経営者対談

躰道道場『己錬館』館長 /整骨院の院長
中野哲爾 × ワクセル

今回のゲストは躰道(たいどう)世界大会4連覇を成し遂げ、躰道の道場『己錬館』(これんかん)の館長、整骨院の院長という顔も持つ中野哲爾(なかのてつじ)さんです。

ワクセルコラボレーターでフリーアナウンサーの川口満里奈さんと、総合プロデューサーの住谷がMCを務め、体の構造に精通している中野さんに、体の原理原則や武道家としてのマインドなどを伺いました。

躰道は空手から派生し戦後につくられた新しい武道

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川口:本日のゲストは躰道の世界大会で4連覇されている中野哲爾さんです。中野さんは躰道での経験を生かして整骨院『日月』(ひづき)の院長としても活躍しています。私は躰道という武道を初めて聞いたのですが、改めて躰道がどのようなものかを教えていただきたいです。

中野:躰道は、すごく簡単に言うと、沖縄空手から派生した全身で戦う武道です。沖縄に祝嶺正献(しゅくみねせいけん)先生という空手範士8段の方がいて、その方によって戦後直後につくられました。躰道として独立してからの歴史だけを考えると、比較的新しい武道ですね。

空手など立ち技の格闘技は、倒れてしまうと“待て”が掛かりますが、躰道の場合は“待て”が掛かりません。戦争の最中は倒れる状況がいくらでも起こりますが、それでも戦いが中断されることはありませんよね。躰道はそういう実戦を想定して、倒れているところから蹴るとか、倒れながら蹴るとか、どんな状況でも戦うルールとなっています。

また攻撃を受けることもダメで、どんな攻撃も避けないといけません。そのため、サッカーのボレーシュートのようなアクロバティックな動きが多くなっています。躰道は視界訓練にもなりますし、三半規管の検知能力の訓練にもなると思います。

基礎を深掘りして理解することが強さの秘訣

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川口:中野さんはそもそもいつ躰道を始められたのですか?

中野:幼稚園のときにフルコンタクト空手の経験はあったのですが、躰道を始めたのは大学1年生からです。高校の先輩がたまたま進学先の大学の躰道部に所属していて、大学受験後の高校生だった私に「練習に遊びにおいで」と声を掛けてくれたのがきっかけでした。

川口:大学1年生から始められて、これだけの成績を残されていることに非常に驚いています。世界大会4連覇を果たした強さの秘訣は何だと思われますか?

中野:それは基礎練習が大好きなことが影響していると思いますね。僕は基礎を深掘りして理解することがとても大事だと思っていて、原理原則とか法則性とか、そういうことを知りたいと考える性分なんです。

たとえば、挨拶や返事をすることって、ずっと変わらず残っていますよね。そういう慣習にはすごく意味があるものと、なんとなく踏襲されているものの2種類があると思います。その意味がある部分を抽出できればすごく役立つと思うのです。

何百年も淘汰されなかった部分をちゃんと理解して身につけるのは、とても合理的ですよね。一つひとつを「なんでだろう?」と深掘りし、スポーツ科学や医療の面から紐解いて、意味を理解するようにしています。

「勝つことじゃなく成長すること」が目的だから緊張しない

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住谷:これが、さまざまな大会で優勝経験を持つ方の考えなんですね。中野さんは試合のときでも緊張をしないと伺いました。なぜ緊張せずに試合に臨めるのですか?

中野:大会でなぜ緊張するかというと、「負けたくない」「失敗したくない」という執着があるからです。私の場合は、3つの考えをとても大切にしています。
「変えられることを変える勇気」
「変えられないことを受け入れる心の静かさ」
「変えられることと変えられないことを見分ける知性」
この3つを理解していれば、緊張するというシチュエーションは存在しなくなります。

試合の勝ち負けを決めるのは自分ではなく審判です。他人が全部決めることなので、勝つか負けるかを心配しても仕方がないんですよね。だから試合の勝ち負けに執着するのではなく、「試合を通して自分が成長すること」を目的にすれば緊張のしようがありません。

また、私は「負けないと見せられない指導もある」と考えています。子どもたちは負けて泣きじゃくったり、勝ってはしゃいだりしますが、負けたときに潔い振る舞いをして、負けてもカッコいい姿を教えることは、試合でしかできません。実は世界大会2回目で引退しようと思ったのですが、自分自身が大会に出ている方が指導の浸透率が上がると思ったので、出場を続けています。

体の不調の改善方法は同じ姿勢を取り続けないこと

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川口:中野さんは整骨院の院長でもあるということで、今回私たちの体の悩みも聞いていただけたらと思っています。私は首が前に出てしまうという姿勢の悩みがあるのですが、どうしたら改善できるのでしょうか?

中野:首が前に出てしまう人には、肩を引いてしまう特徴があります。そうすると肩甲骨に押し出されて首が前に出てしまうんです。そのため肩を引くのではなく、肩甲骨を落とすことを意識することが大切ですね。

でも、実は正しい姿勢でいることが体に良いわけではなく、一番大切なのは同じ姿勢を続けないことです。人間って動いていないとダメなんですよ。だから反り腰になっても猫背になっても良くて、とにかくずっと同じ姿勢でいることがダメです。

デスクワークし続けて体に不調をきたす人がいますが、マメに立ち上がったり、同じ姿勢を取り続けないことで体の不調が改善されるはずです。私は患者さんに「整骨院に来るよりも30分おきに立つ方が楽になりますよ」と言っています。

自ら健康を手に入れるための教育のインフラづくりをしたい

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住谷:中野さんはYouTubeチャンネルを開設されていますが、どんな内容を配信しているのですか?

中野:整骨院の先生だと、肩こりを改善する方法や痩せる方法などを配信している人が多いと思いますが、私は体の原理原則をお伝えしたいと思っています。たとえば武道を通した分かりやすい体の使い方、解剖学で紐解かれている普遍的な骨の数など、体のことを伝える活動をしています。

先日もぎっくり腰になった患者さんがいたのですが、「先生の言った通りにしたら治った」と言っていました。体のことを知れば知るほど自分で対処ができるようになるのです。YouTubeを始めたのは、医院に来ることがゴールではなく、自分自身で健康を獲得できる人を増やしたかったからです。

たとえば成人の骨の数は206個あるんですが、小学生のときに頭から骨盤まで覚えて、中学生で残りの骨格を覚える。そして、高校生で筋肉、大学生になったら神経と、だいぶゆっくりとしたペースで学んでも、社会人になり親になる頃には体の原理原則が分かるようになっていますよね。私はそういう教育のインフラづくりのお手伝いをしたいんです。そこを目指して今後も活動を続けていきたいと思います。

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