株式会社SPACE NTK
葛西智子 × ワクセル
今回のトークセッションのゲストは、葬儀業界で司会・企画など幅広い仕事をされ2017年に株式会社SPACE NTKを設立し、宇宙葬を手掛ける葛西智子(かさいともこ)さんです。
葛西さんが取り組む、人ひとり分の遺骨を宇宙に打ち上げるという世界初の試みについて、そして宇宙葬とは何か、葛西さんが大切にしている故人への尊厳についてお話していただきました。
MCはワクセルコラボレーターでラジオパーソナリティの窪田有美(くぼたゆみ)さんと、ワクセル総合プロデューサーの住谷知厚が務めています。
母と仏教の教え 命に向き合う
住谷: 今日は宇宙葬について知らない人もたくさんいるので、どういったものか詳しく聞かせていただきたいです。 また、なぜ宇宙葬をやろうと思ったのか、きっかけについても伺いたいと思います。
葛西: 子どもの頃に「人って亡くなったらどうなるの?」って親に聞いたことのある人も多いと思うのですが、私は母に「亡くなったら夜空に輝く星になるのよ。」って聞かされて、それが強く印象に残っていたんです。
さらに私は小中高と仏教の学校に通っていて、故人の尊厳を大切にするという教えをずっと受けていた影響も大きいと思います。
窪田: 命に向き合うことが多かったんですね。
葛西: 最近は海洋散骨や樹木葬といった自然葬をする人も増えてきたんですけど、ふと「そういえば空に行くのがない。」と気づいたんです。
小さい頃に、亡くなったら星になりたいと思っていたことを思い出し、また仏教学校で学んだ‘’人は宇宙から生まれ、そしてやがて宇宙に還っていく‘’という教えもリンクして、「宇宙葬をやるしかない!」と思い至りました。
住谷: 宇宙葬というのはこれまでやっている人はいなかったんですか?
葛西: 実はアメリカでは24年前の1997年から行われています。 小指くらいの大きさのロケットペンダントに遺骨を入れて、人工衛星に搭載して打ち上げるという方法です。
でもそれを日本でやろうと思ったときにできないことが分かりました。
海外旅行感覚で宇宙に行く時代へ
窪田: どうして日本ではできないんですか?
葛西: 日本でロケットを打ち上げているのはJAXAくらいしかなく、頻度がとても少ないんです。
ところがアメリカでは月に何回もロケットを打ち上げています。私が今回ロケットを打ち上げる契約をしたアメリカの航空宇宙メーカー・SpaceXも毎月必ず飛ばしています。
窪田: さらりと契約と仰っていますが簡単に契約できるものなんですか!?
葛西: きっかけは、2017年9月に宇宙港と呼ばれるスペースポートへのツアーに参加したことでした。
10日間くらいアメリカにいたんですが、SpaceXをはじめ、アメリカの宇宙旅行会社であるVirgin Galacticや、航空宇宙企業のBlue Originなどに行かせてもらいました。 その時SpaceXに唯一いた日本人の技術者と会うことができたんです。
その方は男性で私の息子くらいの年齢なんですけど、これはチャンスだと思って「ゆくゆくは宇宙葬をやりたい。」ということを伝えて、メッセージのやり取りをするような関係になれたんです。
住谷: アメリカでは若い方が活躍しているんですね。
葛西: アメリカの宇宙業界ってすごいんですよ! 20代の人たちが頑張っていて、実力が認められれば年齢関係なく評価されています。
その後、私は2018年の世界宇宙開発会議に参加し、宇宙葬についてのプレゼンをしたんですけど、その時の会議ではジェフ・ベゾスさん(Amazonの創始者でBlue Originを設立)が講演していたんです。
窪田: 何を語られていたんですか?
葛西: 今まではテストや訓練をクリアした宇宙飛行士しか宇宙に行けなかったけど、これからは民間の誰でも宇宙に行く時代になる、とおっしゃっていました。 例えば日本からアメリカに行く体力があれば誰でも宇宙に行けてしまうんです。
窪田: 海外旅行に行く感覚で宇宙に行けるようになるんですね。
亡くなった方を想う 一番の供養に
葛西: いざ宇宙葬をやろうというタイミングに、その技術者の彼に「いよいよ宇宙葬をやる時が来たの、頼んだよ。」って連絡したんです。そうしたら、なんとその子はSpaceXの創始者イーロン・マスクさんの右腕で、すぐにイーロン・マスクさんに話が伝わりました。
連絡してから2日後には「OK!」って返事が来て、「どうせだったら世界初のことをやろう。」と逆に提案されました。 「少量の遺骨じゃなくて、人ひとり分、壺ごと打ち上げよう!」って!
窪田: 驚きの連続ですね! 素朴な疑問なんですが、遺骨を打ち上げてゴミになることはないんですか?
葛西: 弊社が行う宇宙散骨は人工衛星に遺骨を搭載して、地球から大体500~600㎞ほど離れたところまでロケットで打ち上げ、その後は地球の軌道を5~6年旋回することになります。 人工衛星に搭載されたままなので、SpaceXが絶えず監視をしてくれるんです。
そしてやがては大気圏に突入して、燃えて無くなってしまうので、ゴミにはなりません。 私は流れ星になると言っています。
窪田: 本当に星になれるんですね。
葛西: はい、5~6年ずっと星になって輝くことができます。 故人の尊厳を大切にするということは、亡くなった方のことを想うことなんです。 夜空を眺める度に故人のことを想う、それが一番の供養になるはず。
また空から大切な人が自分たちのことを見守っていてくれる、そんな気持ちにもなれます。 私は自然葬の中でも宇宙葬が、一番人間の尊厳を大切にしてくれる形だって確信しているんです。
行動することで共感してくれる人が集まる
窪田: 素敵な話ですね。何か死ぬことが怖くなくなってきました。 すごく壮大な話なので実現できることがとても信じられません。
葛西: もう大変でした! SpaceXからは「自分で人工衛星を造りなよ。」って言われて…。 当たり前に人工衛星を研究して造っている彼らにとっては、簡単なことなんですよね。
でも天下のイーロン・マスクさんから「やりなさいよ。僕たちは応援するから!」って言われたら、もうやるしかないじゃないですか!
窪田: まったく想像がつかないんですけど、人工衛星を造るにはどういうルートを辿るんですか?
葛西: 株式会社船井総合研究所が宇宙ビジネスサロンを展開しているので、まずは「人工衛星を造ってくれる人がいないんです。」って相談しました。
その会社には、来年日本人で初めて宇宙旅行に行く予定の稲波紀明(いなみのりあき)さんがいて、彼が自分事のように喜んで、「僕がなんとかするから。」って言ってくれたんです。 彼の人脈のお陰で、日本にも宇宙開発をしている若者が本当にたくさんいることが分かりました。
住谷: 葛西さんのその行動力に感化されて、応援してくれる人や協力者が現れるんでしょうね。
窪田: 日本にそんなに夢を持った若者たちがいるなんて頼もしく感じますね。 でも技術があっても資金面なんかとても大変そう。
葛西: 当然宇宙に挑むので、ある程度は予想して用意していましたけど、もうまったく追いつきません。 それが一番大変だったんですけど投資家の方たちとも出会えて、少しずつ売上も上がってきてなんとかなるようになりました。
自分がアタックして、どんどん行動すると共感してくれる人がどんどん集まって来るって感じましたね。
子どもに夢を与え続けることが使命
窪田: 一体どのくらいの料金で宇宙葬ができるのかとても気になります。
葛西: 本当にお手軽にできるような料金でセットアップしました。 人ひとり分の遺骨、パウダー状にして2kgくらいの重さになるんですが、そちらは1,000万円。
でもこの金額は難しい人も多いと思うので、100gくらいの少量の遺骨であれば100万円で打ち上げることができます。 こちらのサイズは子犬や子ネコなどのペットにもちょうどいいと思います。
さらに少量、小瓶のジャムくらいの量であれば50万円でできます。
住谷: そのくらいの金額であれば手が届くと思えますね。 お墓に高いお金を払うと考えると宇宙葬の方がいいって思う人も多いでしょうね。
葛西: さらに遺骨の他にも髪や爪といったDNAが1万円、願いを書いた短冊、これは子どものお小遣い感覚でも利用できるよう3000円で打ち上げられるようにしました。 短冊は全国から100万枚が集まって、子どもたちってそれだけ宇宙に夢を託しているんだと感じましたね。
来年以降は、指輪や時計など火葬では入れられないものも、一緒に打ち上げられるようにするつもりです。
住谷: 今回お話を聞いて本当に想いと行動力があれば何でもできるんだなって思えました。 最後に葛西さんの今後の展望を教えてください。
葛西: 宇宙散骨だけに留まらず、いずれは月に遺骨を持って行きたいと思っています。
あと私、こども食堂(地域の自治体を主体に子どもたちに食事を提供するコミュニティ)と関わりを持っているんですが、障がい者の方や虐待を受けている子どもたちって夢を無くしてしまっている子が多いと感じていて、そういう子どもたち夢を与え続けてあげられる存在になりたいんです。
奉仕活動も自分の使命だと思っているので、ワクセルさんと一緒に夢を叶えるお手伝いをしていきたいですね。
住谷:
葛西さんのその行動力を生かしてぜひ一緒にやっていきたいです。