田さんの頭の中にあった。どのサプライヤーが安定しているか、取引先の担当者にどう接すれば信頼されるか、クレームが来たときどう対処すれば関係が悪化しないか。後継者候補である40代の息子さんは優秀だが、「引き継ぐ内容」が言語化できていなかった。

以前、経営コンサルタントに依頼したこともあったが、3カ月かけて出来上がったのは業務フロー図と連絡先一覧だけだった。「どう判断するかを説明しようとすると『その場の雰囲気を読む』としか言えず、書けなかった」と山田さんは言う。「なんとなく」を「なぜなら」に変換する問いを、時間と費用のハードルなく出し続けられる存在が必要だった。

「なんとなく」を問いで掘り起こす

見出し2画像嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_株式会社コミクス_なんとなくで掘り起こす

取引先A社への急な仕様変更に無償対応した事例を、Claude Codeに投げかけた。「取引歴は何年か」「他の取引先に知られたらどう影響するか」といった質問に答えていくうちに、「15年の付き合いで3年前に助けてもらった恩義がある」「担当者が今年部長に昇進した」といった、山田さん自身も気づいていなかった判断の背景が言葉になった。

週2回、30〜40分のインタビューを続けると、判断には「関係性の長さと深さ」「相互依存の度合い」「将来性への期待」という3つの軸があることがわかってきた。これを「取引先対応ガイドライン」として文書化し、同様の手法で仕入れ交渉やクレーム対応、採用判断のガイドラインも作成。3カ月で合計60ページを超える「経営判断マニュアル」ができた。

ガイドラインが「対話の道具」になった

見出し3画像嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_株式会社コミクス_対話の道具

ここで終わらなかったのが要点だ。息子さんが実際に判断した事例を毎週金曜15分でClaude Codeに入力し、月に一度「ガイドライン更新セッション」を行う仕組みを作った。3カ月後、ページ数は78ページに増え、基礎編から応用編・例外対応編へと厚みを増した。

以前は「A社はこうした方がいい」で終わっていた親子の会話が、「ガイドライン第3章のパターンで考えたけどどうか」「そのパターンは合ってる、ただA社は関係性が深いから——」という、根拠のある対話に変わった。山田さんは「自分がいなくても判断が残る」という安心感を得て、引退への焦りが消えた。「引退が3年延びた」は、諦めではなく余裕を持って引き継げる準備が整った、という意味だった。言語化された仕事の哲学は採用面接でも使われるようになり、「この会社の姿勢が好き」という応募者が増えたという。

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