母ちゃんと温泉
野寄聖統(のよりまさのり)さんは、医療系の公務員として勤務後、接骨院の副院長とアロマスクールのインストラクターを兼務し、全国のエステサロンやリラクゼーション施設の品質管理や技術指導を担当しました。その後、アロマテラピーやハーブを扱う会社の立ち上げや、オーガニック製品の販売やコンサルタント、飲食事業を展開しています。本コラムでは、視覚障害で全盲になった母親をもつ野寄さんが、親孝行についてどのように考えているのか、ご紹介します。
全盲になった母親。一瞬一瞬を大事にしたい
先日、母と温泉旅行に行ってきました♪
自分が起業した年に母は脳内にできた病気の手術の影響で、丸一日かかった大手術は成功し命はとりとめましたが、脳内の血管の塊が視神経を巻き込んでしまっていて麻酔から覚めると全盲になっていました。左半身もマヒが残って今もちゃんと歩けません。
母子家庭、女手一つ育ててくれました。よくぞ育ててくれたなと思います。
育てるために、やりたいことも楽しいことも沢山我慢をして、自分と妹が成人するまで、身体が不自由になるほど懸命に働いて育ててくれました。
今回の旅行中も
あと何回一緒にお風呂に入れるか?
あと何回大好きな花の香りを嗅ぎながら手をつないで一緒に散歩ができるか?
あと何回食べたいものをこぼしながらでもいいから一緒に食べられるか?
あと何回綾小路きみまろのCDで涙を流しながら一緒に笑えるか?
いつが最後になるか正直分かりませんが、一瞬一瞬を大事にしたいと感じました。
でもいま自分が味わっているってことって自分が子供の頃に母はそうやって
お風呂に入れてくれて
よちよち歩きの手を引いて一緒に歩いて花の素晴らしさを教えてくれて
食べ散らかしながらもじっと待って食べたいもの食べさせてくれて
真面目な母なりのつまんないギャグを聞かされて
いたことを今度は自分が同じようにしているんだなってことです。
いままで、してもらってばかりで、自分がする側になって気付くことばかりです。
なんでも当たり前じゃないですね。
気付くのが遅くてごめんなさい。
ご飯は、お互い気を使い過ぎずに
温泉から移動してランチは友人が経営するトンカツ屋さんへ。
ちょっと伝授しますね。
視覚障がいのある方とご飯を食べる時は、親切心でもお皿やお椀、コップの配置を勝手に変えない事です。先ず、エプロン、膝掛けをして、何処に何があるかを手で器に触れさせて、後は助けを求められるまでお任せします。お互い気を使いすぎる事なく、食事を楽しみましょうね。
今回母ちゃんはスプーンで食べられる味噌カツ丼を注文。
スプーンですくって最初に口に運ばれたのがトンカツではなく、トマトでしたが、ちょっと意地悪をして静かに見守ってみました。サクサク揚げたて、たっぷり味噌ソースのついたトンカツを想像していたのに、噛んだらブチュッと酸味のあるトマトだった衝撃といったら・・・(笑)
大笑いしながらのご飯タイムといっても口から足元までいっぱいこぼすし、わがまま言うし正直言ってイラついてしまうこともありますが、あと何回一緒にご飯を食べる時間を過ごせるのかと思うとやはり一回一回を大事にしたいです。
自分が幼い子供の頃は、こうやってこぼしながら食べるのを根気強く付き合ってくれてたんだよなぁって、この歳になってまた気付きます。
おかげさまで1人でご飯くらいは食べられるようになりました。
ありがとうございます。
元気で、大笑いしながらこれからも一緒にご飯食べようね。
親孝行には期限がある
母は視覚障がい者にはなってしまいましたが、自分で歩けて、自分でご飯を食べることができて、旅行を楽しめる状態で間に合ってよかったと思います。
起業してから順風満帆ではなかったですが、背水の陣で成功を決めて死ぬ程働きました。今は存分に親孝行ができます。悲しいけど肉体があるうちにできる親孝行には期限があります。
家に帰って肩もみするだけでも親孝行ですが、毎日一緒にお風呂に入って手をつないで散歩するだけではただのニートで幼少期よりも心配されちゃいます(笑)
親は自分たちに、要求はしてきません。子供たちが自分の生活で精一杯だからです。
遠慮せず、やりたいことや欲しいものをねだってもらえる位にぶっちぎりの実績を創りましょう。
親が元気なうちに、歩けるうちに、目が見えるうちに、一緒にご飯が食べられるうちに、手をつなげるうちに、安心しておねだりしてもらえるように、自己実現・成功しましょうね。