「自分がやらなければ」と生きてきた私が、骨折から学んだこと

飯髙 裕子

飯髙 裕子

2026.08.06
column_IidakaHiroko

山梨大学工学部卒業後、子育てを経て仕事を再開し、現在は通信系のバックヤード業務と並行してお菓子作りを行う飯髙裕子(いいだかひろこ)さん。1年半前からは身体と心を調えるグルテンフリーのお菓子ブランド「ROCCO」を展開しています。今回は、常に全力で走り続けてきた、思いがけないトラブルから得た「大切な気づき」について綴って頂きました。

「自分がやらなければ」と全力で走り続けた日々

見出し1画像_嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_飯髙裕子_全力で走り続けた日々

私は、「自分がやらなければ」

そんな思いで、ずっと生きてきた気がします。

どんな時も全力疾走。
やるなら納得できるまでやりたい。

中途半端な結末は昔から好きではありませんでした。
一度決めたことは最後までやりきる。
それが当たり前だと思っていました。

ROCCOを立ち上げた頃もそうでした。

友達に勧められたことがきっかけとはいえ、お菓子を専門的に学んだわけではない私が、お菓子を販売するなんて本当にできるのだろうか。

そんな不安は、いつも心の片隅にありました。

それでも、お菓子を作ることは好きでした。
「おいしい」と言っていただけることが何よりうれしかった。

だからこそ、

「少しでもおいしいものを。」

「食べた人が満足できるものを。」

そんな思いで試作を繰り返し、イベントに誘っていただいては販売する日々が続きました。

最初の一年半ほどは、定番商品というものもなく、思いつくままにいろいろなお菓子を作っていました。

そんな中で、ぼんやりと分かってきたことがありました。

マルシェでは、ふわふわしたケーキがよく売れること。

知名度も、お店もない私のお菓子を買ってくださるのは、偶然出会ってくださったお客様や、一度食べてくださった方のご紹介ばかりでした。

少しずつイベントで完売することが増え、季節限定の商品を楽しみにしてくださるお客様も現れました。

そんな頃、私はフルタイムで仕事をしながら、お菓子を作る毎日を送っていました。

一方で、長野で一人暮らしをしていた父の様子が、コロナ禍を境に少しずつ変わっていきました。

認知症ではないか。

そんな不安を抱えながらも、奈良から長野は簡単に通える距離ではありません。

父は足も悪くなり、転ぶことが増え、病院で認知症と診断されました。

そこから施設探しや通院が始まり、私は月に一度、奈良から長野へ通う生活になりました。

妹や母は私より近くに住んでいたので、もっと頻繁に父のもとへ通っていました。

私は、「何もできていない」

そんな思いを、自分でも気づかないうちに抱えていたのです。

突然の骨折が教えてくれた「背負いすぎていた心」

見出し2画像_嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_飯髙裕子_背負いすぎていた心

そして、父の施設入所が現実になり、翌日長野へ向かう予定だった前日。

会社を退職する半月前の、2025年3月。

通勤途中の駅で私は転倒しました。

気づいたときには肩をひどく骨折し、そのまま救急搬送。

「すぐ手術が必要です。」

そう告げられました。

それでも私が最初に医師へ尋ねた言葉は、

「明日、長野へ行く予定なんですが、無理でしょうか?」

今思えば、肩を骨折した人が最初に聞く言葉ではありません。

でも、その時の私は、

「私が行かなければ。」

その思いしかなかったのです。

手術を受け、一か月固定し、その後一年近くリハビリを続けました。

そんな時、整体のお友達に言われた一言があります。

「肩を骨折する人は、背負いすぎてるんですよ。」

その言葉が胸に刺さりました。

私は、自分でも気づかないうちに、背負える以上のものを抱えていました。

父のこと。

仕事。

お菓子。

全部、自分がやらなければと思っていたのです。

でも、本当に相手を大切にするということは、自分を犠牲にすることではありませんでした

自分を大切にできなければ、結局は誰かに迷惑をかけることになる。

誰かを助けることもできない。

それを、身をもって学びました。

まず自分を大切に。お菓子とともに届ける「ほっとする時間」

見出し3画像_嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_飯髙裕子_ほっとする時間

それから私は少しずつ生き方を変えました。

仕事は、自分の時間が持てる働き方へ。

父のところへ行くのも、無理をせず予定を組むようにしました。

そして、お菓子作りも変わりました。

やみくもに新しいものを作るのではなく、一つの商品とじっくり向き合うようになりました。

ROCCOの定番商品も、その頃から少しずつ形になっていきました。

私が作るお菓子は、小麦粉と白砂糖を使いません。

保存料も使わず、添加物もできるだけ使いたくない。

旬の素材を生かし、作りたてだけでなく、時間が経ってもおいしく食べられることを大切にしています。

でも、一番大切なのは、作る私自身が楽しく作れていることです。

食べ物には好みがあります。

それぞれが好きなものを選び、おいしく食べる自由があります。

だから私は、その自由な時間に、ほんの少し寄り添えるお菓子を作りたい。

ROCCOという名前は、イタリア語で「休息」という意味です。

体だけではなく、心もほっとできる時間。

その時間を届けたいという思いを込めて、この名前を付けました。

以前の私は、「自分がやらなければ」と走り続けていました。

でも今は違います。

まずは自分を大切にすること。

そうして初めて、本当の意味で誰かを大切にできる。

そんなことを、骨折という思いがけない出来事が教えてくれました。

だから今日も私は、ワクワクしながらお菓子を焼いています。

その一つひとつが、誰かの「ほっとする時間」につながることを願って。