経営者対談

株式会社チャス 代表取締役
菊池康弘×ワクセル

株式会社チャスの代表取締役 菊池康弘さんは、2021年の6月に都内で唯一の木造映画館『シネマネコ』をオープンしました。

菊池さんは地元・青梅(おうめ)で飲食店の運営をしており、コロナ禍の中でも次々と店舗を出店させ、映画館のプロジェクトも同時並行させるという驚きの行動力の持ち主です。

今回は、ワクセル総合プロデューサーの住谷とタレントでワクセルコラボレーターである渋沢一葉さんが、菊池さんのその人柄や地元への想いなどを伺いました。

蜷川幸雄さんに直談判、俳優を志しニナガワスタジオ入所

住谷: 今回のゲストは都内で唯一の木造映画館を作られた菊池康弘さんです。

菊池さんは2002年、20歳の時に俳優を志し、2004年に蜷川幸雄さん主宰のニナガワスタジオに入所されています。
その後2011年、29歳の時に俳優業を辞め、地元の青梅で炭火やきとり『火の鳥』を開業。
そして今年6月に都内で唯一の木造映画館『シネマネコ』をオープンしました。

とても気になる経歴をお持ちですが、まずは俳優業を目指されたきっかけを教えてください。

菊池: 高校卒業してから夢もなくずっとフリーターをしていたんですけど、オーディション雑誌に目が行くようになり、自然と舞台とか映画に出たいと思うようになったんです。

アルバイト情報誌で俳優募集の記事を見つけ、応募したのがきっかけでした。
入所に80万円かかるけど舞台の主演をやらせてもらえるという契約で、当時はアルバイトで稼いだお金を全部突っ込んで入所しましたが、結局主演をやらせてもらえることはなく、インチキ事務所でしたね。

渋沢: 私も芸歴が長いので色々な話を聞きますけど、トップクラスにダメな事務所ですね。

菊池: 2年くらいいたんですけど、ここにいたらダメだと思って辞めました。
主演もできず実績も作れず終わってしまい、ちゃんとした世界を見たいと思ってニナガワスタジオのオーディションを受けて入所しました。

住谷: ニナガワスタジオって、誰でも入れるようなところじゃないですよね?

菊池: その時は150人くらい受けていて、受かったのが10人くらいでしたね。
僕、20歳で結婚して子どもがいたんですけど、経歴書に子どもがいることを書いていたら、蜷川さんに「子どもがいるなら止めろ。役者の世界は甘くないぞ」ってオーディション中に落とされたんです。

でもオーディションの後、稽古場の裏口で6、7時間蜷川さんを待ち伏せして、「演技が下手で落とされるのはいいけど、家族がいることが理由で落とされるのは納得がいかない」と直談判して、合格させてもらいました。

飲食店の喜び見出し地元青梅に焼鳥屋開業

住谷: すごい行動力ですね。
普通家族や子どもがいたら安定した道に行く人が多いと思うのですが。

菊池: 家庭ができて自分のやりたいことを諦めるっていうのが嫌だったんです。
夢を追って実現できる姿を子どもにも見せたいと思って。

住谷: 29歳の時に俳優を辞めて焼鳥屋を開業されていますが、これはどういう経緯で?

菊池: 俳優の仕事は死ぬまでやっていこうと思うくらい好きだったんですけど、29歳の時にふと俳優をやっている場合じゃないと思ったんです。
役者では食べていけないので10代の頃から飲食店でずっとアルバイトをして、12~3年くらいはアルバイトで生計を立てていたんですけど、本当に貧しくて。
俳優を辞めたのをきっかけに地元の青梅に戻って焼鳥屋を始めました。

住谷: なぜ焼鳥屋だったんですか?飲食業にはもともと興味があったとか?

菊池: 全然なかったです。
飲食店のアルバイトを10年以上やってきましたけど、生活のため家族を養うためにやっていたので、あまり好きにはなれませんでした。

でも地元に戻ってからバーテンの仕事をして、お客さんの希望に合わせてメニューを出していたらすごく盛況で、お客さんが喜んでくれているのを感じて「飲食って面白い」と思えて独立を決めました。

初めて持った店舗がもともと焼鳥屋の居抜きだったんですが、その焼鳥屋がなくなり、地域の方たちから「また焼鳥屋をやってほしい」という声が上がっていたので、それをヒントに始めたんです。

渋沢: その後、32歳の時に株式会社チャスを設立されて、多店舗展開をされていますね。

ボヤやコロナにめげず、従業員の生活を守るため多店舗出店

菊池: 現在は焼鳥、串揚げ、海鮮、餃子がメインの4店舗を運営していて、焼肉屋も間もなくオープンします。
青梅はあまり飲食店が多くないので、自分がやりたいことよりはニーズを掘り出して展開をしています。

住谷: 飲食店なのでコロナの影響が直撃したのでは?

菊池: そもそもコロナになる前の年末に、一番の稼ぎ頭だった150人キャパのお店でボヤが起き、お店自体がダメになってしまったんです。
年末だったこともあって300人、400人の予約が入っていたのに、それがなくなり会社の経営が危なくなってしまいました。
でも従業員やその家族の生活がかかっているので、お店を出すしかないと思って、ボヤから1ヶ月後には海鮮のお店を出していましたね。

渋沢: 1ヶ月!?行動が本当に早い!

菊池: みんな職を失ってしまうことになるので、止まっていられなかったんですよ。
海鮮のお店はキャパが50人くらいだったので、ボヤを出した大箱のお店の規模には足りないので、また餃子のお店を出しました。
でもコロナで緊急事態宣言が出て採算が合わないのでさらにもう1店舗出して、結局コロナ禍の間に3店舗出しています。

住谷: 緊急事態宣言が出て普通は落ち込んでしまうと思うんですけど、そこからかなり攻めていますね。

菊池: 周りの飲食店がどんどん辞めていくので、普段では空かないような良い物件が空くこともあって、捉え方によってはチャンスだったんです。
僕はじっとしているほうが怖いんですよね。
これまで動き続けて、あれはダメ、これは良かったとその都度学んできたので、動かないことのほうが怖い。

今は4店舗ありますが、売り上げも上がって、新たに社員も増えて、動き続けたことが好転していると思うんです。
スポーツでもそうだと思うんですけど、オフェンシブに攻めたほうが逆に守れるような気がして、僕の経営スタイルは攻めの姿勢が強く出ていると思います。

「また青梅で映画が観たい」地域住人の夢を叶える

住谷: 逆境でも攻めることが大切なんですね。
2018年にシネマネコプロジェクトを始動させていますが、このプロジェクトとは?

菊池: 僕も知らなかったんですけど、青梅って映画の街としてすごく賑わっていたそうなんです。
お店の常連さんから「また青梅で映画が観たい」という声がすごく多かったので、お店を支えてもらった恩返しにエンタメを届けたいと思ったんですよね。
青梅の人ってみんな温かくて、商売していても住んでいてもすごくウェルカムな感じで、居心地が良い。
だから自分の会社もそうですけど、自分の行動範囲を全部地元で収めるために、ないものは自分で作るっていう発想になりました。

渋沢: 『シネマネコ』ってネコがモチーフになっていますがそれはなぜですか?

菊池: もともと青梅は養蚕(ようさん)が盛んな織物の街だったんですが、蚕をネズミが食べてしまうので、ネズミ退治のために街中にネコがたくさんいたそうです。
ネコを祀っている神社があったり、ネコをモチーフにした映画の看板があったり、街中がネコのPRをしているので、ネコと映画を組み合わせて『シネマネコ』にしました。

住谷: 地元愛があふれるような名前ですね。
今年の6月にオープンされていますが、それまでに苦労したこともあったのではないでしょうか?

菊池: そもそも映画館を作ったことがないので、どうしたらいいのか分かりませんでした。そこで、全国の色んなミニシアターを訪ね、館長さんにどうやって作ったのか話を聞くことから始まりました。

今回もともと建っている木造建築をリノベーションしたんですけど、その建物が国の有形文化財に登録されていて、外観をいじってはいけない決まりだったんです。
中だけリノベーションするんですが、映画館って建築基準法や消防法に特に厳しくて、建築の難易度がとても高く、審査の手続きだけでも1年くらいかかりましたね。

渋沢: 上映する映画も菊池さんが選定しているんですか?
お客さんの層に合わせる必要があるから難しそうですね。

菊池: 60~80代の地元の高齢者の方が頻繁に来てくれるので、その人たちが喜んでくれそうな作品を流しています。
まだオープンして4ヶ月くらいですけど、多い方だと20回くらい来てくれていますね。
もともとあった映画館に行かれていた世代の方がたくさん来てくれて、本当に映画館が復活するのを待ち望んでいてくれたようです。

地域にないものを作り続けて、青梅の盛り上げ役になりたい

住谷: 今回木造映画館ということが大きなポイントだと思うのですが、木造の良さはどういったところに?

菊池: まずは館内に入ると木の香りがして、天井が高くて木の梁が見えて、みなさんが見慣れている映画館とは違ったものを感じられます。
昭和初期の建築物をリノベーションして作られた映画館は全国でも本当に少なく、東京では唯一ここだけなので、それだけでも見に来てほしいです。

住谷: ご高齢の方たちが特に来てくれているようですが、どうやって認知してもらったんですか?

菊池: 青梅を盛り上げたいと思って始めたプロジェクトなので、地元商店街や商工会に協力してもらって、商店街中にポスターを貼ってもらいました。
全然知らない人とみんなで作り上げたので、作るまでの課程がすごく楽しかったです。

作っている段階でおじいちゃんやおばあちゃんが見学に来てくれて、クラウドファンディングのやり方が分からないからって、直接僕にお金渡してくれる人もいましたね。
映画館で収益を出すのって難しいですけど、人の気持ちを満たして、喜びや感動を与える事業は大事だなと感じます。

渋沢: 映画館に併設したカフェも作られたそうですね。
今後はどういう場になってほしいとお考えですか?

菊池: 映画館というコンテンツだけでは来るお客さんが限られてしまうと思ったので、みんなが集まれる場を作りたいと思いカフェを併設させました。
コロナで人と人の触れ合いが厳しくなっていますが、やはり触れ合いって大事なので、シネマネコがコミュニティ形成の場になってほしいですね。
カフェメニューはネコをモチーフにしたものを用意し、シネマネコのグッズの展開も始めているので、青梅の新しい魅力となって地域活性化に繋がってくれると嬉しいです。

住谷: 菊池さん自身の今後の展望も伺いたいです。

菊池: 僕の会社は地元の盛り上げ役になりたいという会社なので、これからも地域にないものを作って、地域が活性化して元気になってくれればいいですね。

僕個人の野望としては映画を作りたいです。
プロデュースかディレクションかまだ分かりませんが、青梅でオールロケした作品を
俳優時代の仲間と一緒に作って自分の劇場で上映したいです。

住谷: ワクセルで映画プロジェクトを立ち上げて支援も行っているので、そういうところでも繋がれたら嬉しいです。


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