バレエから転身した彫刻家はなぜトルコに渡ったのか。無添加ペットフードからつくる“食”の未来

瀬戸 志保

瀬戸 志保

2022.09.30
アイキャッチ画像_嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_瀬戸 志保さん_授与

バレエ教室の経営、彫刻家、そして現在はトルコから無添加ペットフード等の輸入卸販売を行っている瀬戸志保さん。彫刻家であった瀬戸さんがなぜ異国の地に渡って、ペットフードの事業を展開することに至ったのか。海外の地で感じたことや今後のビジョンなど、本コラムにて語っていただきます。

ギリシャでは一般的な無農薬野菜

見出し1画像_嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_瀬戸 志保さん_畑

私は彫刻家でもありますが、現在メインに活動しているのは、無添加ペットフードをトルコから輸入販売する会社の経営です。トルコに絡めた活動がメインですが、最初はペットフードよりも彫刻家としての活動から始まっています。

日本で彫刻家として食べていくのは難しいです。石を彫ると非常に大きな音が出るため、石彫をするには騒音や石の粉を出しても問題のない環境のアトリエが必要になります。そうした理由で、様々な制約がある日本から、ギリシャ彫刻で知られる大理石彫刻の盛んなギリシャに渡りました。そして、彫刻のために行ったギリシャが後に、今の“食”の活動につながります。

食について問題を感じ始めたきっかけは、東北に住んでいた時に経験した震災でした。「生きるか死ぬかという切迫した状況で芸術ができることとは何だろう」と考えるようになりました。アーティストは自分の内面のメッセージを伝えるために活動をしています。「私に何が出来るだろう、何をすべきだろう」という思いがずっと心の中にありました。

“食“の問題は、彫刻をやりながらも心に残り続けました。その後、種子法の改正により日本の在来種・固定種の存続ができなくなるという問題から、種を守るボランティア活動をする仲間と出会い、無農薬・無添加の食品に関わるようになりました。

実は農業王国のギリシャですが、不思議なことに、広大な農地の畑に農薬や肥料を使っている様子はあまりありませんでした。日本の有機農家さんからは、無肥料・無農薬で農作物を作るのは非常に難しいと聞いていたのですが、ギリシャでは高い農薬や肥料をなぜ使うのかと逆に言われ、日本とギリシャの常識はまったく違うことに気づかされました。

この土地なら日本の野菜も農薬・肥料なしで育つかもしれないと思い、日本にいるボランティア仲間や、農家さんにそのことを伝えました。そこから日本の野菜の発芽実験をすることになり、ギリシャで農地を探し始めたのです。

遺伝子組み換えに厳しいトルコでの種まき実験

見出し2画像_嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_瀬戸 志保さん_トルコ国旗と数名と

ギリシャに滞在中、生活の様子をFacebook等の記事や動画で投稿していたら、興味を示したあるトルコ人からSNS経由でメッセージが届きました。無農薬で育つ畑を探していることを伝えたところ、その方の所有する農地は未だかつて農薬を使ったことがなく、その農地をなんと無料で使わせてくれると申し出てくれました。

私はそれまでトルコが世界のどこにあるかすら知りませんでしたが、逆に、トルコ人は驚くほど親日で、日本のことをよく知っていました。「国旗は同じ赤白で、日本はお日様、トルコは月と星で、日本とトルコは兄弟だ」とそのトルコ人に言われました。トルコと日本は同じウラルアルタイ語族で文法が似ており、外国語習得が苦手な日本人にとってトルコ語が習得しやすい言語であることにも不思議な縁を感じました。

トルコで案内された彼の所有する農地は、イスタンブールからバスで14時間くらいかけた田舎の都市の、そこからさらに山村の中にある、100エーカーもあるヘーゼルナッツ畑でした。トルコは世界中のヘーゼルナッツの約9割を生産しているそうです。その畑の空いているところをどこでも使っていいと言われ、広大な土地で発芽実験をさせてもらったのが最初の入口です。

トルコは無農薬などオーガニックなもので溢れています。遺伝子組み換えが禁止されている国で、日本からの輸出は9割以上がはねられ、非常に厳しいそうです。遺伝子組み換えのほか、家禽へのホルモン剤、抗生物質の投与も禁止されています。

日本では抗生物質を投与しないと病気になってしまうため、全てを禁止することはできません。鶏舎などにぎゅうぎゅうに押し込められて、ストレスのかかる環境で育てられているからです。トルコで抗生物質の投与が禁止されているということは、抗生物質を投与しなくても生育できる、ノンストレスの状態で鶏や牛などの家畜たちが育てられているということ。これはすごいことです。

ペットをきっかけに“食”について考える社会へ

見出し3画像_嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_瀬戸 志保さん_猫

できるだけ、添加物や農薬のないものを日本の人たちにも食べてもらいたいと思いますが、人間には何を食べるか選択肢があります。でも、ペットたちは選択ができないですよね。まずは動物たちを先に救おうと思い、無添加のペットフードを輸入して販売することに至りました。

動物がダメなものは人間もダメです。動物・ペットが無添加のものを食べて健康のまま長生きするとわかるなら、添加物は人間の体にも悪いと気がつくはず。皆が気づいてくれますようにという願いを込め、まずはペットフードから始めました。

扱っているペットフードは『ハラル認証』を取得しています。ハラルとはイスラムの教えで、動物たちを苦しめて育ててはいけない、苦しめて殺生してはいけないというものです。幸せに育てて尊厳をもって感謝していただくことがハラルです。

ハラルの考え方は、まさに私が思い描いていたものでした。パックされた肉がどう育てられたかを考えず、知らずに食べるのではなく、責任をもって食について考える社会にすることが私の最終目標です。

チャレンジすることが怖いと思うことはありますし、本当にできるのかと頭をよぎることもあります。もちろんトルコへ行くときも恐怖や不安がありました。ですが、私は怖いと思ったときや初めてのことをやるときは、目をつむり「エイヤッ」と飛び込むような気持ちで行動を始めます。

あれこれ考えたら怖くて何もできなくなるので、一度決めたら目を閉じ、何が起こっても最終的には自分で責任を持つ。「私にはそれができる!」と自分を信じて飛び込んでみることですね。