AI時代、更に求められる「言語化力」|40代・50代こそ思考の土台をアップデートすべき理由

「突然ですが皆さん、AI使っていますか?」ビジネスコーチの萩原たくさんは、そう語りかけます。AIはとても便利で、もはや仕事や日常に欠かせない”なくてはならない存在”です。しかし、答えを出してもらうだけでは、自分自身の思考力や言語化力は育ちません。今回は、40代・50代のビジネスパーソンにこそ必要な、思考の土台のアップデートについて綴っていただきました。
なぜ40代・50代には思考のアップデートが必要なのか?

僕はこれまで、話し方や言語化力に悩む300人以上のビジネスパーソンをコーチングしてきました。
その中でも40代・50代の方からは、次のような相談を多く受けます。
「会議で突然意見を求められると、言葉が出てこない」
「原稿を用意すれば話せるが、原稿がないと頭が真っ白になる」
「説明をしているうちに、話が冗長になったり、何が言いたかったか分からなくなる」
「生成AIに文章を書いてもらっているが、もはや自分の考えではなくなっている」
「私の思いや考えより、AIの方がよっぽど合理的で論理的」
「そもそも、自分の思いや考えに自信が持てない。ありきたりで浅い考えな気がする」
こうしたお悩みは、単に話し方の技術不足だけで起きているわけではありません。
その背景には、40代・50代がこれまで過ごしてきた「教育環境」や「企業文化」が影響します。
この世代の多くは、学校で「決められた問いに正解すること」を求められてきました。
会社に入ってからも、ミスをしないこと、上司の指示通り遂行すること、会社のルールや前例に従うこと、企業が求める模範的人材であることに重きを置いてきました。
それが評価や昇進に繋がるからです。
さらに、年齢や役職が上がるほど、
「間違ったことは言えない」「部下の前で恥をかけない」「リーダーらしく話さなければならない」という責任感や自意識も強くなります。
その環境では、正解とされるものを早く出し、失敗を避けることが合理的だったのです。
社長や上司が黒と言えば黒だし、白と言えば白だと。
「果たして本当に黒なのだろうか?」「私には白に思えるけど」
そう批判的にみることも許されなかったかもしれません。
そうやって、一定の環境や文化に長く居続けると、自分自身の考え方の土台も、組織風土や世間一般の“当たり前”に染まってしまうものです。
つまり、“自分の考え”ではなく、周囲の考え方に傾倒したり、同調してしまう。
もちろん、これまで身につけてきた考え方や価値観が間違っているわけではありません。
僕自身も、17年間の会社員キャリアで、会社や上司や社長から沢山学び、沢山の経験を積みました。(失敗と言う名の経験ばかりでしたが…)
今こうやってビジネスコーチとして仕事をしている土台は、会社員時代に培ってきた経験や思考法、手法です。(独立してから180度変わった思考や価値観も沢山あります)
しかし、生成AIの進化によって、仕事で求められる能力は変わり始めています。
AIは文章作成、情報整理、計算、調査、要約などを短時間で正確に実行できます。
思わず信じてしまうようなそれっぽい答えもスラスラ出してくれます。
これから更にAIは進化と浸透を続けていくことでしょう。
だからと言って、僕たちの仕事や生活、価値観そのものすべてがAIに左右されるのかというと、そうとは言い切れません。
なぜなら、これからもっと重要となるのは、正解のない問いに向き合い、自分なりに考え、判断し、行動することだからです。
これはAIには出来ません。
いえ、AIにも出来るようで、出来ないのです。
最終的な意思決定をするのは、人間だからです。
AIが合理的な選択肢を出せても、何を大切にするか、誰にどのような影響があるか、誰がどの責任を引き受けるかは、人間が考えなければなりません。
そして、もうひとつ重要なのが、人間同士の「対話」です。
最終的な意思決定が人間であれば、人間同士の対話だって、必要不可欠ですよね。
そして、「対話」をするにも、自分の考えを持つこと、それを言葉にして伝える力が必要です。
つまり、人間同士で対話をするためには、「その人自身の言語化力」が必要だと考えています。
話し方の悩みの奥に隠れているものとは?

僕の運営するKOTOBA=BASEというコミュニケーションスクールの事例をいくつか紹介させてください。
ある40代の管理職の方は、会議で発表するたびに、話す内容を一字一句原稿に書き起こしていました。
原稿を読めば一定の水準で話せます。
しかし、質問を受けたり想定外の話題になったりすると、途端に言葉が出なくなってしまいます。
当初、ご本人は「もっと分かりやすい話し方の型を覚えたい」と考えていました。
そこでPREP法やSDS法などの構成技術を学びましたが、原稿への依存はなかなか変わりませんでした。
なぜなら、本当の課題は話の組み立て方ではなく、「間違いなく、完璧に話さなければならない」という思い込みにあったからです。
そこでコーチングセッションでは、完成された原稿を作るのではなく、伝える相手、目的、コアメッセージ、ゴール設定、エビデンスとなる具体例などをキーワードで整理してもらいました。
そのうえで、多少言葉に詰まっても、原稿を見ずに2分程度スピーチをする練習を繰り返しました。
初めのうちは、「うまく話せなかった」「全然言葉が出てこない」という落胆した様子でした。
しかし回数を重ねるうちに、「完璧ではなくても、自分の言葉で伝えられた」という感覚が生まれました。
今では、「自分の考えを明確に持てるようになり、言葉にもできるようになった」と自己変容を迎えることができました。
話し方の技術を学ぶだけでなく、完璧主義から最善主義へと考え方を変えたことで、想定外の質問にも少しずつ対応できるようになったのです。
また、別の50代のリーダー職の方は、説明が長くなることに悩んでいました。
要約のフレームワークは知っていましたが、「背景も経緯も、誤解されないようにすべて伝えたい」という意識が強く、情報を削ることができませんでした。
この方に必要だったのは、新しい要約術を覚えることではありません。
「何を話すか」だけでなく、「何を話さないか」を決める思考への転換でした。
そこで、「相手が今、最も知りたいことは何か」「この話を一文にすると何か」という問いを繰り返し、結論と理由、具合を往復しながら話す練習を行いました。
次第に、自分が伝えたい情報を並べるのではなく、相手に必要な情報を選ぶ習慣が身についていきました。
今こそ「適応課題」と向き合う

ハーバード・ケネディ・スクールのロナルド・ハイフェッツ氏らによって発展させられた 理論「アダプティブ・リーダーシップ」でいう「技術課題」と「適応課題」の違いです。
「技術課題」とは、既存の知識や専門家によって解決できる課題です。
「適応課題」とは、専門知識や手順を追加するだけでは解決しにくく、これまでの価値観や習慣、行動様式を見直さなければ解決しない課題です。
話し方に置き換えると、呼吸法や声の出し方、ジェスチャー、フレームワークなど話の組み立て方、伝え方のテクニックを学ぶことは「技術課題」への対応です。
一方、正解主義や完璧主義を手放す、他人からどう見られるかより相手への価値提供を優先する、緊張感の捉え方、日常的に自分の考えを言葉にすることは「適応課題」への対応です。
もちろん、話し方の技術は絶対に必要です。
しかし、技術だけではすべての課題は解決しないのです。
たとえば、効果的にダイエットができる知識や手法を知っていても、自分自身が食生活を見直したり定期的に運動をするなど、生活習慣を見直せなければ、そもそもダイエットは実現できません。
つまり、考え方や習慣が変わらなければ、その技術を実際の場面で使いこなすことはできないのです。
言語化力で自分のキャリアを切り開く

生成AIに原稿を書いてもらったり、資料を要約してもらったりすること自体を否定するつもりはありません。
むしろ、AIは積極的に活用すべき便利なツールです。
効率性、生産性、高品質、すべてが良くなります。
ただし、AIが出した答えをそのまま使うだけでは、「自分は何を伝えたいのか」「なぜそう考えるのか」という思考が抜け落ちます。
重要なのは、AIに思考を委ねるのではなく、自分の思考を深めるためにAIを使うことです。AIを人間の代替として捉えるだけでなく、どの仕事を任せ、どの判断を人間が担うのかを見極める必要があります。
コミュニケーションは、人間同士でするものですから、自分自身の考えや価値観が根底として必要なのです。(これはAIには代替できません)
KOTOBA=BASEで大切にしていること

KOTOBA=BASEでは、話し方の技術だけを教えているわけではありません。
スピーチやプレゼンテーション、ファシリテーショントレーニング(技術課題)
コーチングによる習慣化の支援、思考整理、マインドシフト(適応課題)
グループワークでの実践や議論を通じて、3つの力を育てています。
①複雑な情報を整理し、本質を捉える考える力。(Thinking)
②自分の考えを相手に合わせて言葉にする伝える力。(Delivery)
③相手の理解や納得を生み、周囲を巻き込む人を動かす力。(Assertive&Movement)
40代・50代には、若い世代にはない経験や知見があります。
多くの成功や失敗、人間関係、仕事上の判断を積み重ねてきたからこそ、本来は語るべき言葉をたくさん持っています。
また、自分の信念や人生で大切にしたいことも、実は胸のうちに秘めている人も沢山います。
必要なのは、これまでの経験を否定することではありません。
その経験を、新しい時代に通用する思考と言語化力へ変換することです。
正解主義から最適解思考へ。
完璧主義から最善主義へ。
AI依存からAI活用へ。
自分の頭で考え、自分の言葉で伝えることができれば、会議での発言やプレゼンだけでなく、部下育成、意思決定、キャリア形成にも確実に大きな変化が生まれます。
自分の頭で考える。自分の言葉で伝える。そして、自分のキャリアを切り開く。
言語化の土台となる「考える力」を、40代・50代の今こそアップデートしてほしいと考えています。
それこそが、AI時代にも順応できるライフシフトなのです。