「税務署は見ている。」の著者“おかん税理士“の~調査官目線を知って経営に活かそう!~vol.3

飯田 真弓

飯田 真弓

2022.08.26
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ワクセルコラボレーターで元国税調査官の“おかん税理士”こと飯田真弓さんに学ぶ、税務の知識。連載コラム第3回のテーマは“家事費”です。家事費の考え方について、具体例にもとづきながら分かりやすく解説していただきました。

ワクセルのコラムをご覧になっている皆さん。

こんにちは。国税勤務26年、元国税調査官“おかん税理士“の飯田真弓です。

みなさん、体調はいかがでしょうか。依然としてコロナが猛威を奮っていますよね。感染予防として、うがい手洗いを励行し、機会があるごとに抗体検査を受けるようにしたいものです。

さて、8月といえば高校野球。私の息子は小学校から野球をしていて、高校3年生の最後の大会を観に行ったことを思い出します。平日だったんですけど、行くことができたのは、国税を退職していたからでした。

フリーランスの場合は、ある程度、自分の都合で仕事を休んだりできるので、そういう点からも、勤め人よりも自分らしく働くことができるのかなと思ったりします。コロナの影響で、会社員の方でも在宅勤務や様々な働き方をされている方が増えましたよね。

~仕事は会社で、家に帰ったらゆっくり仕事のことは忘れてくつろぐ~

という風に完全に仕事とプライベートを分けて考えることが難しくなってきたと言えるかも知れません。そこで、今回は、“家事費”について書いてみたいと思います。

勘定項目に家事費はある?

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「えっ、家事費?なにそれ、そんな勘定科目あったっけ??」

と思われたでしょうか。そう思われた方、正解です。所得税の青色申告決算書に印字されている勘定科目に“家事費”という言葉はありません。

「じゃあ、家事費って、いったい、なんなの?」

という声が聞こえてきそうですね。ではここから、家事費について説明していきますね。

前回の記事では、必要経費について書かせていただきました。文字だけを追って読まれた方は、“へ~、そうなんだ~”という感想にとどまったと思います。

「今年も7月まできたし、ちょっと集計してみようかな」

ということで、実際にやってみられた方の中には、

「自分が直接だと思ったら必要経費にしていいって書いてたからその通りにやってみたけど、ホントにこれでいいのかなぁ~」

と、余計に不安になったという方がいらっしゃったのではないでしょうか。ごめんなさい。と、ここで一度謝っておきます。

記事というのは、一方通行でなかなか掛け合いができません。なので、ひとつのテーマについて、基本的な考えについて書くことになり、言葉不足になったりもするんです。

ワクセルさんの記事は、シリーズで書かせていただいているので、年度末には、私のお伝えしたことの全体像が見えてくるかなと思います。読んでいてモヤモヤすることがあったら、ワクセルさんに質問などをお寄せいただければ、それ以降の記事の中でお答えできればと思っています。

ということで、今回の記事について理解しやすくするために、ちょっとAさんに登場していただきましょう!

家事費について分かりやすく解説

見出し2画像_嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_飯田真弓さん_貯金箱

Aさんは咀嚼音ユーチューバーです。毎日、いろんなものを食べては、その音を動画に納めて配信しています。誰もが普通に口にするものから、珍しいものまで、いろんなものを口に入れては咀嚼します。

学生の頃、見よう見まねで始めたのですが、その音とその口許と、ルックスと声も愛らしく、アクセス数がどんどん伸びていきました。

コロナ禍で就活にも身が入らず、それよりも「今日はどんなものを食べて配信しようかな」と考えることの方が楽しく、自分が生活するには困らない程度のお金が入金されるようになったこともあり、しばらくはこのまま咀嚼音ユーチューバーを続けていこうかなと思っているのが現状です。

ちなみに、Aさんは、今まで確定申告書を提出したことはありません。Aさんは、前回の記事を読んで令和4年分の上半期の計算をしてみました。

1月から6月まで通帳に振り込まれていたお金を合計すると、180万円でした。合計してみて、就職して毎日会社に行くより多いかもと思いました。

次に必要経費の計算をしました。咀嚼するための材料は毎日買いに行きます。Aさんは前回の記事を読んで、口に入れ映像にして配信したものはその収入を得るための直接的な費用と考えました。

それを合計すると、1月から6月で50万円でした。1日にすると2,700円程度。まあ、それくらいは、食べてるよなあと納得しました。

撮影は自分が住んでいるワンルームマンションです。この部屋がないと撮影できないので、部屋代も収入を得るための直接的な費用と考えました。1ヶ月の家賃が5万円なので1月から6月の6ヶ月分の家賃の合計、30万円を必要経費に入れました。

衣装というほどでもないけれど、毎回、どんな服を着ているのかも話題になるので、コスメやヘアアレンジにもお金を使っています。1月から6月まで合計すると30万円になりました。配信するとき衣装はなるべく同じもの着ないようにして、配信で使った後は普段着にしているそうです。

今年に入って、画像に凝りだし撮影用の機材を新しく購入しました。これもユーチューバーにならなかったら買いませんでした。なので、直接的な費用だと考え、その全額70万円も必要経費として計算しました。

【収入】
 180万円

【必要経費】 
 材料  50万円
 家賃  30万円
 衣装等 30万円
 機材  70万円

 合計  180万円

ここまで計算してみて、Aさんは、はたと気づきました。

「えっ、差引き0円?税金払わなくっていいの?」

計算をしてみて、Aさんは、不安な気持ちになったというわけです。

さあ、ここで家事費が登場します。家事費とは、生活部分の費用です。Aさんは、咀嚼音に使った材料を全額必要経費に入れて計算していました。そこまではいいんですけど、配信した後、食べているんですよ。食べると必要経費にならないってわかりますか。

衣装にも同じことがいえます。配信で使った後、普段に着ていると言ってます。裸で日常生活送る人は少ないと思います。衣装ということで、普段に着ることができないものであれば、全額必要経費で構わないでしょう。

でも、使った後、普段に着るということであれば、その費用の一部は必要経費から除かなければならないという理屈になるんです。ちょっと、ややこしいですよね。

法律でよく使われる言葉に“社会通念上”があります。常識の範囲みたいな意味でしょうか。家賃も同じ考え方です。撮影することだけに借りているのであれば、全額必要経費に入れてよいでしょう。

でも、Aさんは、この部屋に住んでいると言っています。住んでいる部屋を利用して撮影しているというのが所得税法の考え方なんです。

なので、Aさんは、先ほどの計算をした後、どれくらい生活部分として使っているかを考えて、家事費を必要経費から差引きするという作業をしないといけないということになります。

家事費を加味して正確な申告を

見出し3画像_嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_飯田真弓さん_電卓とノートTAXノート

ご理解いただけたでしょうか。この家事費をどれくらいにするかは、ご自身にしかわからないんですよ。それが、前回も書いた、申告納税制度の所以なのです。

最後に補足です。この記事は主に、

・今はまだ会社勤めだけど、近い将来独立開業したいと思われている方
・起業して間のない方
・フリーランスとして事業を展開しているけれど、税務について不安に思っていることがある

というような方々に向けて書いています。

法人の場合は法人税法の解釈になるので、このとおりではないという点をご理解いただければと思います。