コロナ禍を機に生まれたオンラインマラソン。健康経営のIT社長が着目するオンラインスポーツの可能性
世界で推進してるSDGs17の目標のひとつに、「すべての人に健康と福祉を」とあるように健康に対するニーズは、年々高まっている傾向にあります。コロナ禍による自粛モードのなかで、ITとデザインの技術を駆使してオンラインマラソンを開催している株式会社ファインシステム社長(取締役COO)の山内祐司さん。IT技術と共に進化していったマラソン大会を軸にお話しいただきます。
バーコードからICチップへ。進化したマラソン大会
私が、株式会社ファインシステムに新卒で入社したのは25年前になります。当時は5、6名くらいの会社で、初めてパソコンができる専門学校卒の学生として、私が採用されました。
コンピューターの専門学校を卒業しましたが、実は勉強を全然してこなかったので、入社してから期待に応えようと必死になりました。営業職を経てシステム開発をするようになり、デザインもできないかと打診されてデザインにも取り組みました。
入社した頃から、マラソン大会におけるタイム計測のデータ化という技術の導入に会社が着手し始めていました。当時のマラソン大会の多くは、1,000人、2,000人のランナーがゴールするのを手書きで記録して、その隣でストップウォッチを押す人がいて、あとで突き合わせて記録を出すという流れでした。それを簡単にできないかと、とあるご縁のあるイベント会社の方から先代社長が相談を受けて、課題解決に取り組んでいったことがきっかけとなります。
その頃はまだバーコードシステムが使われていました。バーコードシステムとは、パソコンをゴール前に置いて、エンターキーを押すことでタイムを記録します。ゼッケンの横にバーコードが印字されているので、ゴールの先でバーコードを読みとってタイム(記録)と、ゼッケン(個人)を照合することで結果データができあがり、集計が可能となる仕組みです。
そうすると、ランナーがゴール地点にたくさん並んでしまって、並んだ先で順位が変わってしまうという問題も発生します。ゴールの先まで人が並んでしまい、ゴールができないなんてこともありました。記録がデータ化され始めてきていましたが、さまざまな課題を抱えていました。
そこから技術が発達して、バーコードからICチップを導入したタイム計測に変わっていきます。ICチップの良いところは、ゼッケンや足につけたICチップがゴール前のマットを通過することで、ICチップに記録されているデータとゴールしたタイムが同時に測定できることです。これで記録がスピーディーかつ正確に出せるようになりました。ITを使うことで、マラソン大会のタイム計測の課題解決ができました。
このような技術はマラソン大会だけではなく、国体やインターハイでボート・カヌー・アーチェリー・相撲・レスリングといった競技の集計でも活用しています。
走る機会を失ったランナーを救ったオンラインマラソン
2、3年前に新型コロナウイルスが流行ったことで緊急事態宣言が出て、リアルなイベントは次々と中止になりました。マラソン大会は会場にたくさんの人が集まるものなので、もちろん自粛せざるを得ませんでした。ランナーは走る場所を失ってしまったんです。
携帯や時計に内蔵されているアプリを使って自分で計測する仕組みはありますが、ひとりでやってもモチベーションがあがらず、継続するのが難しくなることもあります。
リアルなマラソン大会は、大会に出るために練習しようとか、記録を作りたいからやろうとか、ランナーの目標になります。その思いに応えるために始めたのが、オンラインマラソンです。
私たち以外が主催するオンラインマラソンもあります。そこで私たちはITとデザインの技術を使って特設サイトを立ち上げました。サイトでエントリーをしたら番号が発行され、専用の投稿フォームから自分のタイムと走行距離をアップしてもらいます。GPSやアプリで計測した結果の画面キャプチャーもアップしてもらうことで、記録の信ぴょう性を図っています。
今まで培ってきた技術を土台にしているので、技術的には難しいものではなかったのですが、開催をしていくとさまざまなニーズや課題も出てきます。「こうしてほしい」「こうならないのか?」など、たくさんの意見をいただきます。その声を反映させて、より使いやすく、よりシステム化させていきました。
オンラインマラソンも色々な意見があり、リアルの方がいいという方もいらっしゃいます。
リアルの利点は、同じ場所に人が集まって一緒に走ることで共感が生まれることです。一方でオンラインはその場に行かなくてもよくて、自分でコースや走る時間帯が選べるなど、自由度も高く参加しやすいのが利点です。
オンラインマラソンでランナーとメーカーをつなぐ
オンラインマラソンはリアルのマラソン大会の代替えですが、その先に何かもっと価値が提供できるんじゃないかなと思いました。さらなるお役立ちにつながるようにならないかと考え、商品のPRと効果計測を同時に行う試みをはじめました。
スポーツする人が好むような商品を参加賞として配って、それを履いたり身につけたりして走ってもらうルールにするのです。ランナーは2,000円くらいの参加費で4,000円相当の商品がもらえるので、とてもお得なんですよ。商品を提供するメーカー側からすると、参加賞としてグッズを配ればそれだけ利用者が増えます。
専用サイトで記録を投稿するときに写真をアップしてもらったり、コメントをアップして盛りあげてくれたりしたら景品が当たる、としたらみんながアップをしてくれます。それがお客様の声になり、使用事例の写真にもなります。マラソン後のアンケートに答えてもらったら、それは使用した人たちのリアルな声なので、次の商品開発につながります。
ランナーには楽しんで走ってもらえて、メーカーは自分たちの商品のPRをしてもらいながら効果測定ができます。うちの会社は参加料が収益になり、その収益で大会継続や企業の利益につながります。こうやって運動機会を生み出すことで、健康経営や健康寿命を延ばしていくという部分で、世の中に寄与できると考えています。
私はスポーツの可能性に注目しています。スポーツそのものがSDGsとの親和性がいいので、全17項目すべてを満たす可能性があるんです。オンラインスポーツをきっかけに、世の中へ運動促進や、心と体の両面が健康で元気である状態になれるように貢献できたらと思っています。