リーマンショックを機に起業した男性のサステナブルな挑戦。『茶の実オイル』で推進する地域活性化

山田 たいじゅ

山田 たいじゅ

2024.09.02
column_top_(Taiju Yamada)

リーマンショックを機に60歳手前で独立し、現在『たねのしずく研究所』を運営している山田たいじゅさん。茶の実から生まれる茶の実オイルを原料茶実採取から製造・販売まで担っていて、2021年にはサステナブルコスメアワードで企業部門・地方創生賞を受賞されています。「茶の実にかける情熱は誰にも負けない」と語る山田さんに、その行動の原動力や、茶の実の魅力について伺いました。

リーマンショックを機に起業。耕作放棄された茶畑を有効活用

見出し1画像_嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_ 山田たいじゅさん

『たねのしずく研究所』では、地域の高齢者の方々と耕作放棄された茶畑で、茶の実を採取して乾燥し、原料に調製し搾油しています。茶の実を使った食用油の製造は自社で行っていますが、スキンケア製品についてはオーガニック化粧品専業の化粧品OEMに製造委託しています。また化粧品原料として茶の実オイルの需要が高まっており、化粧品OEMに茶の実を原料として提供しています。

名古屋で生まれ育った私は、大学進学を機に東京へ移り、30年近く会社員として働きました。リーマンショックをきっかけに両親の故郷である岐阜に戻ってきたのですが、そこで絶滅の危機に瀕しているざいらい茶畑の存在を知りました。そこで茶畑について色々と調べる中で、茶の実というものが全く利用されておらず、さらに耕作放棄された茶畑に実がたくさん生ることを知りました。この資源を無駄にせず何か役立つことができないかと考え事業をスタートしたのです。

現在では、茶畑の再利用を進めながら、地域の方々や就労支援施設と連携して活動を展開しています。元々このような大きな計画があったわけではなく、最初は茶の実の成分を分析し、その利用価値を探ることから始めました。リーマンショックで失業し60歳近くでの再就職が難しかったため「何かしなければ」という思いがこの事業の原動力となりました。

最も苦労しているのはスキンケアオイル・関連商品の一般消費者向けの直販・イベントなどでの対面販売です。食品・化粧品メーカーなどとのB2B取引は数字の世界なので進めやすいのですが、一般消費者向け販売では使用感などの感性がより重要になり、男性である私がお客様の体験を共有しにくいなど厳しい場面が多くあります。男性である私がスキンケア商品を販売することはあきらめたほうがよいかもしれないと思うこともしばしばあります。「茶の実オイル命!」と心から共感し茶の実オイルのスキンケアアイテム普及に協力してみようという方が現れることを期待しています。

茶の実への愛情なら誰にも負けない

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自分で茶の実を採取して販売までやるほど情熱を注いでいるのは、日本中で私だけだという自負があります。茶の実オイルを配合しているスキンケアブランドは10社ほどありますが、茶の実への愛情なら誰にも負けません。また搾油ワークショップ(搾油と保湿バーム作り)を提供しているのも、たねのしずく研究所ならではの特徴です。

ウェブサイトなどで商品の特徴を謳うとき、ブランドは原料メーカーのデータを使用することが多いですが、なかには不適切なデータをそのまま使用しているケースがあるようです。たねのしずく研究所ではデータが必要な時には自社で(試験機関に委託して)調べる、を原則としています。

茶の実オイルは純国産で、数ある植物油の中でも非常に優れた性能を持っています。ビタミンE、Kを多く含み植物ステロールも豊富で、化粧品原料としても食用油としても使用できるのが特徴です。化粧品原料としては皮膚常在菌バランスを整える作用について特許を取得しており、食用の「生しぼり茶の実油」には栄養機能食品(ビタミンE)を表示しています。

また、良く伸び浸透感があるのでスキンケアオイルとしても適しています。肌が弱い方にもお使いいただけ、ブースターとして使用されることもあります。茶の実オイルの搾りかすは洗浄剤としても活用できるため、茶の実は捨てるところがない資源と言えるでしょう。

茶の実オイルの素晴らしさをより多くの方に知っていただけるように

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日本の茶産業は危機に瀕しています。茶生産が盛んな主要11県でも過去10年間で東京ドーム800個分に相当する茶畑が消失しました。その原因のひとつは、急須でお茶を淹れる場面がどんどん減っていることです。面白いことに茶の需要自体は増えているのですが栽培面積は年率1.5〜2%の割合で減少しています。また人手不足や後継者がいないことも深刻な問題です。

たねのしずく研究所では茶産業の課題を解決するひとつの方法として茶の実を使用した良質な商品を生み出していきます。茶の実オイルはまだ一般消費者にはあまり馴染みがないですが、このオイルが持つ魅力や用途を多くの方に知っていただき、日常的に活用できるようにしたいと考えています。食用としては少し高価かもしれませんが、特別な日のためのギフトとしては最適な商品です。将来的には百貨店や大手店舗の棚に並び、広く販売されることを目指しています。

今後さらに耕作放棄地が増加するなかで、地域ごとに茶の実オイルの製造・活用が広がれば、新たな産業として地域活性化にも貢献できると考えています。労力さえ惜しまなければ多くの茶の実を収穫できるので、地域の特産品として売り出していけると思います。

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