東京農工大学工学研究院・准教授
中山悠 × ワクセル
今回のゲストは東京農工大学工学研究院・准教授の中山悠(なかやまゆう)さんです。中山先生は、多種多様なモノや人を上手くつなげるIoT/モバイルシステムを研究しています。また研究活動だけでなく、大学発のベンチャー企業を創業して、さまざまな企業と技術の実用化に向け、取り組んでいます。
光の中にデータを混ぜ込み、インフラがない状態でもデータを受信可能に
住谷:先生は主にどういった研究をされていらっしゃるんでしょうか?
中山:東京農工大学で、IoTと呼ばれるものを研究をしています。IoTは「インターネット・オブ・シングス」の略で、「モノのインターネット」と書かれていることがありますが、要するに何でもかんでもネットにつないじゃおうという話です。
いわゆるスマートフォン、スマートウォッチ、スマートグラスなどもそうだし、ドローンや、いろんなセンサー、自動運転車など。何でもかんでもネットにつないで便利にしようという発想なんです。すべてのモノにインターネットが入っていくということです。
スマホの契約って意外と高いですよね。スマホ経由でネットにつなごうとしたら、高くなります。でも一方で、無線のイヤホンをbluetoothでスマホにつなげますが、そっちはお金はかかりません。実はつなぎ方にもいろいろあるんですよね。だからいろんなものをいろんなつなぎ方でつないで、便利にしちゃおうねというノリです。
住谷:先生は学生の頃から工学系を学ばれたのですか?
中山:実は私は農学部卒なんです。大まかに言うと造園、ランドスケープ系なので、どちらかと言うと異端です。自分が学生だったのは15年から20年ぐらい前ですが、自然環境ってちゃんと観測しないと何もわからないんです。
当時はスマホはありませんでしたが、GPSが世の中に出てきて、「今まで紙に記録していたけれど、計測したデータを全部デジタル記録していくといいよね」と言っていた頃です。
環境系の分野でも、情報技術やデジタル技術がとても大事だと思い始めたところもあり、就職はNTTを選びました。ネットワーク関係の技術を学ぶことができましたね。現在、中心的にやっていることは、大きく分けるとふたつのテーマがあります。
ひとつが、データをやり取りする通信系の技術。たとえばWi-FiとかLTEのような電波での通信も通信なんですが、私はいわゆる『可視光通信』と言われる、人の目に見える光で通信するというものです。
天井のライトでもいいし、テレビの光でもプロジェクターの光でもいい。そういう人間に見える光の中にデータを混ぜ込んで、それをカメラで撮影してデータを受け取りましょうという技術をやっております。
その技術はさまざまな使い方がありまして、たとえば人間が見る映像コンテンツの中に、デジタルデータを加えてスマートフォンで受け取ることができます。
水中や人のいない地域に、光センサーでデータをピッピッピと出して、それをドローンなどのカメラで撮影してまわって受信すると、電波の届かないところでもデータの収集ができるようになります。つまり、「インフラがなくてもいい」ということになるんです。
AIで人の行動をモニタリング。より快適な働き方を提案
住谷:それはすごいですね。もうひとつのテーマはなんですか?
中山:人の行動を観測したり、支援を行っております。センサーやカメラを使って、人がどこでどんなことをしているのかをモニタリングするんです。これは企業と一緒にやっていて、「現場に合わせた解決策を考える」ということです。
たとえば、文房具のコクヨさんと一緒にやらせていただいているものは、法人向けのオフィスづくりです。コロナ禍で、ハイブリッドワークや在宅勤務がどんどん進み、働き方を見直そうという動きになりましたよね。そうするとオフィスの使い方を見直す必要があるので、コクヨに研究所的なセクションができまして、一緒にオフィス関係の研究を進めています。
オフィスでの働き方にもいろいろありますよね。たとえばひとりで静かに仕事することもあれば、対面でミーティングすることもあるし、ホワイトボードなどを使ってアイディアを出したり、ウェブミーティングをすることもあります。
なので、オフィスをつくるとき、「このスペースはみんなで集まってアイディアを出しあいながらワイワイ仕事してほしい」とか、「こちらはひとりで籠って働いてほしい」とか目的があるわけです。
でも実際、オフィスをつくった後にどう使われているかが今までは不明なところがありました。ワイワイするエリアでみんなが静かに仕事をしていたとしたら、「ひとりエリアが足りないんじゃないか」「デザインをし直した方がいいかも」など、いろんなことがわかってみんなハッピーに働けるようになります。
つまり、「みんながどんな動きをしているんだろう」ということを、観測する手段が必要ということです。それを主にAIを使って動きを識別しています。
研究を事業化するために大学発のベンチャー企業を創業
住谷:その人の動向を管理・データ化して、何が最適なのかを見つけるんですね。
中山:はい。そうするとみんなもより快適に働けて、さらに快適になる施策が打てるんじゃないか、そういうシステムを入れられるんじゃないかと常に考えています。
もともと企業で働いていたのですが、こうして大学に移って4年が経過しました。大学で研究だけしていても何も起こらないということもあり、産業的な活動をしたいので、大学発のベンチャーを起業し、2022年に株式会社Flybyを創業しました。なので、実は私は社長なんですよ(笑)
大学での研究を事業化したいとき、他社さんと一緒にビジネス寄りのことをします。時には、会社という“技”を使わないと何もできないんですね。
たとえば、先ほどのコクヨさんとの取り組みも、一部、大学に残してるところもありますが、事業化の部分は会社で行っています。可視光通信による映像体験も、今、会社で絶賛トライアル中です。今後は何かのイベントのときに、ビジョンにスマホを掲げると面白い体験ができるような取り組みをしていきたいと思っています。