聴覚障がい者の雇用状況と改善することによる経済効果

高野 恵利那

高野 恵利那

2024.05.17
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こんにちは!みみトモ。ランド代表の高野恵利那です。前回は杉山祥子さんが日本の当事者支援の未熟さと聴覚障がい者の雇用の実情について解説してくれました。
今回は、前回の聴覚障がい者の退職状況の特徴として、コミュニケーションエラーが背景にあることを踏まえた上で、より具体的な数字と当事者の雇用問題を解決することによる経済効果の見込みについてお話ししたいと思います。このシリーズは全部で3回と書いたのですが、ちょっと超えてしまいそうです。もうしばらくお付き合いお願いします!

年齢別聴覚障害者の雇用状況について

前回の記事では、聴覚障がい者は情報保障が足りていない現状から、コミュニケーションエラーを引き起こしやすく、存分に能力を発揮できない状況があることを話しました。そのことは実際に雇用者割合と収入にも現れていると考えられます。

見出し1画像_嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_ 高野恵利那さん

上記グラフを見ると20~39歳の聴覚・言語障がい者に占める雇用者の割合は同年齢階層人口に占める雇用者の割合よりも高いことが分かります。しかし、40歳以上の年齢で雇用者数が減っています。

この背景について、前回お話しした転職・退職の背景にある不十分な情報保障以外にもうひとつ挙げられます。

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実は一般の人の労働時間と変わらないのに、聴覚障がい者の収入はかなり低い現状があるのです。上記の図表より、全体平均で聴覚障がい者は健常者の76%程度しか収入がありません。

前回の記事で収入が上がらない理由として賃金・労働条件を挙げました。労働条件には情報保障が含まれています。十分な情報が入ってこないため、昇給や人間関係構築の機会など、さまざまなチャンスを閉ざされてしまい、転職や退職に追い込まれやすい現状があります。

実際に「聴覚障がい者では、他の障がい者に比べて正社員率が7割程度と高いものの転職経験は4割程度であり、2~3回の転職を繰り返す者が多い」と報告されています。(参考文献:笠原桂子、廣田栄子 若年聴覚障害者における就労の満足度と関連する要因の検討 Audiology Japan 59, 66~74, 2016年)

※大卒当事者が多いアンケート結果のため偏りはあるかと思います。

転職率の高さ・収入の低さ・情報の不足と40歳以上の年齢で雇用者数が減っていることは関連があると私は考えています。情報が不足していることで、仕事も人間関係も上手くいかずに転職を重ねてしまう聴覚障がい者が多いため、必然的に昇給が見込めず、健常者の就労よりも年収が低くなっていると考えます。

また、年齢が上がると企業が求めている若い人材でもないことから、40歳以上の雇用率が減り50~59歳の雇用率で一気に下がっていると予測できます。

ここまでのお話は、障がい者手帳のある聴覚障がい者しか数値が出ていないため、手帳がない人まで含めると実際の数値がどう変化するかは分かりません。

しかし、手帳がないから困っていないのではと考える方もいるかもしれませんが、そもそも日本の手帳の基準がWHOに比べてかなり厳しい水準であるため、手帳がない当事者にとっても、同様の現象が起きているのではないかと私の経験から推測しています。

結論として、実際の数字からも聴覚障がい者は、情報保障がしっかりある職場で収入が十分に保障されている環境で働くことができていないことが予測されます。そのため、健常者よりも長く働き続けることができず、年齢が上がるにつれて働く場所も収入も減っていくことが考えられます。

当事者の雇用問題を解決することによる経済効果

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前章で述べた背景から、当事者の働きやすい環境を整えることは、当事者が能力を発揮して働くうえで必要だと私は考えています。しかし、企業側からするとひとつの会社で働く人たちの中で聴覚障がい者の割合は低いのに、少数派のために働きやすい環境を整えるための設備や時間への投資効果はあるのかというところが気になりますよね!

そんな方々にはぜひ以下の表をじっくり見てもらいたいです。

見出し4画像_嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_ 高野恵利那さん

引用:https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2019/05/seiken_190510_1.pdf

聴覚・言語障がいのある雇用者の増加・賃金水準の上昇によって、財政への影響の合計金額に注目してください。

・国に入る直接税収入増加額は約45億円
・国に入る社会保険料徴収増加額は約84億円
・国が支払っている障害基礎年金の停止額が約44億円

つまり、総額173億円が国にとってプラスになるわけです。今まで失っていたお金が億単位で国の収入になることを考えると、かなりの経済効果があることが分かりますよね!

当事者が働きやすい環境を整えることは、私たち聴覚障がい者だけにプラスになるのではなく、社会全体にとって取り組む意義があることだと私は考えます。

まとめ

・聴覚障がい者は情報保障が不十分なことによって転職率が高く、年齢が上がるにつれて働く場所も収入も減ってしまう
・当事者が働きやすい環境を整えることで173億円の経済効果がある

次回は、メタバースの将来展望と、そこに障がい者雇用を掛け合わせていくことの秘められた可能性についてお伝えしていきます!

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