「税務署は見ている。」の著者“おかん税理士”の~調査官目線を知って経営に活かそう!~vol.2

飯田 真弓

飯田 真弓

2022.07.11
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ワクセルコラボレーターで元国税調査官の“おかん税理士”こと飯田真弓さんに学ぶ、税務の知識。個人で事業を営んでいる方は、税務やお金について知っておくことで、本業に集中できます。連載コラムの第2回のテーマは「必要経費について」。早速大事な考え方を学んでいきましょう。

ワクセルのコラムをご覧になっている皆さん。

こんにちは。国税勤務26年、元国税調査官“おかん税理士”の飯田真弓です。

2022年も7月を迎え、半分過ぎましたね。コロナは終息を迎えることなく、withコロナ時代到来となりましたが、みなさんの事業はいかがでしょうか。

好きなことを仕事にしたいと思って起業された方。なんでもいいから儲かることをしたいと思って起業された方。自分が困っていることを解決しようとしていたら、他の人も同じことで困っていてそれが仕事になっていったという方。起業のきっかけやタイミングは人それぞれだと思います。

ここでは、どんな業種業態であっても、知っておきたい税務に関する事柄についてお伝えできればと思っています。

さて、今回のテーマは、必要経費についてです。

ワクセルさまでは、昨年の8月31日(火)知っておきたい税務の知識~必要経費編~というタイトルで、動画配信をさせていただきました。動画を観ていただいた後、ご質問をいただき、お答えもさせていただきました。

今回の記事は、昨年、動画を観て下さった方からすると重複する部分もあるかと思うのですが、そこは、おさらいだと思って読み進めていただければと思います。

必要経費はどこまで認められる?

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全国の法人会様、商工会議所様、各種企業団体様にお招きいただき、税務調査についてのお話をさせていただいた際、

「必要経費って、どこまで認めてもらえるんでしょうか?」

と、いう質問をよくお受けします。

「そうそう、私も、必要経費がどこまで認めてもらえるのか知りたいわ!」

そう思われた方、いらっしゃるかと思います。でも、その考え方、ちょっと違うんですよ。

「えっ、何が違うの??」

そんな声が聞こえてきそうですね。では、説明していきましょう。

まず、日本の税制についてです。我が国の税制は“申告納税制度”をとっているということはご存知だったでしょうか。

「なんか、急に難しい話になるのかな?」

と思われましたか。いえいえ、大丈夫ですよ。申告納税制度については、国税庁のHPで説明しています。

~申告納税制度を支える二つの柱、「納税者サービス」と「適正・公平な税務行政の推進」~

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 (略)

 我が国においては、戦前は税務官署が所得を査定し、税額を告知するという賦課課税制度が採られていました。しかし、昭和22年(1947年)に、税制を民主化するために所得税、法人税、相続税の三税について、申告納税制度が採用され、その後、すべての国税に適用されるようになりました。

 この申告納税制度が適正に機能するためには、第一に納税者が高い納税意識を持ち、法律に定められた納税義務を自発的に、かつ適正に履行すること(コンプライアンス<法令遵守>)が必要です。そこで国税庁は、納税者が自ら正しい申告と納税が行えるよう、租税の意義や税法の知識、手続きについての広報活動や租税教育、税務相談、確定申告における利便性の向上など、さまざまな納税者サービスの充実に努めています。

 また、納税者の申告を確認したり、正しい申告へと導いたりするためには、的確な指導と調査の実施が必要です。国税庁は、是正が必要な納税者に対して、的確な指導や調査を実施し、適正かつ公平な課税が実現するよう、適正・公平な税務行政の推進に努力しています。      

【国税庁HPより引用】

私が、国税調査官をしている時から不満に思っているのは、上の文章の前段で書かれている「納税者サービス」です。この「納税者サービス」という部分が充実していないと思っているんです。

十分に指導せず、ある一定期間放置し、間違っているところを見つけては税務調査に入って追加の税金を取りに行くという流れ。不親切、極まりないと思うわけです。

私が、国税を退職してから、いろんなところで、税務調査についてお話するようになったのは、本来、国税当局がなすべき部分を代行しているという意識があります。

上の文章には、“納税義務を自発的、かつ適正に履行すること”と書いてありましたよね。まずは、自分で正しいと思うように書いて出してくださいね。その後、指導や調査しますという二段構えなんです。

確定申告書を提出(e-Taxの場合は、送信が受理)したら、すなわち、その内容が認められたということではないんです。必要経費も含め、申告内容の是非を確認するのは、数年後、税務調査の際ということになります。

必要経費は「収入を得るための直接に要した費用」

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じゃあ、自分で確定申告書を作成し、提出する時に法律に定められた納税義務を果たそうとするにはどうすればいいのでしょうか。それには、その法律を知らなければなりません。

でも、所得税法すべてに目を通すのも大変ですよね。必要経費は、所得税法の37条に謡っています。

【所得税法 第37条 必要経費】

その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額(事業所得の金額及び雑所得の金額のうち山林の伐採又は譲渡に係るもの並びに雑所得の金額のうち第35条第3項(公的年金等の定義)に規定する公的年金等に係るものを除く。)の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。

この法律を簡単にまとめてみると必要経費とは、“収入を得るための直接に要した費用”と読み取ることができると思います。

その支出が、収入を得るために直接に要した費用なのかどうかの判断は、ご自身ですることになるんです。それが、申告納税制度といわれる所以なんですね。

必要経費かどうかの線引きは自分でする

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極端な例になりますが、とても高額なスーツが必要経費に入っていたとしても、その売り上げを得ることができたのは、そのスーツを着て行ったからで、それ以外には使わないということがきちんと説明できれば、直接に要した費用と言えるという感じです。

必要経費を考える際に、併せて押さえておいてほしいことがあります。それは、領収書ありきではないという点です。

その支出が売り上げを得るためのストーリーのもとに支払われたことが説明できないのであれば、領収書があっても必要経費にはならないのだということを、ご自身で理解しておくことです。

必要経費に入るのか入らないのか。それは、その人、それぞれが、自分で線引きをしなければならないということです。

「こいつ気に入らんけど、飲み食いさせといたら、仕事回してくれるからな」

という場合は、必要経費に入れていいかも知れません。

「友達だし、仕事の話しなんて全然しないけど、もしかしたら、いつか仕事を回してくれるかも」

という相手との飲食代を払ったという場合は、必要経費にはならないというのが正解の気がします。

どっちかなと迷う要素があるものは、必要経費に入れないのが無難でしょう。

2022年分の領収書も半分たまってきたと思います。ストーリーが再現できない領収書がたくさんある方、要注意です。

7月以降は、領収書を手にした都度、収入を得るための直接的な費用かどうか、判断するように心がけたいものですね。