学校法人八王子学園 なかよし幼稚園 園長
清水弘美 × ワクセル
今回のゲストは、学校法人八王子学園なかよし幼稚園の園長・清水弘美さんです。日本における学校の特別活動の権威で、ヴィーガン(エブリワン)給食にも取り組んでいます。今回は性教育をテーマに、ワクセルコラボレーターの渋沢一葉(しぶさわいよ)さんと総合プロデューサーの住谷が、詳しくお話を伺いました。
本来の性教育は、生きていくうえで必要な知識を教えること
住谷:今回のゲストは学校法人八王子学園なかよし幼稚園の園長・清水弘美(しみずひろみ)さんです。清水さんは、日本における学校の特別活動の権威で、昨年度は全国学校行事研究会会長、全国道徳特別活動研究会副会長などを務めていました。今回のテーマである『性教育』に子供の頃から取り組むことが大事ということですが、その理由をお伺いできますか?
清水:性教育って文字を思い浮かべると「心が生きる」って書くんですよ。でも私たちがイメージする性教育は、生殖や妊娠、セックス、そういうところばかりなんですね。本当の意味での性教育は、生きていくにあたって必要な知識を教えることなんです。これを「包括的性教育」と言います。
0歳から教えたほうがいいというのは、たくさん愛される経験が大切だからです。言葉を理解する前から「自分は愛されているんだ」という実感をもてるようにすることが性教育の始まりです。0歳からたくさん愛されて、たくさん触ってもらって、そういう時間をいっぱい過ごした子供たちは、人を大事にすることができるようになります。
渋沢:うちの姪は中学生なのでハグすると思春期だから「やめてよ」とか言いますけど、それでもうれしそうです(笑)
清水:絶対にうれしいですよ。逆を言えば、ずっと何もしなかったのに、中学生ぐらいでいきなり親が「ハグしよう」と言ってもそりゃ嫌がられますよ。だから子供の頃から普通に抱きしめたり、そういうことが行われていくことはとても大事です。
触れることでオキシトシンというホルモンが出ます。『幸せホルモン』と呼ばれるもので、心が豊かになったり落ち着いたり、愛されているという実感を持ったりするんですね。しょっちゅうオキシトシンが出ている子はオキシトシンが出やすくなり、すぐに幸せを感じられるようになります。
幼稚園から性加害者にも性被害者にもならない教育を
住谷:先生の幼稚園ではどんなことを採り入れていますか。
清水:幼稚園だと、男の子が下半身すっぽんぽんで走り回ることがあったりします。そうすると周りの子がワーキャー言うから、本人は注目されている気がしてうれしくなったりするんですね。でもそれはきちんと注意しなければいけません。
自分が注目されてうれしいのは、通りで下半身をバーッと露出している大人の気持ちと同じなんです。水着で隠すところをプライベートゾーンと言いますが、知らない人はもちろん、知っている人にも見せたり触らせてはいけないと教えます。
加害者にも、被害者にもならないようにしなくてはいけません。自分の性を大事にしないといけないということを幼稚園の頃から伝えるようにしています。
日本の教育は、世界的にすごく遅れています。日本の性交同意年齢は13歳、明治の頃から変わっていないんです。性交同意年齢というのは、13歳以上の子ならお互い同意のもとで性交を行うなら、大人が相手でも犯罪にならないんです。アメリカやヨーロッパはほとんど16歳から18歳、韓国も昨年16歳に上がりました。性交同意年齢が16歳なら大人の人と性行為があれば、それだけで犯罪になるんです。
日本では、性から遠ざけろって、できるだけ触れないようにしていますよね。なぜ性教育が必要かというと、小さい子の性被害がすごく多いからです。子供は幼稚園までは親の管理下にあるけど、1年生になった途端に自由にいろんなところを歩き回るじゃないですか。だから1年生の被害者がすごく多いんです。
性教育は知識を教えるのと同時に愛も伝えていく
清水:そもそも大人たちがそういう性教育を受けていないんです。受けていないから伝えることにすごく抵抗があるんです。そこは知識として覚えて伝えるしかありませんが、「何を伝えたか」という内容より、「どのように伝えたか」ということが大事です。
もう少し大きい子なら真剣に話して聞かせることが大事なので、ヘラヘラして照れくさそうに伝えるのではなく、真面目にきちっと伝えます。あとは性を伝えるときは一緒に『愛』のことを伝えないといけません。だから「産まれてくれてありがとう」「大好きだよ」「あなたを必ず守るから」そういうことを同時に伝えることが大切です。
性は怖いもの、病気がうつるとか妊娠したら大変だとか、マイナスの部分だけを教えるのは間違った性教育です。たとえば女の子に「子供を産むのはすごく痛くてつらい」なんてことを教えちゃダメなんです。性は素晴らしいもので、うんと幸せなことなんだと教えて、そのうえで科学的な知識も教えていかなくちゃいけません。
そういう点でちゃんとした避妊を教えなくて、被害者になるのは女の子です。高校生で妊娠した場合、男の子は進学できるけど、女の子は退学することがほとんどです。それでいて、つき合おうと言われて、つき合うと言ったら性の合意を得たことになる。
日本の場合、避妊のほとんどはコンドームですから、男の人に選択権があります。つまり男性がコンドームをしてくれなかったら、妊娠してしまう可能性があるわけです。被害は女の人が受けるのに、男の人に選択権があることが間違いであって、他の国はピルをはじめ女の人が自分で自分を守るものがたくさんあります。でも日本では女の人にそういうことをさせないようになっているんです。
渋沢:好きな人ができて、結ばれて子供が生まれるのは素晴らしいことなのに、セックスはいけないもの、裸になるのはダメだよって教えたり、出産は痛いよって教えられたら少子化になっても仕方ないのかなって思いました。
住谷:では最後にワクセル・チャンネルをご覧になっている方に向けてメッセージをお願いします。
清水:性というものは次の命を生み出すもの、なんです。命が宿ったとわかった瞬間を「しまった……」ではなく「やった!」と思い、次の命を繋いでいきたいと思います。そのためには正しい知識と優しい気持ち、人と人を大事に思うような人間関係、そういうことを包括的に大人がまずきっちり学んで、次の世代をつくっていって欲しいです。