家族介護の経験を起業に生かす「理想の人生にコミットする人を輩出したい」

遠藤 あみ

遠藤 あみ

アイキャッチ画像_嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_遠藤 あみさん

大学3年生のときに起業を決意した遠藤あみさん。友人とイベントを企画したり、介護職に特化した求人アプリの開発にも携わっています。その背景には、要介護レベル5の実姉の存在がありました。「介護のマイナス面をプラスに変えたい」と語る遠藤さんに、これまでの歴史や今後のビジョンについて伺いました。

「自分よりも家族優先」が当たり前な介護の現実

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私は大学卒業後、社内ベンチャーで業務委託として営業や人材育成を行っています。具体的には、コールセンターや物販事業があり、クライアントからいただいた商材を代理営業しているという形です。最終的には、持ち株を100%自分にして、法人化する予定です。

起業を目指したのは大学3年生の時で、きっかけは4つ上の姉の存在です。姉は、小学生3年生の時に交通事故で、要介護レベル5の状態です。15年間、家族で介護してきましたが、その姉が大学3年の時に、原因不明の生死をさまよう状態になったんです。この時、“人の死”というのがとても間近に感じられました。

「目の前で姉が死ぬかもしれない」と感じた時に自分の無力さを感じて絶望しました。そして「このまま大事な人が死んでしまったら後悔する」と強く思いました。

この経験から「介護業界で何かしたい」と思い始め、起業を決めました。ただすぐに介護業界で起業できるとは思っていなかったので、まずは自分のできることを一つひとつやっていこうと思い、マーケティングや経営についての勉強をはじめました。

『コトノハ』で体感した“言葉の持つ力”

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2021年に、友人に誘われて『コトノハ』というプロジェクトを立ち上げました。言葉の大切さを啓蒙(けいもう)するプロジェクトで「コトバ×カフェ」をテーマにした、“大切な人に手紙を書けるカフェ”というイベントです。

SNSやLINEが発達した現代では、素直な言葉をやりとりするという機会が減っていると感じています。だからこそ、言葉のすれ違いが起きているのだと思います。そこで「手紙なら素直に思っていることを書けるよね」という話になりました。

小学生の時には、クラスメイトや友達とお手紙交換をすることがあったので、そういうアナログの良さが今の時代にも必要だと考えたんです。そこで、気軽に手紙を書ける場所としてカフェを選択し、言葉とカフェを組み合わせたイベントを企画しました。

実際にお客さまがコーヒーやお茶を飲みながら、便箋に向き合って手紙を書いている姿を見た時、胸が熱くなりました。夫婦やカップルでいらしている方もたくさんいて、その方たちが隣の人を思いながら手紙を書いて交換し合い、笑いあっている姿を見て、感動しました。まさに「笑顔の連鎖が起きている」と体感したんです。

これまで原宿や鎌倉など、さまざまな場所で4回ほど開催してきました。最初は実績がなかったので貸してくれる物件を探すのに苦労しました。

カフェの経営から集客の方法、SNSマーケティングまで幅広く学んでいましたが、学ぶのと実行するのとでは大違いです。それでも試行錯誤をしながら一つずつ形にしていって、「女子大学生3人でよくやれたな」と思います。

場所を貸してくれたオーナーのみなさんも、私たちの「笑顔の連鎖をつくりたい」というビジョンに共感してくださり、興味を持っていただきました。もちろん、「NO」といわれることもたくさんありましたが、それもすべて経験だと思っています。

自分の理想の人生にコミットできる人を輩出する

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私が最も大事にしていることは、どんなことでもポジティブな側面を見ることです。たとえば、「お姉ちゃん、かわいそうだね」と言われることもありますが、それに対して「死ななかった分だけラッキーだから!」と伝えています。初めはそう思えなかったんですが、姉のおかげで今の私の考え方と目標があるんだと考えると、「ありがたい」と感謝できるほどです。

この経験は、仕事にも生かされています。エンジェル投資家の方にたくさんのプレゼンテーションをした時も、ほとんどがNOでした。でも、このNOは否定でもクレームでもありません。大事なことは、「NOから何を学べるのか」「次にどう生かすのか」ということです。

今後は、介護職に特化した求人アプリをリリースしたいと考えています。モデルとなっているのは、“スキマ時間にすぐ働ける”というコンセプトの『タイミー』というアルバイトアプリです。このアプリの介護バージョンをつくりたいと思っています。

介護のスキルや資格を持っていても、何らかの事情があって仕事を辞めてしまった人は大勢います。でもスキマ時間を有効に使えれば、介護職に復帰できる人も多いと思います。そうすれば、家族の介護を理由に仕事を辞める人を減らすこともできますし、質の良い介護をうけることもできます。

現状での介護業界は、「汚い・危険・きつい」という3Kだと言われますが、負担が大きいというイメージをつくっているのは、働いている人の姿だと思います。

ヘルパーの方が楽しそうに働いていて、それを見た子どもが「かっこいい!あんな楽しそうに働いている!」と思えたら、介護職を目指す人もどんどん増えるのではと考えました。このアプリを活用すれば収入にもプラスになりますし、仕事をする人にとっても、介護をうける人にとっても、互いに最適な選択になると考えています。

私は、「自分の理想の人生にコミットできる人を輩出する」というビジョンがあります。姉の介護をしている両親を見ていて、「両親は姉のために生きているのではないか」「生活のすべてを姉に注いでいるのはかわいそうだ」と思いました。

私はドライなのかも知れませんが、介護が必要な姉がいても、自分のやりたいことを諦めるつもりはありません。姉のサポートをしながら、やりたいことをやり尽くすつもりです。私がそうなれば、同じ境遇の人に勇気や希望を与えられると思っています。これは、当事者である自分にしかできないことです。

同じような境遇の方々の希望に私がなれるように、「理想の人生にコミットする」 これをまずは私が体現していきます!

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