居場所作りから役割作りへ――超高齢社会の現場から広げる、世代と違いを超えた共創の輪

星田 暁

星田 暁

column_Hoshida satoru

理学療法士と社会福祉士の知見を活かし、医療福祉専門職団体「ユニオン」や大田区リビングラボを立ち上げ、住民主体の健康づくりや多世代共創に取り組む星田 暁(ほしだ さとる)さん。単なる居場所の提供にとどまらず、シニアが社会で活躍する「役割作り」を通じて人と地域を繋ぐ活動の原点と、その先に見据える未来への展望についてお話を伺いました。

現場に飛び込み信頼を築いた原点

見出し1画像嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_星田 暁_原点

私が地域での活動をスタートさせたきっかけは、理学療法士や社会福祉士として働く中で抱いた「病院や職場という枠組みの外でも、自分に何かできることはないだろうか」という、ごく自然な思いでした。医療や福祉の現場で培った強みを活かし、これからの社会課題である高齢者支援に貢献したいと考えたのです。

何事もまずは現場を見ることが先決だと考え、当時高齢化が進み、人々の繋がりが希薄化しつつあった東京都大田区に足を運びました。当初は特別な地縁があったわけではありません。街角の掲示板に貼られたお祭りや地域行事の案内を見ては直接足を運び、住民の皆さんと地道に対話を重ねていきました。

地縁のない場所で一から「健康体操を始めましょう」と呼びかけたこともあり、最初は地域の皆さんも「どんな人が来たのだろう」と少し様子を見守るような雰囲気がありました。それでも諦めずに顔を出し続け、丁寧に対話を重ねていくうちに、少しずつ私たちの思いや姿勢を受け止めていただけるようになりました。今では住民の皆さんが口コミで活動を広げてくださったり、ご自身の親御さんをイベントや体操教室に誘って連れてきてくださったりと、地域の方々の温かい応援こそが私の活動を支える大きな原動力になっています。

「居場所の提供」から「役割の創出」へ

見出し2画像嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_星田 暁_役割の創出

活動を始めた当初は、体操教室や音楽鑑賞など、参加されたシニアの皆さんがその場で楽しい時間を過ごせる「居場所作り」を中心に据えていました。しかし、多くの方と深く関わっていく中で、私自身の支援に対する視点が大きく変わる出来事がありました。

あるとき、参加者の方から「楽しい時間を過ごせるのも嬉しいけれど、自分が誰かの役に立ち、感謝の言葉をもらえることが何よりの喜びなんだ」と教えていただいたのです。何歳になっても、人は誰かに貢献し、喜ばれることで深い生きがいや幸せを感じるのだと強く実感しました。

それ以来、私たちの活動の軸足を単なる「居場所作り」から「役割作り」へと転換しました。その方がこれまでの人生で培ってきた強みや「やってみたいこと」を対話を通じて引き出し、地域や社会の中で発揮できる舞台を整えています。

その一つが、元気なアクティブシニアと企業をマッチングする取り組みです。シニア当事者のリアルな声を企業の製品開発に活かすことで、企業にとっては製品クオリティの向上やCSR(企業の社会的責任)の実践に繋がり、シニアにとっては「社会に貢献できている実感」という大きな喜びが生まれます。単に売上を伸ばすだけでなく、現場で実を伴った社会貢献を実現したい企業のビジョンを、地域密着の実動部隊として具現化する強固なパートナーシップを築いています。

多様な人々が違いを認め合う社会

見出し3画像嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_星田 暁_違いを認め合う社会

活動を広げる中で大切にしているもう一つのテーマが「多世代交流」です。小学校の体育館を活用して開催した「大田健康寿命わっしょいフェスティバル」では、子どもたちとシニアが触れ合い、互いに元気や学びを得られる場を創出しました。地域の中で多世代が顔の見える関係を築いておくことは、日頃の生きがいはもちろん、いざというときの防災の観点からも極めて重要だと考えています。

また、小学校で地域活動に関する授業を担当したり、障がいの有無にかかわらず楽しめるユニバーサルイベントを開催したりする中で、直接関わることの大切さを改めて痛感しています。

日常生活の中では、高齢者や障がい当事者に対して、断片的な情報から無意識の先入観や誤解を抱いてしまう場面が少なくありません。授業で話した子どもたちの中にも、最初は接し方に戸惑いを感じていた子がいました。しかし、イベントの現場で実際に障がいのある方々と机を並べ、言葉を交わした瞬間、子どもたちの表情と意識がガラリと変わったのです。相手の個性や素晴らしい強みに直接触れることで、頭の中にあった壁が一瞬で溶けていきました。

属性の違いによる誤解や偏見をなくすための最短ルートは、「直接現場で関わり、同じ時間を共有すること」に尽きます。違いを恐れるのではなく、互いの違いを認め合い、多様な人々が手を取り合ってひとつのプロジェクトを動かしていけるような、温かい社会を形作っていきたいと考えています。

地域の実証モデルを日本全国から世界へ

現在は大田区や横浜市を拠点に活動していますが、今後はさらに活動領域を広げていく計画です。私自身の出身地である新潟県や福島県など、日本各地の地域へ飛び込み、それぞれの地域に根ざしたコミュニティづくりと役割創出を支援していきます。

日本は今、世界に先駆けて超高齢社会という構造的課題に直面している課題先進国です。だからこそ、私たちが地域という現場で積み重ねている「居場所から役割へ」というアプローチや、多世代共創のコミュニティモデルは、日本全国のみならず、今後同じ課題を迎える世界各国にとっても大きな価値を持つ実証事例になると確信しています。

まずは日本各地のローカルな現場で一つひとつの成功体験を丁寧に紡ぎ出し、やがてはその知見をグローバルに向けて力強く発信していく。誰もがいくつになっても役割を持ち、互いに認め合って助け合える未来を目指して、これからも現場の最前線を走り続けてまいります。

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