日本の当事者支援の未熟さと聴覚障がい者の雇用の実情について
こんにちは!みみトモ。ランド運営メンバーの杉山祥子(すぎやましょうこ)です。前回の記事では、難聴や聴覚障がい者が実際に抱えている課題について説明しました。また今現在、耳に不自由を抱えていなくても今後増えていくのが予想されることもデータに基づきお話しました。つまり、“聞こえにくい”ことによる困難感は実は人ごとではなく、誰しもが抱える可能性のある問題です。今回の記事では、日本の当事者支援の未熟さと聴覚障がい者の雇用の実情について、論文を引用し分かりやすく説明します。
「もしかしたら自分も将来聞こえにくくなる可能性があるのか、怖いな…」
「そうはいっても聞こえにくいことでそんなに生活に弊害って出るの?補聴器もあるし大丈夫なんじゃない?」
そんな風に思っている方へ。多かれ少なかれ日常生活から仕事にまで支障が出ます。何も対策もしないまま、今まで通りの生活を送るのは自身の生活の質を下げるでしょう。たとえば、以下のようなことが起こります。
・電話の声が聞こえない
・会議についていけない
・聞き返すことや聞き間違いが増え、周りの人をイライラさせる
特に仕事面は不安ですよね。次の章では、仕事での日本の当事者支援について解説していきます。
日本の当事者支援について
「障がい者雇用があるから大丈夫」
「嫌だけど転職すればいい」
と思っている方、危険です。日本の当事者支援は未熟です。
確かに支援としては、障がい者雇用と呼ばれる制度があります。障がいのある人が一人ひとりの特性に合わせた働き方ができるよう、一般雇用とは別枠で企業や自治体などが障がいのある人を雇用するもの。障がい雇用枠で採用されると障がいへの理解や配慮が職場で受けられる可能性が高いです。
ただ、誰もが利用できるわけではなくて、原則として障がい者手帳が必要です。障がい者手帳があれば、障がい者雇用も受けられますし、補聴器を購入するための助成金も申請できます。
障がい者手帳を発行するためには、基準値を満たす必要があるのですが、日本は世界に比べるとかなり厳しいです。世界では支援が必要とみなされても日本では支援が必要とはみなされていないのです。
耳に関わらず、身体に何らかの不自由さを抱えながらも手帳を発行できるレベルにまでは至らない層をグレーゾーンと呼びます。耳の場合だと軽度難聴以上高度難聴未満を指し、軽度難聴のイメージとしては図書館での会話が聞き取りにくい状態です。
前回の記事で以下の2点について解説しました。
・日本国内には障がい者手帳のない難聴者だけで推計1,430万人いる
・イヤホンやコンサート会場などの大音響によって、適切でない耳の使い方が原因で世界中で難聴者が増えていく傾向にある
つまり、グレーゾーンにいる人が現時点で1,430万人いると推定され、今後増えていくのが予想されるのにも関わらず、日本では特に支援がないのです。
また手帳ありの当事者でさえも働く環境の情報保障が足りていません。次の章で、聴覚障がい者の雇用の実情も踏まえて詳しく解説します。
障がい者雇用の実情について
2013年と少し古いデータではあるのですが、聴覚・言語障がいを抱えている人が転職もしくは退職する際の理由として、圧倒的に目立つのは下記の3点です。
1.賃金・労働条件
2.仕事の内容
3.職場の雰囲気・人間関係
それぞれ3つの共通点に「コミュニケーションエラー」の問題があると考えています。
「給料が低いのはみんな同じ」
「自分に合った職種を選んでないだけでは?」
「障がい者雇用で採用されたら困ることないでしょ」
と思う人もいるかもしれません。
聴覚障がいは目に見えないため、さまざまな誤解を受けやすく、昇給ができづらかったり、人との関係を築けず、相談できなかったりするのが現状です。
・大きな声で話せば大丈夫と思われる
・会議での発言ができず、受け身と思われる
・大きな音を立てて仕事をして「うるさい」と思われ評価に響く
などこうした聴覚障がい者への間違った認識により、昇給のチャンスが閉ざされてしまうのです。また、仕事上では筆談でやり取りできてもお昼休みになると輪に入っていけず、疎外感を感じることも。
私たち当事者にとって、まだまだ情報保障が足りていない職場が多い証拠です。障がい者雇用であっても、です。
障がい者(グレーゾーン含む)にとって、情報保障はコミュニケーションを取る上で何より大切なもの。聴覚障がい者の場合は、手話通訳や要約筆記・ICT(情報通信技術)などが必要です。逆に考えると、情報保障がしっかりしていれば、持っている力を存分に発揮できるのです。
まとめ
今回の記事では、日本の当事者支援の未熟さと聴覚障がい者の雇用の実情について解説しました。次回の最後の記事では、これまで述べた現状や問題点を踏まえたうえで、いよいよ私たちの活動について紹介します。当事者を支援することが社会にどう影響を及ぼしていくのか述べていきます。