コーヒーの向こう側にある世界!アジアと日本をつなぐ挑戦

外国人投資家の進出支援からベトナムコーヒーの普及まで、「日本と海外をつなぐ」3つの事業を展開する起業家、泉舘英美(いづみだて ひでみ)さん。地域差や国境を越えた数々の“違い”と向き合う中でたどり着いた、文化を繋ぐ本質とは。国や価値観の壁を感じているあなたに届けたい、一杯のコーヒーから始まる新たな出会いとビジネスの可能性に迫ります。
「海外と日本をつなぐ」その想いから生まれた3つの事業

「コーヒーの事業をされているんですよね?」
そう聞かれることが多いのですが、実は今の私の事業の中心はコーヒーそのものではありません。もちろんコーヒーにも力を入れていますが、根底にあるテーマはもっと大きくて、「海外と日本をつなぐこと」です。
現在、主に3つの事業を展開しています。ひとつ目は、外国人投資家の日本進出支援です。海外の方が日本で会社を設立し、店舗を開業し、事業を軌道に乗せるまでをサポートしています。外国人が日本でビジネスを始めるのは、想像以上に大変です。不動産契約の問題、言葉の壁、各種手続き、人材採用など、事業を始める前からさまざまな課題があります。もちろん士業の先生や不動産会社が解決できる部分もありますが、それだけでは事業は回りません。店舗をオープンして終わりではなく、その後きちんと運営できるかどうかが重要です。私たちはそうした部分まで含めて伴走しながら支援しています。ありがたいことに需要も増えてきたため、2026年3月に法人化しました。現在はアジア圏の企業が運営するカフェの立ち上げプロジェクトも進んでいて、私たちはその開業支援を担当しています。
二つ目は輸出支援です。ベトナムのホーチミンに拠点を持っているのですが、現地にはBtoBのマッチングプラットフォームがあります。そこに日本の商品を掲載し、海外バイヤーとの接点をつくる事業を行っています。海外展開というと、大きな企業だけの話に聞こえるかもしれません。しかし実際には、良い商品を持ちながら海外への販売ルートがない企業も少なくありません。そういった企業と海外市場を結びつける役割を担っています。
そして三つ目がコーヒー事業です。これはベトナムに拠点ができたことがきっかけでした。現地の人とのつながりからコーヒー農園を訪れる機会があり、そこで大きな衝撃を受けたんです。農園はホーチミンからバスで5時間ほど。最初は「3時間くらいですよ」と言われていたので軽い気持ちで向かったのですが、実際はなかなかの長旅でした。でも、その先に広がっていた景色は本当に素晴らしかったです。高原地帯の自然豊かな地域で、空気も澄んでいて、まさに秘境のような場所でした。そこで見たのは、無農薬で丁寧に育てられるコーヒーの木々です。葉が強い日差しで傷まないように高い木で囲う「シェードツリー農法」を採用していて、農園の地面にはアリがたくさん歩いていました。自然の生態系がそのまま残っているんですね。その後は焙煎工場や選別工場も見学しました。実際に現場を見る中で感じたのは、「品質は細部で決まる」ということでした。良い豆を作るだけではなく、選別や管理にも徹底的にこだわる。その姿勢に強く惹かれたことが、コーヒービジネスを始めたきっかけになっています。
世界を広げたのは海外ではなく、「違い」を受け入れる経験だった

私が海外に興味を持った原点は、実は子どもの頃にあります。出身は岩手県盛岡市です。自然豊かで素晴らしい場所ですが、中学生くらいの頃から「もっと広い世界を見てみたい」と思っていました。もちろん地元が嫌いだったわけではありません。ただ、もっといろいろな人と出会いたい。もっと知らない世界を見たい。そんな気持ちがずっとあったんです。
とはいえ、いきなり海外へ行けるわけではありません。まずは東京へ出ようと思い、進学しました。そして就職したのが石油関連の会社でした。理由は単純で、「海外と関われそうだったから」です。実際、その業界は海外出張の機会も多く、若いうちからさまざまな国へ行く経験ができました。その後はアメリカ系企業へ転職し、海外営業や国際物流などの仕事に携わるようになります。そうした経験を積み重ねる中で、現在のベトナムとの縁につながっていきました。よく「海外へ出て人生が変わりましたか?」と聞かれるのですが、答えは間違いなく「はい」です。ただ、海外へ行った瞬間に劇的に変わったわけではありません。むしろ少しずつ世界が広がっていった感覚なんです。岩手から東京へ出たときもそうでした。北海道出身の人がいて、九州出身の人がいて、沖縄出身の人がいる。同じ日本でも価値観や文化が全然違うことに驚きました。さらに大阪へ転勤したときには、「なんでこんなに違うんだろう」と戸惑うこともありました。
当時は受け入れられないこともありましたが、今振り返ると、それも大切な経験だったと思います。海外へ行くようになってからは、もっと多くの違いに出会いました。文化も習慣も考え方も違う。最初は驚くことばかりでしたが、次第に「違って当たり前」と思えるようになっていったんです。むしろ違いを面白いと思えるようになった。それが今の仕事にもつながっています。海外ビジネスというのは、結局のところ文化と文化をつなぐ仕事です。相手を理解しようとする姿勢がなければ成立しません。だから私は今でも、「世界を広げる」というより、「違いを受け入れること」が海外との仕事の本質だと思っています。
一杯のコーヒーから始まる、新しい出会いの形

私が扱っているベトナムコーヒーには、大きな可能性があると思っています。日本のコーヒーショップに行くと、ブラジルやコロンビア、エチオピア、ケニアといった産地はよく見かけます。でもベトナム産はほとんど見かけません。ところが実は、ベトナムは世界第2位のコーヒー生産国なんです。ブラジルに次ぐ生産量を誇り、長いコーヒー文化を持っています。フランス統治時代からコーヒー文化が根付き、今でも街には現地独自のコーヒーショップが数多くあります。アジアでは有名なのに、日本ではまだそれほど知られていない。だからこそ面白いと思うんです。これまでベトナムコーヒーは「苦いだけ」というイメージを持たれることもありました。ロブスタ種中心だったことも理由の一つです。しかし近年は品質向上が進み、アラビカ種も増えてきました。丁寧に管理された豆は、フローラルな香りと蜂蜜のような甘みを持ち、非常にバランスの良い味わいになります。また、私が特に重視しているのが豆の選別です。コーヒー豆はサイズが揃っていないと焙煎にムラが出ます。小さい豆は焦げ、大きい豆は火が通らない。その結果、雑味のあるコーヒーになってしまいます。だからこそ、しっかり選別された豆を使うことが重要なんです。そうすることで後味のすっきりした、クリアなコーヒーになります。
ただ、私が本当にやりたいことはコーヒーを売ることだけではありません。コーヒーを通じて人と人をつなげたいんです。実は個人的に小さな交流会を開催しています。そこで感じるのは、名刺交換だけの交流会は少し疲れてしまうということです。もちろんビジネスの出会いは大切です。でも、もっと自然に話せる場があってもいいのではないかと思っています。コーヒーを飲みながらゆっくり話す。お互いの背景や考え方を知る。その中で信頼関係が生まれ、新しい挑戦が始まる。そんな場をつくりたいんです。そして将来的には、そのコミュニティを海外ともつなげていきたいと思っています。海外から日本へ来る人。日本から海外へ挑戦したい人。その両者がコーヒーをきっかけに出会い、新しい価値を生み出していく。形は違っても、三つの事業に共通しているのは、日本と海外の間に立ち、事業が実際に動き出すところまでつなぐことです。
私にとってコーヒーは商品であると同時に、コミュニケーションツールです。一杯のコーヒーの向こう側には、人との出会いがあり、文化の交流があり、新しいビジネスの可能性があります。だからこれからも私は、コーヒーを通じて海外と日本をつなぎ続けたいと思っています。小さなカップの中に広がる大きな世界を、もっと多くの人に届けていきたいのです。