社会貢献のプロが手掛ける新事業は日本人ならではの『おすそわけ』の文化から誕生

新田 拓真

新田 拓真

2024.05.13
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東日本大震災で被災した経験から、日本人の伝統的な精神「おすそわけ」の素晴らしさと可能性を感じ「おすそわけで世界を変える」を人生のテーマに掲げた新田拓真さん。新卒でベンチャー企業に入社し、植物とインテリアを掛け合わせたブランド『URBAN GREEN MAKERS』を立ち上げ、世界中に販売代理店を展開するまでに成長させました。2023年には、日本の『おすそわけ』文化を活かしたプラットフォーム『OSUSO』をローンチ。新田さんの事業展開の経緯や今後のビジョンについて伺いました。

東日本大震災での経験から日本人の「おすそわけ」という素晴らしい精神に改めて気づかされる

見出し1画像_嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_新田拓真さん_宮城県石巻市

私は宮城県石巻市の雄勝町で生まれ育ちました。町には信号機がひとつしかなく、電車がないので公共交通機関はバスしかありません。大型スーパーに買い物に行くには車で40分ほどかかります。

東日本大震災による津波で雄勝町は甚大な被害を受け、私の実家も根こそぎ流されてしまいました。町そのものがなくなるほどの被害のなか、生き残ったことに感謝の念でいっぱいです。同時に、生き残った人間としての使命感が生まれ、社会のために何かをしなければならないと強く感じるようになりました。

震災当時に大学3年生だった私は、遊びに夢中で社会のことなどあまり考えていませんでした。しかし、この経験を機に社会貢献について真剣に考えるようになりました。まず取り組んだのは、友人たちと一緒に支援物資を車に積んで被災地に運ぶことです。

支援活動を通じて気づいたのは、支援する側とされる側の情報格差です。支援物資が必要だと思っても、どこに何が必要なのかわからない状態。届けた物資が「必要ない」と言われたり、「新品じゃないと困る」と拒否されることもあります。

この経験から、思いと行動だけでは十分な支援にならないことを痛感しました。そして私は、「おすそわけで世界を変える」を人生のテーマとして、社会人としての一歩を踏み出したのです。

社会人としてのキャリアをスタートさせるにあたり、私はベンチャー企業を選びました。通常は経験を積まないとできないゼロからイチをつくる経験を、新卒から積めることに魅力を感じたのです。

初めて立ち上げた事業は、『植物とインテリアを掛け合わせたブランド』です。2014年頃は植物がブームで、雑貨屋やアパレルでも植物を販売し、ライフスタイルに欠かせない存在となっていました。

もともと私が自然が大好きだったこともあり、世の中に広げたい思いがありました。お店側からすると植物は生物なので、管理できないとロスになってしまいます。初めて植物を扱う雑貨屋やアパレルは、その管理ができずにやりたいけどできないという声も聞かれていました。

そこで私は、本物の植物とドライフラワーやプリザーブドフラワーを組み合わせ、管理がしやすくインテリア性も高い『URBAN GREEN MAKERS(アーバングリーンメーカーズ)』というブランドを立ち上げました。このブランドは人気を博し、累計1億円以上の売上を達成。アメリカ、香港、台湾、シンガポールなど世界中に販売代理店を展開するまでになりました。

さらに、このブランドには社会貢献の側面もあります。商品を購入すると1本の苗木を支援するプロジェクトを実施し、売れるたびに植林が進むという仕組みです。自分が作ったものが世の中に広がり、社会にも貢献できる喜びを実感しました。

約3年このプロジェクトに携わった後、雑貨のトレンドの変化を感じ始めました。そこで、ブランドの世界観を生かして新たな事業につなげるため、2018年にブランドを日比谷花壇に事業を引き継ぎ、独立する決断をしました。社会貢献をもっと手軽に、もっと楽しいものへと日常化していくため、日比谷花壇と共に新たな挑戦がはじまりました。

社会貢献を日常的な食に取り入れる『BURGERS TOKYO』

見出し2画像_嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_新田拓真さん_ハンバーガーショップ

インテリア事業では、一人あたり年間1回程度しか社会貢献に触れる機会がつくれません。もっと日常的に社会課題に触れられる手軽な方法はないかと考えた時、『食』がキーワードとして浮かびました。人は毎日食事をしますし、週に1回は外食するという人も多いはず。食を通じて社会課題を解決できる事業を始めようと決意しました。

そこで4年前にオープンしたのが『BURGERS TOKYO』です。バーガー1個につき1食分の給食費をお客様が支援でき、支援先も選べるシステムを導入しました。美味しいハンバーガーを提供するために、国内外のハンバーガーショップを研究し、肉の食感が楽しめる一品を追求しました。

店舗は東京のコンクリートジャングルをイメージしたデザインで、家具には産業廃棄物や使われなくなったスケートボードの板を活用し、環境問題に配慮しています。

おしゃれな店舗が話題となり、イケてる人たちが集まるようになりました。彼らがSNSで発信することでメディアにも取り上げられるようになり、さらに多くの人が社会貢献に興味を持つようになったのです。

2022年には、ナイキ『エアマックス』の誕生祭とコラボレートしました。下北沢の街をジャックするイベントに参加し、音楽やフリーマーケット、セミナーなど多彩な企画を通じて、コミュニケーションを取りながら社会課題に触れる場を提供しました。

イベントにはすべて社会貢献を組み合わせています。まさにリアルな社会貢献プラットフォームとして、存在を確立することができたのです。

「このムーブメントを下北沢だけでなく、日本、そして世界へ広げたい!」そんな想いが生まれ、みんながもっと手軽に身近な環境で、常に社会貢献ができる環境がつくれないだろうかと考えるようになりました。

社会貢献している人が可視化され、評価還元が受けられる仕組みを作ることで、社会貢献人口がもっと増え、楽しみながら社会貢献に参加できるデジタル上のプラットフォームを構築することを計画していました。

そんな時、素敵なタイミングで素敵なご縁があり、自然とプロジェクトを形にする仲間ができたのです。そして、ご縁と仲間のおかげで2023年3月に『OSUSO』という社会貢献プラットフォームをローンチ。構想から2年以上をかけて、社会貢献の輪を加速度的に広げる基盤を整えました。

日本の伝統的な精神『おすそわけ』で世界を豊かに

見出し3画像_嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_新田拓真さん_ハンバーガー美味しく食す

『OSUSO』は、日本人らしく社会課題に向き合い、課題解決を推進することをビジョンとしています。コンセプトは『おすそわけ』。お金や余った食品、時間やスキルなどをおすそわけできるプラットフォームを提供し、企業、NPO・NGO、自治体、そして個人と連携しながら社会課題の解決を進めています。

私は、徳をどれだけ積めるかという『人間力』が人生の最大のテーマだと考えています。『OSUSO』では、楽しみながら、カジュアルに、日常生活の中で社会貢献に参加ができ、個人の社会貢献を可視化する仕組みを構築。自分の社会貢献をさまざまな形で可視化することで、生きがいや人生の豊かさを再発見する、ウェルビーイングな新たな社会的価値を提案しています。

将来的には、社会貢献で徳を積んだ人が企業から評価されたり、人材の採用基準に組み込まれたりすることを目指しています。また、カフェやレストラン、宿泊施設などと連携し、徳を積んだ人だけの特別な会を開催するなど、『還元』の仕組みをつくっていきたいと考えています。

下北沢だけで始めた企画イベントでかなり盛り上がったので、これが日本全国で展開できたらすごい規模になるのではないかと予想しています。当時27歳だった私には、失敗しても次があるというワクワク感と、東日本大震災で感じた使命感も強くあったと思います。

『OSUSO』は、コンビニに置いてある募金箱のような役割を担っています。キャッシュレス化が進み、余ったものを分ける場が減るなか、日本人の『おすそわけ』文化をデジタル社会でどう広げられるかが1つのテーマです。

現在は余ったお金やポイントに注力していますが、将来的には余ったものにも広げていく予定です。社会貢献の使途が企業にとってわかりやすく可視化されることで、『OSUSO』に参加するメリットを感じていただけるはずです。定量的な数値やお礼メッセージのショート動画など、顔が見える形での感謝の気持ちが可視化されることで、人と人がデジタル上で密につながって支え合うネットワークができるのではないでしょうか。

私のテーマは「おすそわけで世界を豊かに変える」こと。『おすそわけ』は日本が誇れる文化であり、この考え方を世界に発信することで、日本人としての誇りを持ってもらえるようにしたいと考えています。社会のために何かをするなら『OSUSO』でおすそわけしようと思ってもらえる、そんな日本から世界を豊かに変える仕組みを目指しています。

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