仕事に悩んでスペイン巡礼へ。100km歩いて気づいた「人生は道のり」

とも

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2026.10.17
column_Tomo

観光・地域づくりの分野で歩んできたともさんが、仕事への情熱を見失ったことを機に挑んだスペイン巡礼の旅。100kmの道のりを歩き続けた先で見つめ直した「働くこと」と「生きること」の輪郭とは。立ち止まり、悩みながら進むすべての人へ贈るコラムです。

「このままでいいのかな」

仕事をしていると、ふとそんなことを考える瞬間がある。
僕の場合、それがだんだん大きくなっていた。

これまで旅行や観光に関わる仕事をしてきて、いろいろな地域を訪れ、人と出会い、新しいことをつくることには大きなやりがいを感じてきた。

ただ、ある部署異動をきっかけに、自分が仕事に対して感じていた情熱がなくなっていた。

そんなとき、以前から興味があったスペインの「カミーノ・デ・サンティアゴ」を歩いてみることにした。

目的地は、サンティアゴ・デ・コンポステーラ。

今回は、その手前にあるサリアからスタートし、約100kmを5日間かけて歩く。

観光ではない。毎日ひたすら歩く。
そして、その時間の中で、自分自身と向き合ってみようと思った。

いよいよ、100kmの旅が始まる

出発の日。前日からサリアという町に泊まっていた。
朝7時半ごろに宿を出たが、外はまだ夜中のように真っ暗だった。

「本当にこっちで合っているのかな?」

サリアの町を歩きながら、巡礼路を示す黄色い矢印を探す。
ところが、なかなか見つからない。

昨日の夕食帰りに見た矢印を思い出し、とりあえずそこへ向かうことにした。
途中、巡礼者らしきスペイン人女性2人組を見つけ、一緒に歩く。

黄色い矢印を見つけたときは、ちょっとほっとした。
そして、いよいよ出発。

町を抜けると、少しずつ巡礼者が増えていく。
朝もやの中に広がる田舎道。牛や馬がいる。
林の中を歩いたかと思えば、青空の下に広大な景色が広がる。

「ああ、カミーノに来たんだな」

そんな実感が少しずつ湧いてきた。

見出し1画像嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_とも_途中の道

途中の小さなカフェで紅茶とバナナを食べ、クレデンシャルに最初のスタンプを押す。
こうやって一つずつスタンプが増えていくのも、巡礼の楽しみのひとつだった。

見出し2画像嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_とも_パスポート

それにしても、スペインは何を食べても美味しい。
疲れた体で食べるピザトーストが、驚くほど美味しい。

見出し3画像嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_とも_ピザトースト

「こんなに普通のものがうまいのか」
そんなことを思いながら、また歩く。
初日は足がまだ慣れていない。
プルプルになりながら、なんとかポルトマリンという町へ到着した。

見出し4画像嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_とも_アルベルゲ

宿泊するのは「アルベルゲ」と呼ばれる巡礼者向けの宿。

見出し5画像嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_とも_80人部屋

80人ほどが同じ部屋で眠ることもあり、普段ならなかなか経験しない環境。
それでも、シャワーを浴び、洗濯をして、食事をして、ベッドに入る。

21時や22時には自然と眠くなる。
シンプルな生活だった。

歩く、食べる、また歩く

2日目になると、少しずつ歩くことにも慣れてきた。
朝はまだ暗い。
歩いているうちに朝日が昇り、冷えていた身体が少しずつ温まっていく。
小高い丘を越えると、目の前に広大な景色が広がった。

見出し6画像嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_とも_朝日

歩いて、休憩して、食べて、また歩く。
身体は疲れる。
でも、不思議と嫌な疲れではない。

見出し7画像嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_とも_歩く

歩いていると、頭の中が整理されていく

3日目、4日目になると、歩くことそのものにはかなり慣れてきた。
そこで、ある変化に気づいた。

歩いている間、ものすごくいろいろなことを考える。
仕事のこと。
家庭のこと。
人間関係のこと。
これからの人生のこと。
普段なら頭の中をぐるぐる回り続けるようなことを、歩きながら一つずつ考えていく。

そして、不思議と少しずつ整理されていく。
「悩んでいても仕方ないな」
そう思えるようになると、今度は目の前のことに意識が向いてくる。

風が気持ちいい。
足が少し痛い。
次のカフェはどこかな。
今日の夕食は何を食べよう。
そんなふうに、意識が「今」に戻ってくる。

これが、いわゆるマインドフルネスなのかもしれない。

今回のカミーノでは、「歩く瞑想」を一つの目的にしていた。
実際に歩いてみると、ただ歩くだけなのに、頭の中が少しずつ静かになっていく感覚があった。

一人で歩く。でも、一人ではない

見出し8画像嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_とも_道しるべ

カミーノでは基本的に一人で歩いた。
ただ、完全に孤独というわけではない。
道中では、ポーランド人、ベネズエラ人、イタリア人、スペイン人など、さまざまな国の人たちと出会った。
同じ方向に歩いていると、自然と会話が生まれる。

そして、また別の場所で偶然再会する。

「さっき会った人だ」

そんな小さなつながりが、旅をより楽しくしてくれた。

そこで改めて気づいた。
自分は、人と話すことが好きだ。

同じ目標に向かっている人と話すことが好きだ。
当時、仕事では人と話す機会が少なくなっていた。

そのことに少しモヤモヤしていた自分にとって、カミーノでの出会いは、自分が本当に求めているものを教えてくれたように思う。

最後に待っていた「試練」

そして5日目。

いよいよサンティアゴ・デ・コンポステーラまで残り10km。

ところが、その日の朝は今までとは違った。

まだ真っ暗な中、林の中へ入っていく。
周りには誰もいない。
ライトを点けないと前が見えないほどの暗闇。

「道を間違えたんじゃないか?」と思った。

見出し9画像嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_とも_黄色い矢印

でも、黄色い矢印はちゃんとある。
ならば進むしかない。

不安を抱えながら、一歩ずつ前へ進んだ。
しばらくすると、空が少しずつ明るくなってきた。
月明かりから朝日へ。

さっきまでの不安が、すっと消えていく。
今思えば、ゴール直前に最後の試練を与えられたようにも感じる。

そして、その先で一人のアメリカ人男性に声をかけられた。

「Where are you from?」
「Japan」

そう答えると、

「え、日本かい?」

まさかの日本語だった。

日本に37年間住んでいたという彼は、とても陽気で、最後の道のりを一緒に歩くことになった。

仕事に悩んでカミーノに来たことを話すと、彼はこんなことを言ってくれた。
「40代はまだ人生のhalf wayだ。これからもっと良くしていけばいい」

最後の最後に、そんな言葉をもらえた。
偶然の出会いだった。

でも、あの場所で、あの時間に歩いていたからこそ生まれた出会いだった。

そして、ゴールへ

見出し10画像嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_とも_ゴールへ

町並みが少しずつ変わっていく。
車が増え、建物が増える。
そして、古い町並みの向こうに大聖堂が見えてきた。

坂を下り、短いトンネルを抜ける。
広場に出て、振り返る。
そこには、サンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂があった。

見出し11画像嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_とも_大聖堂

「ついに着いた」

感動で涙が出そうになった。
達成感。
終わってしまう寂しさ。

大聖堂の壮大さ。
いろいろな感情が一気に押し寄せてきた。

約100km。
5日間。
長かったような、あっという間だったような。

でも、不思議なことに、ゴールした瞬間に「もっと歩きたい」と思った。
そこで初めて気づいた。

目的は、ゴールに着くことだけではなかったのだ。
歩いている時間そのものが、旅だった。

見出し12画像嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_とも_歩いてる時間が旅

ゴールの先で考えたこと

到着後は巡礼証明書を受け取り、12時のミサにも参加した。
運よく、大きな香炉を振る「ボタフメイロ」の儀式を見ることもできた。

見出し13画像嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_とも_ゴールの先で

その後は市場を歩き、スペイン料理を食べ、町を散策。
夕方には大聖堂を照らす美しい夕陽を眺めた。

夜には、昼間とはまったく違う静かな大聖堂を見に行った。
広場に座りながら、この旅を振り返った。

今回のカミーノに来た理由の一つは、仕事について悩んでいたからだった。
1年半ほど前の望まない部署異動をきっかけに、自分が仕事に何を求めているのか分からなくなっていた。

でも、5日間歩いてみて、少し答えが見えた。
自分は、ただ穏やかに過ごせればいい人間ではない。

目標に向かって進んでいるときにこそ、生きている実感がある。
新しいことに挑戦する。
知らない場所へ行く。
人と出会う。
経験する。

そして、また次の場所へ向かう。
たぶん、そういう生き方が自分には合っている。

「心を燃やして取り組める仕事がしたい」

カミーノを歩いたからといって、仕事の悩みがすべて解決したわけではない。
人生の答えが見つかったわけでもない。
でも、頭の中にあったモヤモヤは、少し軽くなった。

そして、これからどちらへ進みたいのか、その方向だけは少し見えた気がする。
人生は、どこかにたどり着くことだけが目的ではない。

一歩一歩進みながら、その途中で何を感じ、誰と出会い、何を考えるのか。
その積み重ねこそが、人生なのかもしれない。

約100kmのカミーノを歩き終えた今、そんなことを思っている。
そして、たぶん僕のカミーノは、ここで終わりではない。

また次の道を歩き始めるのだと思う。

見出し14画像嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_とも_次の道
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