「会社の夢から、自分自身の志へ」――藻の研究者だった私が、日本の伝統食を未来へ紡ぐまで

株式会社ゆば

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バイオ研究者として微細藻類の研究に没頭していた株式会社ゆば代表の青木慎一(あおき しんいち)さん。自らの志と向き合い、新たな一歩を踏み出す中で巡り合ったのは、後継者難に直面していた老舗の湯葉(ゆば)でした。伝統の味を守りつつ、食文化を未来へと循環させる新たな挑戦についてお話を伺いました。

藻の研究者から伝統食の世界へ飛び込んだ理由

見出し1画像嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_青木 慎一_伝統食の世界へ

かつての私は、白衣を着て顕微鏡を覗き込む研究者でした。大学や一般企業で研究していたのは、目に見えないほど小さな「微細藻類(藻)」です。藻が体内に蓄積する油を活用し、低コストで安定培養できれば石油代替エネルギーになり、日本が産油国になる可能性すら秘めている――。社会的に大きな意義がある仕事に誇りを持ち、「藻が世界を救うんだ」と情熱を注いでいました。

そんなある日、人生の転機となる問いかけをいただきます。

「青木さんの夢は何ですか」

そう問われた私は、いつものように藻が切り拓く未来や会社のビジョンを熱く語りました。しかし返ってきたのは、本質を突くあたたかな助言でした。

「それは会社が掲げる夢。青木さん自身が人生をかけて成し遂げたい夢は何ですか」

ハッと胸を突かれました。組織の壮大な目標に向かって力を尽くす日々にやりがいを感じていたからこそ、自分自身が本当に成し遂げたい使命や、青木慎一としての志をまだ言語化できていなかったのだと気づかされたのです。「会社という枠組みを超えて、自分自身の足で何を成し遂げ、何を後世に残したいのか」。深く内省する中で蘇ってきたのは、幼少期の原体験でした。

私の母は沖縄の最南端・波照間島の出身です。幼い頃に訪れた島では、島民の皆さんが集まって宴会を開き、歌い踊る温かな光景がありました。東京の街でも、困ったときはお隣さんに駆け込むような助け合いの文化が生きていました。人と人との横のつながりや、先人たちが育んできた日本の良き文化を大切にしたい――。その想いが、私の根底にある軸だと自覚しました。

模索する中で偶然出会ったのが、後継者不足により暖簾を下ろそうとしていた湯葉会社でした。実際に口にした瞬間、その濃厚で奥深い味わいに言葉を失うほどの衝撃を受けました。「こんなに美味しい湯葉を途絶えさせてはいけない。私にやらせてください」。気がつけば、研究者としてのキャリアを手放し、伝統食の世界へと飛び込んでいました。

熟練の職人たちと向き合い守り抜く本物の味

事業を引き継いだ当時、私は35歳前後。現場を支えていたのは、79歳の先代をはじめ70歳前後の熟練職人たちです。年齢も半分ほどの若造が突然やってきて経営を担うわけですから、最初からすべてが順調だったわけではありません。それでも私は、これまでの歩みや職人たちの誇りに敬意を払い、何度も対話を重ねて信頼関係を築くことに全力を注ぎました。

私たちが製造する湯葉のこだわりは、一切の妥協を排した品質にあります。原料には佐賀県産のブランド大豆「フクユタカ」を100%使用。遺伝子組み換え大豆や保存料・添加物は一切使わず、大豆本来の芳醇な風味と濃厚な旨味を極限まで引き出しています。この本物の味が評価され、日本4大結婚式場やホテル御三家、さらには首相官邸への納入実績を持ち、歴代の総理大臣の皆様からもご愛顧いただいてきました。

一方で、研究所から一転して自ら外を回り営業を行う中で、危機感を抱く現実にも直面しました。特に20代などの若い世代と話すと、「そもそも湯葉って何ですか?」という疑問から始まることが少なくありません。約1200年前、僧侶の精進料理として伝来した尊い伝統食が、日常から急速に忘れ去られようとしているのです。

だからこそ、伝統の看板にあぐらをかくのではなく、現代のライフスタイルに寄り添った新しい魅力を発信しています。定番のわさび醤油や煮物はもちろん、オリーブオイルと岩塩を合わせてワインとともに楽しむ提案や、サラダ、弾力を活かした湯葉しゃぶなど、楽しみ方は無限に広がります。先日お取引先が考案してくださった「カルボナーラ湯葉」の美味しさには、私自身も新たな可能性を強く実感しました。どんな時代であっても、目の前の一人ひとりとのご縁を大切にし、伝統の魅力を伝え続ける姿勢を貫いています。

伝統を未来へ持続させる体験型料亭の仕組み

見出し2画像嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_青木 慎一_伝統を未来へ

湯葉は、私にとって日本の伝統食文化を未来へと紡ぐための「第一歩」にすぎません。本当に目指しているのは、単に湯葉を卸して終わるビジネスではなく、伝統食そのものが次世代へ循環し続ける強固な仕組みを作ることです。

その挑戦の皮切りとして、現在計画を進めているのが「湯葉体験型料亭」の出店です。お客様が席の目の前で湯葉を引き上げ、出来立ての最も贅沢な瞬間を五感で味わっていただく――。本物の美味しさと作る楽しさを掛け合わせることで、湯葉に触れたことがない若い世代や国内外の観光客の心に強く届くはずだと確信しています。

この体験型飲食店を全国の観光名所へ多面展開し、将来的には数十店舗規模の自社プラットフォームへと育て上げる構想を描いています。自社で生産・仕入れた価値ある伝統食を、自社の飲食店群で確実に消費・提供する独自のサプライチェーンが完成すれば、後継者不足や認知度低下に苦しむ日本の伝統食文化そのものを力強く支えることができます。

組織の看板から飛び出し、見つけ出した私自身の志。先人たちが築き上げてくれた本物の食文化に光を当て、次の100年へとつないでいくための挑戦を、ここからさらに加速させていきます。

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