何度言っても社員が自分から動かない。ならば、何を問う?―「もっと主体的に」ではなく、考えるきっかけを日常に置く―
士総合研究所を経て独立し、官公庁や医療機関等のコンサルティングを手がけ、多数の著書を持つ染矢隆彦(そめや たかよし)さんの連載コラム第2回です。
指示待ちの部下に「もっと主体的に」と伝えても動かないのはなぜか。自発性を引き出すために日常へ置くべき“小さなきっかけ”を考えます。
「もう少し自分から動いてほしいんだけどな」

経営者や管理職の方と話していると、よく出てくる言葉です。
指示された仕事はやる。頼まれれば対応する。でも、こちらから言わなければ動かない。会議でも発言は少ない。困っている同僚がいても、誰かが声をかけるまで様子を見ている。
そこで上司は言います。
「もっと主体的に動こう」
「自分で考えて行動して」
「指示待ちじゃダメだよ」
もちろん、言っていることは正しい。
ただ、少し不思議なのは、「自分で考えて」と言いながら、何を考え、どう動くかまで上司が指示してしまうことです。
本人からすれば、
「主体的にって、具体的に何をすればいいんだろう?」
となってしまう。
自発性は、「自発的に動け」と言われたから生まれるものではないのかもしれません。
「自発性」は大きな行動だけではない

「自発的な社員」と聞くと、大きな提案をしたり、新しい企画を立ち上げたり、リーダーシップを発揮したりする姿を想像しがちです。
でも、実際の仕事の中にある自発性は、もっと小さいものです。
頼まれる前に資料を準備する。
自分から挨拶する。
困っている人に声をかける。
気づいたことを一言共有する。
わからないことをそのままにせず確認する。
こうした小さな行動も、すべて「自分から動いた」です。
ところが「主体的に動こう」という言葉は抽象度が高いため、本人が自分の日常の行動まで翻訳できないことがあります。
そこで、言葉を少し変えてみます。
「もっと主体的に動いてください」
ではなく、
「今日、自分からひとつ動くなら?」
と問う。
すると、一瞬でも自分の今日の仕事を思い浮かべます。
「朝一番であの人に確認しておこうかな」
「会議の資料を先に見ておこう」
「昨日困っていた人に声をかけてみよう」
大きな変化ではありません。
でも、自分で考え、自分でひとつ選ぶ。
私は、この小さな経験の積み重ねが、自発性を育てる入口だと考えています。
朝の問いで、一日の方向を少し整える

たとえば出勤時、15秒だけこんな問いに答えてもらいます。
今日、自分からひとつ動くなら? 🌞
① まずひとつ着手してみる 🚀
② 先に挨拶してみる 👋
③ 気づいたことを声に出す 💬
④ ひとつ先回りして動く ⏩
⑤ 今日はまず様子を見てみる 👀
大切なのは、正解を決めることではありません。
①を選んだから偉い。⑤だから消極的。そういう評価をするための問いではありません。
問いを見た数秒間だけでも、
「今日はどうしよう?」
と本人の頭が動くことに意味があります。
そして5択にすることで、「ゼロから答えを考えてください」よりも負担を小さくできます。
選択肢を見ながら、
「あ、それならできそう」
と思える。
問いナッジでは、この“小さく選べること”をかなり大切にしています。
夜は「できなかった」ではなく、「できた瞬間」を探す

夜には問いを少し変えます。
今日は、自分から動けた瞬間は? 🌙
① 自分から声をかけられた 💬
② 気づいてすぐ動けた ⚡
③ ひとつ先回りできた ⏩
④ 最後までしっかりやれた ✅
⑤ 今日は特に思い出せなかった 🤫
ここでも、評価はしません。
目的は、「今日、自分から動けた瞬間ってあったかな」と振り返ることです。
朝に問いを見る。
仕事の中で少し意識する。
夜に振り返る。
たったこれだけです。
でも、「自発性」という大きく曖昧なテーマが、一日の中の具体的な行動へ下りてきます。
そして、自分から動けた経験を自分自身で見つけられれば、
「自分も意外とやっているな」
という感覚も生まれます。
自発性を育てるには、できていないところを指摘し続けるだけでなく、すでに起きている小さな自発行動を本人が認識することも大切です。
「何度言っても動かない」の前に、問いを変えてみる

社員が自分から動かないとき、本人の意欲や性格の問題と考えてしまうことがあります。
もちろん、個人差はあります。
ただ、その前に考えてみたいことがあります。
その職場には、社員自身が考えるきっかけがどれくらいあるでしょうか。
上司が答えを伝え、手順を決め、確認し、修正する。それを毎日繰り返していれば、社員が「言われたことを待つ」ようになるのも不思議ではありません。
だからといって、突然、
「今日から全部自分で考えて」
では困ります。
まずは小さな問いからでいい。
「今日、ひとつ前に進めるなら?」
「誰かに声をかけるなら?」
「ひとつ先回りするとしたら?」
「今日、自分からできることは?」
答えを教える回数を少し減らして、問いを置く回数を少し増やす。
社員を外から動かすのではなく、本人の中にある「考えてみる」を起動する。
問いナッジが目指しているのは、そこです。
次回は「管理職が抱え込みすぎる職場」
今回は、社員の自発性をテーマに考えてみました。
ただ、社員が自分から動かない職場を見ていると、その反対側で、管理職が何でも抱え込んでいることも少なくありません。
部下に任せられない。
結局自分でやってしまう。
忙しいから教える時間もない。
そして、さらに仕事が集まってくる。
では、そんな管理職に、
「もっと部下に任せてください」
と言うだけで変わるでしょうか。
次回は、「管理職が抱え込みすぎる職場に、どんな問いを置く?」をテーマに考えてみたいと思います。
職場にひとつ、いい問いを。
指示をひとつ減らして、問いをひとつ増やしてみる。そこから小さな変化が始まるかもしれません。