経営者対談

お笑い芸人
「猫ひろし」 × ワクセル

お笑い芸人の猫ひろしさんにインタビューをさせていただきました。

​真っ赤な衣装でネタをする姿が印象的な猫ひろしさんですが、マラソン選手としても活動されていらっしゃいます。2011年には国籍をカンボジアに変更し、2016年リオデジャネイロオリンピックでカンボジア代表として出場されました。

​今回のインタビューでは、一つのことを長く続けることに対する大切さや、人とのご縁など、経験談もとにをお話いただきました。新しいチャレンジをするのに年齢は全く気にしないという猫ひろしさんからは、目標達成するために本当に集中すべきことは何なのかについて、学べることが多いと思います。

お笑い芸人としても長く活動し、さらにマラソンも10年以上のキャリアがある猫ひろしさん。継続するコツや、目標設定のやりかたをお聞かせください。

猫ひろし:そうですねー、継続のコツ……。あまり意識しないことですかね?

マラソンをやっていると、「きつくないんですか?」「毎日走れないんですが…」という相談を受けることがあります。僕がよくコーチに言われているのは、「人間、朝起きたら、歯を磨く習慣がある。それと同じように、まず起きたらジャージに着替えて、水分だけは摂って、とにかく走ってくれ」って。

​「きつい/きつくない」ではなく、脳に順化させて「走るのが普通」にするように、と言われています。

当然、練習には強弱があるので、きつい練習もあります。そのときは憂鬱になったりするんですが、それでもやるようにしています。小さな目標を作ってそれをひとつずつクリアするようにしています。僕の場合は、オリンピックや大きなレースといった目標があるので、その目標にから逆算して小さい目標を作る。それを1個ずつクリアしていくと、タイムに表れる。そしたら楽しくなる。

「小さな目標を決めて達成する」というように工夫しています。

コーチから、「水泳選手は一日中プールにいて、プールで生活している」と聞いたんです。だから僕の場合は、「移動は全部走るくらいのイメージ」と言われたので、毎日極力走るようにしています。変な言い方なんですが、辛くてもあまり一喜一憂はしないようにしています。

インタビュアー:お笑いの世界では、結果を出されている方はごく一部だと思います。猫ひろしさんが結果を出された一番の原因はなんですか?

猫ひろし:結果を出しているかはわからないですけれど…(笑)

売れる・売れないは関係なく、お笑いが好きでずっと芸人をやっている人を見ると、すごく幸せそうに見えるんです。なんでかなと思うと、自分が好きなことをずっと続けている人が一番強いんですよ。

ずっと続けられる人は、好きなものがある。それがすごくいいなって思います。だから僕の場合は、マラソンもやってますが、僕は基本芸人というスタンスを持っています。いわゆる「足の速い芸人」(笑)

​ずっと芸人をやっていた中で、マラソンランナーもやろうと思ったきっかけは何ですか?

猫ひろし:マラソンを始めたきっかけは、番組の企画です。

マラソンはやったことなかったのですが、昔から足が速かったので、なんとなく自信はありました。芸人として番組に出て、「速いと目立つから、ここで目立たないと!」って思って走ったら活躍して、そこから走る仕事がたくさん来たんですよ。でもそれだとマラソン大会の仕事は来ても、一夜漬けみたいな感じでやっているため、長続きしなかったんです。

ちょうどその頃、運良く東京マラソンが始まり、オファーがありました。足が速いということで仕事が来ているわけですから、そこで恥ずかしい走りをしたら番組の人にも申し訳ないなと思って、その時に初めてコーチをつけたんです。マラソンは、努力したら努力した分だけタイムに表れるんですよ。それが結構性格にあって、走るたびにタイムが上がったので、ハマりました。

昨日もマラソン練習で走ったので、身体がバキバキなんですよね(笑)

​インタビュアー:42キロを走るのは、1ヶ月で何回くらいあるのでしょうか?

猫ひろし:40キロ走は、2週間に1回はやっています。大会があるかないかでメニューは違うんですが、平均すると月に2回程度になりますね。

ネタにもあるのですが、ゴール後は冷たいものが飲みたいのに、カンボジアでは温かいコンソメスープが用意してあるので絶望的ですよ。しかも寒い時期のレースではなく、暑い時期なので。ネタに思われるかもしれませんが、本当のことです。

日本での常識とはかけ離れていると言うか、マラソン大会のフォーマットがまだわからないんだと思います。コンソメスープは高級ホテルのサービスです。僕がそのレースで1位を取ったから、記念に飲んでくれって言われました。わかります?

1位って、スープが誰よりも熱いんですよ(一同爆笑)。「ありがとうございます」っていいながら、飲んでいたのですが、めちゃくちゃ熱かった。

実は、レースのフォーマットが整っていないのは、カンボジア以外でも結構多いんですよ。東南アジアやリオでもそうでした。国籍を変えてから、日本の凄さがわかりました。海外に出てから、より一層、日本って凄いんだなと。

​新しいことにチャレンジする時に大事にしていることはありますか?

猫ひろし:そうですね。まずは、年齢。選手の中では、自分が一番下だという意識を十分に持ちましたね。

あとは、芸人だからというのもあるかもしれませんが、笑わせること。場で馴染まないといけませんから。マラソンは個人競技ですけれど、みんなで練習するため、和を大事にしました。世界で活躍するスポーツ選手もよく言ってるんですが、海外の人を笑わせるんだったら、下ネタが一番いいそうです。みんな「ガハハ」って笑って、「お前、いいな!」って言われる。

ベトナムでの合宿の話なのですが、カンボジアの選手とは全員仲はいいので、毎回下ネタで笑わせてたんです。そしたら、ベトナムの選手が来て、僕の部屋に行列ができるんです。「あれを見せてくれ、下ネタを見せてくれ!」って。もう、学校の部活みたいな感じですよ。

男性の場合は、下ネタで一瞬で仲良くなりますよ。ただ、海外の女性は恥ずかしがるから絶対に言っちゃ駄目だっていわれますね。それはカンボジアでも変わりません。

​世界中の国々という選択肢がある中、カンボジアを選ばれた理由は何ですか?

猫ひろし:カンボジアを選んだきっかけも、元々は番組がきっかけです。

​その頃、マラソンの仕事はたくさん来ていたんですが、芸人の仕事がどんどん減っていったんです。そんなとき、堀江貴文さんの番組にゲストで出演したんですよ。その番組のテーマは、一発屋の芸人さんが堀江さんのところに行ってアイデアをもらうというもの。僕が行ったときは「猫ひろし再生計画」って書いてあって、僕に対して失礼だ(笑)と思いました(笑)。東国原さんみたいに「選挙に出て話題を作ろう」とか「東大に受からせて話題作りをしよう」とか。東大受験は去年堀江さん自身がやっていましたよね。

​案はたくさんあったのですが、「足が速いから、国籍を変えてオリンピックに行くのはどう?」って言われて、最初はタイムで調べるところからやったんです。向こうも冗談で言ってたんですよ、1回目のゲストだったので。

それを聞いた時に、1つの絵が浮かんだんです。スタートラインに、オリンピック常連のアフリカの人たちがいる中、僕がこの格好でスタートしたら面白いよなって思って。「やります!」って僕が言って、番組はそれで終わったんですけれど、偶然、堀江さんのスタッフにカンボジアでゲストハウスをやっている人がいて、番組とは切り離した上で話が進みました。

堀江さんとはそれで終わりだったんですけれど、「そんなに気になるんだったら、カンボジアにちょっと行きませんか」と言われ、何回も行って走ってたら、タイムがどんどん早くなっていきました。そんなこともあり「カンボジアで大会があるからそれに出て、もし入賞したらやりませんか?」と言われ、入賞したタイミングで、国籍を移してやることを決意しました。

たまたま、人とのご縁で起こったことです。きっかけは堀江さんの番組ですね。

​スポーツ選手の引退後のセカンドライフを応援する意味で、あったらいいなと思えるようなビジネスモデルやサービスはありますか?

猫ひろし:引退されたスポーツ選手の間で問題になってますもんね、「引退して仕事がなくなった」って。マラソンの人もそうですけれど。

​それだけひとつのことをやるのは、美しいことなんですけれどね。ただ、現実問題、競技を辞めた時に「あ、なにもない!」ってなって、そこから焦る人が多いと思います。僕個人の考えとしては、ひとつのことを一生懸命やっている人は、必ず助けてくれる人がいたりします。それを見逃さずにいれば、結構どうにかなるんじゃないかと思っています。

僕の場合は、マラソンを一生懸命やっていたから、堀江さんにアイデアを貰って、形になりました。とにかく、ひとつをずっとやるのが素晴らしいことだと思います。

あったらいいなと思う仕組みは、たくさんの人と話せる場所があると良いですよね。お笑いだけだと、お笑いのことしか情報は入ってきません。よほどの天才だったら、なんとかなると思いますが、そうじゃない人の方が多いのが現実です。色々な職業の人と話して刺激をうける事が、すごく大事だと思います。

例えば、僕もマラソンをやるようになってから、色々なランナーと接する機会が増えました。芸人だけやってたらわからなかったことも多い。アンテナを常に張っておいて、なんか面白い人がいそうだなと思うと、そのコミュニティや人には会いに行くようにしています。

​カンボジアの国籍を取ったけれど、戻るんじゃないか!?など、色々な批判が当時あったと思います。批判の捉え方や自分の糧にする解釈法など、プラスにするため何かされていましたか?

猫ひろし:国籍を変えてマラソンランナーになる。きっかけは番組ですし、カンボジアの人に対して失礼なことをやっているかも知れません。そのため、ある程度は批判もあるだろうなと思っていました。

一番救われたことは、カンボジアの選手から、応援してもらっていることですね。

ただ、僕はちゃんと練習をしていますし、彼らもその姿を見ていて、戦って勝ち取っているわけですから。彼らはそれに対して、猫ひろしが行くべきだと応援してくれています。彼らが応援してくれているので、ほかのことはあまり気にならないですね。

ちなみにカンボジアでは、そんなにニュースになっていなかったんです。スポーツにそんなに関心がなかったというのもありますけどね。日本ではすごくニュースになったので、当時は色々と落ち込んだりしました。しかし、結局カンボジアではニュースになってない。行ってもない、見てもいない人が、ほとんど言うじゃないですか。だから、そんな気にならなかったです。あとは、何があろうとずっと走ることは決めていたので、少しずつ状況が変わっていきましたね。

インタビュアー:マラソンは個人競技とはいえ、一緒に練習をして汗をかいている仲間がいるという意味ではチームなのかなと思います。仲間たちとの良い関係性があったから、評論家や外部の批判が気にならなかったのでしょうか?

猫ひろし:そうですね。自分ではネットは見ないんですけれど、知り合いから「なんかこんなこと言ってるよ」と、自分からキャッチしなくてもどうしても入ってきます。でもそこを気にしても、マイナスしかないから、それを逆に、力にする人やネタにする人もいます。

僕は結構傷つきやすいので、ネットの情報などは見ないです。

嶋村:起業する時も周りの人から色々と言われることも多いので、スポーツも企業も同じだなと思いました。

これまでたくさんの挑戦をし、人の想いを大事にされている猫ひろしさんの座右の銘や格言はありますか?

猫ひろし:猫…猫……ねこじゃないな。あります!

​講演会などをやらせてもらっている時に必ず言うようにしているのは、「過去は変えられないけれど、今を頑張れば未来は変えられる」。

​僕は番組がきっかけに、国籍を変えてオリンピックを目指したので、カンボジアの人に迷惑をかけているかもしれない。でも、そこばかりを気にしても過去は変わりません。今頑張れば、未来は変わる。だから常に今を頑張ろうと思っています。あと、自分がカンボジア人になって、自分にできることはないかなと常に思っています。

​最後に、これから目指している若手の起業家に一言お願いします。

猫ひろし:年齢・性別関係なく、どんどん挑戦していったらいいと思います。考えるだけでやらない人が多いので、失敗を恐れずにどんどんやってください。やっぱり1回だけの人生だから、周りのことを気にせずに、もちろん悪いことをやっちゃいけないですけれど、いいことをやって失敗する分には、気にしない方がいいです。

どんどんやれって感じですかね。

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