40代のミドルエイジクライシス(中年の危機)|壊すことで人生が変わった

会社員から独立し、コーチとして人生を切り開く萩原たく(はぎわら たく)さんの連載コラムです。毎日忙しいけれど、仕事は安定している。愛する家族もいる。周囲から見れば、何も問題はない。それなのに、ふと「このままでいいのだろうか」と不安になる。僕も40代を前に、そんな”ミドルエイジクライシス”を経験しました。今振り返ると、あの迷いは人生を見直すための大切なシグナルだったと思います。
今回は、僕にとって、ミドルエイジクライシスは「人生の危機」ではなく「転機」となったことをお話しします。
頑張っているのに、前へ進んでいる気がしない

40代、50代になると、こんな気持ちになることはないでしょうか。
「仕事はそれなりに安定している。でも、何かが物足りない」
「自分には、もう成長の余地がないのではないか」
「若い世代が伸びていく一方で、自分は衰えている気がする」
僕自身にも、まさにそんな時期がありました。
一つ目の大きな転機は、37歳での転職です。
それまで勤めていた不動産管理会社では、マネージャーとして部下を育て、資産家や投資家との商談を重ね、1,000人以上の前で講師として登壇したこともありました。
忙しくはありましたが、それなりに結果も出していたと思います。
ただ、会社の中でこの先のキャリアを考えたとき、少しずつ不安を感じるようになりました。
「この会社で次のポジションに進めるのは、いつになるのだろう」
「50代になって…その頃の自分は、今と同じように働けているのだろうか」
さらに、当時29歳だった部下の仕事ぶりを見て、その能力や柔軟性に驚かされました。
「彼は、自分よりずっと優秀だ」
そう感じると同時に、自分の強みが分からなくなりました。
社歴が長いという理由だけで肩書きを得ても、中身のない上司になってしまうかもしれない。そう思い、僕は年収を下げてでも、自分を成長させるために転職することを決めました。
転職先は、上場を目指す社員数500人規模の会社でした。
会社は飯田橋の駅前にあり、高級感のあるThe都心のオフィスビル
「ここで結果を出して、課長、部長、さらに上を目指そう」
そんな気持ちで飛び込みました。
ところが、待っていたのは、自分が想像していた以上に厳しい毎日でした。
朝7時に出社し、自分の仕事を片づけてから部下をフォローする。昼食はおにぎりを15分で流し込み、残りの休憩時間も仕事に使う。帰宅すると、もう何もする気力が残っていませんでした。
ストレスで体は痩せ、鏡に映る自分を見て、こう思いました。
「昔の自分は、もっとイキイキしていた気がする」
強制的に止まった時間が、パラダイムシフトを起こした。

当時の僕は、アクセルを全開にしたまま、時速180キロで高速道路を走っているような状態でした。
目の前の仕事を一つ終わらせても、すぐに新しい仕事がどんどん増えていく。
寝ても覚めても仕事仕事…。仕事のタスクが山積みの日々でした。
立ち止まって「自分はどこへ向かっているのか」と考える余裕はありません。
上司から期待されると、表向きは笑顔で答えていました。
「大丈夫です。やれます。任せてください」
でも、心の中では何度も思っていました。
「いや、さすがに無理だろう」
週末の夜には、公園を走りながら、「逃げるな、負けるな、立ち向かえ」と、自分に言い聞かせていました。
頑張っている。確かに前には進んでいる。
それなのに、どこにもたどり着いていない気がする。
そんな感覚が、ずっと消えませんでした。
その状況を大きく変えたのが、2020年のコロナ禍でした。
勤めていた会社が一時的に休業となり、妻も休みに入り、子どもの保育園も休みになりました。それまで仕事ばかりだった僕が、家族3人で家にいる時間を過ごすことになったのです。
当時3歳だった息子と、近所の公園をゆっくり歩きました。
息子は、よくある公園の遊具で、無邪気に楽しそうに遊んでいました。
その姿を見ながら、僕は久しぶりに穏やかな気持ちになりました。
妻と散歩をしたり、家族で食事をしたり、近所の人と話したりする。
家族とゆっくりした時間を過ごす。
特別なことは、何もありません。
でも、ふと感じたのです。
「子供の楽しそうな笑顔、久しぶりに見たな」
「この時間、幸せかもしれない」
そこで初めて、自分に問いかけました。
「自分は、何のために働いているのだろう」
「誰のために、こんなに頑張っているのだろう」
仕事はもちろん大切です。
でも、仕事だけが人生の中心ではありません。
自分も、家族も、仕事も、すべてを含めて人生なのだと思います。
自分が楽しむこと。
誇りを持って働くこと。
家族と幸せな時間を過ごすこと。
何を優先するとか、どれか一つを犠牲にするとかではなく、一つひとつを大切にしていく。
そのために、働き方を今一度設計し直す必要があるのだと、ようやく気づきました。
40代は、人生のハンドルを自分で切る年代

休業中は、これまでより圧倒的に時間がありました。
僕はたくさんの本を読み、自分の経験や価値観を棚卸ししました。
そして、顔を出さずにYouTubeで、自分の考えを発信し始めました。
「リモートワークがしんどい」という動画を出したところ、思いがけず多くの反応をいただきました。
自分と同じように悩んでいる人がいる。
自分の言葉が、誰かの役に立つことがある。
その経験が、僕の中に新しい可能性を見せてくれました。
僕は、会社だけに依存しない働き方をつくろうと決めました。
ただし、勢いだけで会社を辞めたわけではありません。
最初の1年で準備し、2年目で実行し、3年目で成果を出す。3年かけて会社に依存しない状態をつくるという計画を立てました。
以前の会社に復職し、会社員として働きながら、コーチングの事業化を進めました。
会社員として仕事をしながら、コーチングを学び、経営やマーケティングを学び、
もはや週休2日という概念はなく、寝ても覚めても朝から晩まで、ずっと行動をしました。
これまでのキャリアから大転換です。
そう容易に上手くいくはずがありません。
「とにかく成果が出るまで、死ぬほど頑張ろう」
これまでの人生の中で一番本気を出したと思います。
とはいえ、決して順調なスタートではありません。
趣味だったゴルフを辞め、大切にしていたギターを売り、貯金を崩し、それでも足りず妻からお金を借りて、100万円以上をかけて経営を学んだり、起業の準備をしました。
生活のために軽貨物の配達も始めました。
週3〜4日は会社員として働き、残りの時間は配達、勉強、動画制作、事業準備に使う。
40代を前に、もう一度下積みから始めました。
YouTube動画を出しても、最初は再生回数が一桁でした。講座をつくっても、誰も来ません。SNSに投稿しても、反応はほとんどありませんでした。
何度も心が折れかけました。
それでも、動画を100本以上出し続けました。
すると、少しずつ状況が変わりました。
数千回、1万回と再生される動画が生まれ、
「分かりやすかったです」「こんな動画を探していました」といった言葉をいただくようになりました。
やがて受講生が増え、「個別に指導してほしい」という声も増え、企業から研修の声がかかるようになり、コーチングの収入が会社員の年収を超えました。
スケジュール的に、会社員とコーチの両立が厳しくなってきました。
また、自分が立ち上げ、育てた事業をもっと大きくしたい。
という思いも強くなってきました。
そして2024年、僕は会社員を辞め、独立しました。
2026年1月に会社も立ち上げました。
本当のスタートはこれから…という感じですが、
今は家族との時間を大切にしながら、受講生の成長を支援し、将棋や登山、サウナといった自分の時間も楽しんでいます。
もちろん、不安がなくなったわけではありません。
独立にはリスクもありますし、毎日プレッシャーも感じます。
それでも、以前のような「やらされている感覚」はありません。
うまくいくかどうかも、自分次第。だからこそ、自分で考え、選び、行動できます。
振り返ると、僕にとってミドルエイジクライシスは、人生の危機を知らせるものではありませんでした。
これまでの生き方を見直し、次のキャリアを切り開くためのサインだったのだと思います。
つまり、人生の転機だった。
締めのメッセージ
40代の皆さん、これからをどうしますか。
正直、僕のように今の仕事を辞める必要はありません。
すぐに独立する必要もありません。僕と同じ生き方を選ぶ必要も、もちろんありません。
ただ、一度立ち止まってほしいと思います。
忙しい毎日の中では、自分の本音と向き合うことは、なかなかできません。
仕事や家族、お金のことを考えれば、「そんな時間は取れない」と思う気持ちもよく分かります。
それでも、1カ月が無理なら1週間。1週間が無理なら3日。3日が難しければ、まずは半日でもいいと思います。
これまで何を頑張ってきたのか。
どんなときに遣り甲斐や喜びを感じたのか。
これから、どんな人たちと、どのような時間を過ごしたいのか。
人生において、何を大切にしたいのか。
一度、紙に書き出してみてください。
人生を40年近く生きてきた人には、誰にでも、一晩では語り切れないほどの経験があります。うまくいったことだけではありません。失敗したこと、遠回りしたこと、悩んだことも、これからの人生では大切な武器になります。
ミドルエイジクライシスは、「もう遅い」という合図ではありません。
「今までよく頑張ってきた。そろそろ、自分の人生を見つめ直してみよう」
そんなサインなのかもしれません。
ブレーキを踏むことは、後退ではありません。
自分の現在地を確かめ、進路を選び直すために必要な時間です。
そして、進みたい方向が見えてきたら、小さくてもいいので動いてみる。
本を一冊読む。
誰かに話してみる。
興味のある場所へ行ってみる。
自分の考えを言葉にしてみる。
その一歩が、人生の進路を変えることがあります。
40代は、衰退の年代ではありません。
これまでの経験を力に変えて、人生をもう一度、自分の意思で選び直せる年代です。
立ち止まった先には、これまで見えなかった道があるかもしれません。
40代は、まだまだ面白い。
僕は、そう思います。