「1on1ミーティング」が逆効果になる理由。アドラー心理学が明かす部下の本音を引き出せない上司の共通点

アドラー心理学を用いた、子育て・起業・自己実現サポートを行う、あいさんの連載コラムです。「1on1ミーティング、やってるけど効果がない…」そう感じたことはありませんか?私もかつて、大手広告代理店の企業文化改革チームリーダーとして、多くの管理職の方々からこんな声を聞いていました。今回は、アドラー心理学が明かす「1on1が逆効果になる理由」と、部下の本音を引き出す「横の関係」構築法について、企業研修での実例を交えながらお伝えします。
「1on1を導入したけど、部下が本音を話してくれない」 「毎回、形式的な報告で終わってしまう」 「何を話せばいいのか分からない、と部下に言われた」
実は、2023年のHR総研の調査によると、1on1を導入している企業のうち、約7割が『期待した効果が得られていない』と回答しています。
なぜ、こんなにも1on1が形骸化してしまうのでしょうか?
そんな時、私はアドラー心理学の言葉を思い出しました。
「『縦の関係』のまま対話しても、部下の本音は引き出せない」
1on1が失敗する理由…それは、上司が『褒める』『アドバイスする』という『縦の関係』から抜け出せていないからだったのです。
今回は、アドラー心理学が明かす「1on1が逆効果になる理由」と、部下の本音を引き出す「横の関係」構築法について、企業研修での実例を交えながらお伝えします。
1on1は形骸化!?「褒める」「アドバイスする」が部下の心を閉ざす理由

まず、なぜ1on1ミーティングは形骸化してしまうのでしょうか?
私が企業研修で出会ったAさん(40代・課長職)は、こう悩んでいました。
「1on1で部下を褒めているのに、なぜか距離が縮まらない。むしろ、部下が表面的な返事しかしなくなった」
Aさんは、人事部から「1on1では部下を褒めて、モチベーションを上げましょう」と指導されていました。だから、毎回こう声をかけていたのです。
「今月の営業成績、良かったね! その調子で頑張って!」
でも、部下は「ありがとうございます」と返すだけで、それ以上の会話が続きませんでした。
なぜでしょうか?
アドラー心理学では、「褒める」という行為は、実は『縦の関係』を強化すると指摘します。
アドラーはこう述べています。
「褒めるということは、能力のある者が、能力のない者に下す評価である」
つまり、「褒める」という行為には、『上司=評価する側、部下=評価される側』という上下関係が暗黙に含まれているのです。
部下は、褒められることで、こう感じます。
「自分は、上司の期待に応えなければならない」 「本音を話したら、評価が下がるかもしれない」
だから、部下は表面的な返事しかしなくなるのです。
心理学者のエドワード・デシ(Edward Deci)とリチャード・ライアン(Richard Ryan)が提唱した自己決定理論(Self-Determination Theory)でも、外部からの評価(褒める)は、内発的動機を低下させることが示されています。
同じように、「アドバイスする」という行為も、縦の関係を強化します。
例えば、部下が「最近、チームの雰囲気が良くないんです」と悩みを打ち明けた時、上司がこう返したとします。
「それなら、もっとコミュニケーションを取るべきだね。ランチに誘ってみたら?」
一見、親切なアドバイスに見えますが、実は部下はこう感じています。
「上司は、私の話を聞いてくれていない」 「結局、答えを押し付けられただけだ」
アドラーはこう警告します。
「アドバイスは、相手の課題を奪う行為である」
部下が求めているのは、答えではなく、自分の気持ちを受け止めてもらうことなのです。
私が目撃した「1on1失敗事例」縦の関係が部下を追い詰めた瞬間

私が企業研修で衝撃を受けたのは、ある企業のBさん(30代・係長職)のケースでした。
Bさんは、部下のCさん(20代)と1on1をしていました。Cさんは、最近パフォーマンスが落ちており、Bさんは心配していました。
1on1で、Bさんはこう切り出しました。
「最近、元気ないね。何か困ってることある?」
Cさんは、少し躊躇した後、こう答えました。
「実は、今の仕事が自分に向いていないんじゃないかと思っていて…」
その瞬間、Bさんはこう返しました。
「何言ってるの! あなたは優秀なんだから、自信を持って! もっと頑張れば絶対できるよ!」
Cさんは、それ以上何も言わず、「はい、頑張ります」とだけ答えました。
後日、私がCさんに個別にヒアリングした時、Cさんはこう言いました。
「本当は、もっと話したかったんです。でも、上司に『頑張れ』と言われた瞬間、『やっぱり話しても無駄だ』と思いました」
これが、「縦の関係」が生む悲劇です。
Bさんは、善意で励まし、アドバイスしたつもりでした。でも、Cさんにとっては、「自分の気持ちを否定された」と感じたのです。
アドラーはこう述べています。
「他者の悩みに対して、すぐに解決策を提示することは、相手を無能だと見なしているに等しい」
心理学者のカール・ロジャーズ(Carl Rogers)も、「人は、アドバイスを求めているのではなく、共感を求めている」と指摘しています。
実践!アドラー流「横の関係」で部下の本音を引き出す1on1の3ステップ

では、どうすれば部下の本音を引き出せる1on1ができるのか?
私が企業研修で実践し、効果があったアドラー流「横の関係」構築法の3ステップをご紹介します。
ステップ1: 「褒める」ではなく「承認する」存在を認める言葉を使う
まず、「褒める」を「承認する」に変えることです。
×「今月の営業成績、良かったね! その調子で頑張って!」(褒める=評価)
○「今月、◯◯に取り組んでくれたんだね。ありがとう」(承認=存在を認める)
この違いは何でしょうか?
「褒める」は、結果や成果を評価しています。 「承認する」は、その人の行動や努力そのものを認めるのです。
アドラーが提唱する「勇気づけ(Encouragement)」とは、結果ではなく、プロセスや存在そのものを認めることです。
例えば、
- 「あなたが、チームのために動いてくれたこと、気づいていたよ」
- 「あなたが、試行錯誤している姿を見ていたよ」
- 「あなたがいてくれて、チームが助かっているよ」
これらの言葉は、「あなたの存在そのものに価値がある」というメッセージを伝えます。
私が研修で指導したAさんは、この言葉に変えてから、部下が少しずつ本音を話すようになったと報告してくれました。
ステップ2: 「アドバイスする」ではなく「問いかける」課題を奪わない
次に、「アドバイスする」を「問いかける」に変えることです。
×「それなら、もっとコミュニケーションを取るべきだね」(アドバイス=答えを押し付ける)
○「あなたは、どうしたらいいと思う?」(問いかける=一緒に考える)
アドラーが提唱する「課題の分離(Task Separation)」では、部下の課題は、部下自身が解決することが重要です。
上司の役割は、答えを与えることではなく、部下が自分で答えを見つけられるようにサポートすることです。
私が指導したBさんは、Cさんとの1on1で、こう問いかけました。
「今の仕事が向いていないと感じているんだね。それは、どんな時に感じる?」
すると、Cさんは、少しずつ自分の気持ちを話し始めました。
「営業の数字を追うことがプレッシャーで…。本当は、もっとお客さんと深く関わる仕事がしたいんです」
Bさんは、さらに問いかけました。
「なるほど。じゃあ、今の仕事の中で、そういう要素を増やすには、どうしたらいいと思う?」
Cさんは、自分で考え、「既存顧客のフォローアップに時間を使いたい」と答えました。
この対話を通じて、Cさんは自分で解決策を見つけたのです。
心理学者のナンシー・クライン(Nancy Kline)も、著書『Time to Think』の中で、「質問こそが、人の思考を深める最も強力な手段である」と述べています。
ステップ3: 「評価の場」ではなく「対等な対話の場」にする横の関係を体現する
最後に、1on1を「評価の場」ではなく「対等な対話の場」にすることです。
アドラーが提唱する「横の関係(Horizontal Relationship)」とは、上司と部下が、対等な立場で対話することです。
具体的には、
- 「私も同じような経験があるよ」と自己開示する
- 「あなたの意見を聞かせてほしい」と対等な立場で聞く
- 「一緒に考えよう」という姿勢を示す
私が指導したAさんは、1on1の最初にこう伝えるようにしました。
「この時間は、評価の場じゃないよ。あなたの話を聞かせてほしい。私も一緒に考えたいから」
この一言で、部下の表情が変わったそうです。
心理学者のエイミー・エドモンドソン(Amy Edmondson)が提唱する「心理的安全性(Psychological Safety)」でも、上司が弱さを見せること、対等な立場で対話することが、チームの信頼を生むとされています。
【まとめ】 1on1は「縦の関係」から「横の関係」へ
1on1ミーティングが形骸化する理由は、「縦の関係」のまま対話しているからです。
「褒める」「アドバイスする」という行為は、一見親切に見えますが、実は部下の本音を引き出すことを妨げているのです。
アドラー心理学が教えてくれた最も大切なことは、「横の関係」で対話すること。
「承認する」「問いかける」「対等な対話をする」この3つを実践した時、1on1は初めて、部下の本音を引き出す場になります。
あなたも今日から、1on1を「評価の場」から「対等な対話の場」に変えてみませんか?
その一歩が、部下との信頼関係を築き、チーム全体を活性化させる大きなきっかけになるはずです。
【著者プロフィール】 あい / アドラー心理学講師・著者 2児の母。アドラー心理学の実践で、たった3カ月で家族崩壊から家族円満へ変化。2024年起業。「思考のクセ診断」を開発し、100名以上の子育て・自己実現をサポート。関西・大阪万博登壇。国際アドラー心理学会(IAIP ASIA2026)日本代表。10カ月連続ベストセラー著書『アドラー流子育てやってみた』。Instagram: @ai_sensei_0310
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