文化交流と文化盗用の境界はどこにあるのか

筆者は、ニュージーランドへの留学中に、学校の文化イベントで日本文化が自身の知るものとは異なる形で紹介されている場面を目にしたことをきっかけに、文化交流と文化盗用の境界について関心を持つようになりました。自身もマオリの友人から贈られたtokiを、その意味を学んだうえで身につけた経験を持ち、文化流用やマオリ文化の研究者、日本とインドの文化交流に携わる実践者、ファッションローを専門とする弁護士への取材を通して、敬意ある文化交流のあり方を探っています。筆者が文化交流と文化盗用について考えるに至った経緯について話を伺いました。
ニュージーランドへの留学中、学校の文化イベントで、日本文化が私の知るものとは異なる形で紹介されているのを見た。違和感を覚えた一方、生徒たちは好意や関心から日本文化を取り入れていたため、単に「間違い」と否定することにも疑問を感じた。また、私自身もマオリの友人から贈られたtokiを、その意味を学んだうえで身につけていた。そこで、敬意ある文化交流と文化盗用は何によって分けられるのか、調べることにした。
私はこの問いを考えるため、文化流用やマオリ文化を研究する研究者、日本とインドの文化交流に携わる実践者、ファッションローを専門とする弁護士に話を伺った。
取材から分かったのは、文化交流と文化盗用の間には、誰にでも当てはまる明確な境界線がないということだ。個人が異文化への関心からサリーや着物を身につけることは、その文化を知る入口になり得る。一方、企業が伝統的なデザインを商品や広告に利用して利益を得る場合には、より大きな責任が生じる。

その例が、Pradaがインドの伝統的な履物であるコルハープリー・チャッパルに似たサンダルを発表した事例である。世界的ブランドが伝統文化を取り入れることは、その文化を広める機会にもなる。しかし、企業だけが利益を得て、文化の由来や、それを継承してきた職人の存在が見えなくなるなら、対等な文化交流とは言いにくい。文化の出典を示すだけでなく、現地の職人との対話や協働、利益の還元まで考える必要がある。
弁護士への取材では、法律だけでは伝統文化を十分に守れない場合があることも分かった。特定の作者ではなく、共同体の中で長年継承されてきた文様などは、日本の著作権制度では保護が難しいことがある。つまり、違法ではないことが、文化的・倫理的にも問題がないことを意味するわけではない。そのため、文化を利用する前の対話や契約、企業が参照できるガイドラインが必要になる。
また、文化を分かりやすく伝えることが、固定観念につながる危険もある。文化交流の実践者によると、日本ではインド文化が「カレー」「ヨガ」「サリー」などの印象的な要素で紹介されやすい。しかし、実際には地域、宗教、言語によって多様である。分かりやすい表現は文化に関心を持つ入口になる一方、それだけが繰り返されれば、「インド人は皆こうである」という誤解を生みかねない。「インドでは」と一括りにせず、どの地域やコミュニティーの文化なのか、誰の視点から伝えているのかを示すことが重要である。
取材内容から、他文化を取り入れる際には五つの視点が必要だと考えた。それは、文化を使う「目的」、意味や歴史への「理解」、固定観念を広めていないかという「表現」、当事者との「対話」、商業利用によって生じる「利益」の行方である。
ただし、この五つを満たせば必ず問題がないわけではない。同じ文化の当事者の間でも意見は異なるからだ。また、一人の当事者だけに文化全体の意見を代表させれば、その人に負担や責任が集中する可能性もある。この五つは文化を外部の人だけで評価するための基準ではなく、複数の当事者との対話を始めるための問いとして捉えるべきだろう。
文化の伝え方を考えるうえでは、メディアの使い分けも重要である。SNSは若い世代に届きやすい一方、短く印象的な表現によって文化が単純化されやすい。そこで、SNSを問題に関心を持つ入口として活用し、記事では歴史的背景や当事者の異なる意見を詳しく伝えるという組み合わせが効果的だと考える。
文化盗用を恐れて異文化に触れないことが解決なのではない。しかし、「好きだから」「悪意がないから」という理由だけで、文化の意味や、それを受け継いできた人々を無視してよいわけでもない。文化交流と文化盗用の境界が曖昧だからこそ、目的、背景への理解、表現の影響、当事者との対話、利益の行方を問い続ける必要がある。
本当の文化交流とは、外部の人が文化を一方的に紹介することではなく、その文化を受け継いできた人々も発信や意思決定に参加できる形で共有することではないだろうか。今後は、日本文化そのものを一つの均質なものとして扱っていないかにも目を向け、アイヌ文化が国内外で誰によって、どのように発信されているのかを当事者への取材を通して考えていきたい。
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