数字と旋律を編む吉崎浩一郎さんのプロフェッショナルな「遊び心」
「パラレル活動家」として多角的な視点を持つ岡田慶子(おかだけいこ)さんの連載コラム第18回です。金融のプロでありながら音楽家としても活動するパラレル活動家・吉崎浩一郎(よしざき こういちろう)さんの生き方とは?ビジネスの厳しさと家庭人としての温かさ、そして妥協なき表現活動。相反する要素を軽やかに併せ持つ彼の「多面的な魅力」は、自分らしくあり続けるためのヒントがあります。
予想を裏切るユニークな顔

株式会社グロース・イニシアティブの吉崎浩一郎さんと私が出会ったのは、今から遡ること15年ほど前のこと。
当時私が在籍していた会社でM&A(企業の合併・買収)の専門家を必要としており、知人の紹介で繋がったのがきっかけでした。金融業界のエリートという非常にスマートでクレバーな経歴を持ちながらも、人当たりが柔らかく、話をよく聞いてくれる彼に対して、私は一気に信頼を寄せました 。しかし、そんなプロフェッショナルな彼について私の記憶に強く刻まれているのは、その華々しい肩書きとは裏腹な、驚くほど温かく等身大の素顔です。
今や様々な企業への直接、間接支援で国内外を駆け回る多忙な吉崎さんですが、独立したての当時も非常に多忙な日々を送られていました。
私からのメールや電話での相談に親身に乗ってくれていましたが、印象深いのは、朝8時半という早い時間のミーティングです。私の家と職場の間に彼のご自宅があったため、よくその時間に合わせてお会いしたのですが、彼は時折「すみません、遅れました」と少し慌てた様子で現れることがありました。
「朝、子どもの朝ごはんを食べさせて…テーブルの下の掃除機をかけてゴミ出しをしてたら遅くなってしまって…。子ども相手は時間が読めなくて…すみません」。
イクメンという言葉がもてはやされ始めたころ。しかしそこには、そんな浮かれた言葉では片付けられない、地に足のついた現実がありました 。
愛妻家で通る彼が、朝の忙しい時間に乳幼児2人のお世話を含む家庭の役割を全うしてから仕事場へ向かう。そこにはエリート然としたスマートさは微塵もなく、生活と愛情に根ざした人間味あふれる「かっこよさ」がありました。
静かな誠実。プロとしての「NO」

そんな彼のプロとしての姿勢が際立って見えた瞬間があります。
数年後、経営に行き詰まった私の知人の相談に乗ってほしいと依頼したときのことです。
困った時に真っ先に顔が浮かんだのが吉崎さんでした。彼は多忙を極める中、まずは財務諸表を送るよう言ってくれました。そして資料に目を通した彼は、一切の感傷を排して私にこう告げたのです。
「この状況では、はっきり言って打つ手はありません。話を聞くことはできますが、残念ながらお役に立てることはないでしょう。」
知人のために「話だけでも聞いてあげてほしい」と食い下がる私に対し、彼は「お互いに無駄な時間を費やすのは、相手のためにも良くない」と、プロとしての境界線を明確に引きました。無責任な期待を持たせないことこそが、真の誠実さである。10数年前のこの潔い「NO」は、相手の未来を想うがゆえの最高に誠実な回答でした。プロとしての厳しさと、人間としての深さが重なったその姿勢に深く感銘を受けたことを、常々思い出します。
満員の会場と、鳴り止まない旋律

一方で、吉崎さんにはもう1つのお顔があります。それはキーボード奏者としての表現者の顔です。彼が率いるバンドのライブは予定すれば、予約はすぐに埋まってキャンセル待ちが出るほど。会場は常に満員。当日は、よりよい席を求めて開場前から長い列ができ、わざわざ地方から友人が駆けつけるほどの熱狂ぶりを見せます。手元の履歴を確認したところ、私は2014年からこのライブに足を運んでおり、気づけば10回ほど参加していました。それは、おつきあいではなく、純粋にその場に惹かれているから。ここで知り合いになって一緒に皇居ランをする友人もできた一方、毎回友人に声をかけて参戦しています。
音楽通の友人たちが異口同音に「本当にうまい、すごいサウンドだ」と唸るその旋律は、単なる趣味の域を遥かに超えています。多忙を言い訳にせず、好きなことを極め続けるそのエネルギーには、圧倒されるばかりです。

そしてその音楽への情熱は、ライブだけにとどまらず、2019年から続くラジオ番組『サウンドキュービック(FMやまと)』でも、その感性は一貫して発揮されており、インターネット配信やポッドキャスト展開を含め、すでに5年以上続く長寿番組となっています。多くの企業の社外取締役を務め、ガバナンスの要として日々神経を研ぎ澄ませている激務の合間を縫い、高校時代からの仲間や、時には自身のピアノの先生までステージメンバーに迎えて、レコーディングやライブに魂を込める。驚くべきは、これらの継続力と周りを巻き込む力です。
パラレル活動が生み出す、信頼の厚み

かつてライブの際、彼の投資先である企業の商品であるアロマスプレーを、自らの似顔絵入りラベルで作って配っていたことがありました。「チケット代以上のお土産でお得でしょ」と笑う彼。そこには、自分も楽しみながら周囲を徹底的に喜ばせたいというサービス精神と、あらゆる場を「共創の場」に変えてしまう、愛される人柄が溢れています。その姿勢を象徴するように、彼の会社のホームページには、投資や経営コンサルティングといった本業と並んで、音楽制作や番組運営が事業内容として堂々と掲げられ、それぞれの活動サイトが並列にリンクされています。ビジネスと表現活動、そのどちらもが彼という人間を形作る不可欠な要素であることを、自ら体現されているかのようです。
吉崎さんの生き方は、いくつもの顔を持つことが一人の人間の『多面的な魅力』になることを教えてくれます。彼の奏でるキーボードの音が、そして多くの仲間と織りなすサウンドが人々を惹きつけるように、その誠実で愛嬌のある生き方そのものが、今日も多くの経営者や仲間の背中を静かに押し続けていると確信しています 。
