標本の概念が変わる!?透明標本作家・冨田伊織さんが魅せられる「生物の造形美」

冨田 伊織

冨田 伊織

アイキャッチ画像_嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_冨田伊織さん_標本アソート

大学時代に、水産学科の研究室で透明標本を見たことをきっかけに、「作品としての透明標本」を制作している冨田伊織さん。サイエンスのみならず、アートとしても透明標本を世界に広めた第一人者として、日本各地での展覧会の他、海外でも注目を集めています。本コラムでは、作品名【新世界『透明標本』】として10年以上活動を続けている冨田さんに、作品にかける思いや今後の展望を語っていただきました。

標本の概念が変わる『透明標本』

見出し1画像_嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_冨田伊織さん_標本シャーレ

もともと透明標本は、「小さな生物」の骨格を研究するための技法です。骨の標本というと、いわゆる骨格標本をイメージする方も多いと思いますが、あちらは一度バラバラにした骨を組み立てて作るなど、比較的大きな生き物に適しています。

それに比べ透明標本は、さまざまな薬品や酵素を使うことで、生き物の姿や大きさはそのままに、硬骨を赤紫色、軟骨を青色に染色します。さらに肉質を分解し透明にすることで、指先ほどの小さな動物の形を変えることなく、骨格を観察することができます。

透明標本との出会いは大学時代。企業に就職するも、漁師見習いを経て透明標本作家へ

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幼い頃から生き物が大好きで、父親によく釣りや生き物採集に連れて行ってもらいました。成長してもそれは変わらず、大学は水産学部に進学。透明標本とは大学生活中に出会いました。はじめて見た造形に感動をして、「自分で手にしたい、作ってみたい」と思い、見よう見まねで制作をはじめました。

大学卒業後は一般企業へ就職しましたが、海や自然にもう一度身を置きたいと思い、しばらくして大学のあった岩手県で漁師見習いへ。そして忘れることができなかった透明標本の制作を再開し、少しずつ自分の理想であった色合いへ近づけていきました。

その頃作成した標本をSNSで紹介していたのですが、見ていただいた方からデザイン系のイベントへの出展を勧められました。漁師さんにお暇をいただきイベントに参加しましたが、透明標本が来場した方にどう見られるかとても不安でした。ですがブースは人だかりができるほどの大盛況。自分が好きな透明標本は、他のひとも同じように好きなんだと感じました。

その体験がきっかけとなり、生業にしてみたいと「透明標本作家」としての生活をスタートさせました。

学術としての透明標本と、作品としての透明標本

見出し3画像_嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_冨田伊織さん_標本ヒメイカ_IdiosepiusParadoxus

前述の通り、学術分野での透明標本は骨格研究をするための手法です。あくまでも目的は「研究結果」であるため、美しさに重きは置くことはありません。観察ができれば必要十分であるため、数日〜という短期間で作成することも多いです。

一方で自分の作品は「自身の思う生物の美しさ」を追求したものです。透明感や色合いを引き出すために、指先ほどの生き物でも半年以上、手のひらほどでは一年を超える時間をかけ作成をしています。

学術的データとしての標本、美しさを追った作品。どちらも生物への探求という目的に沿った素晴らしいものであると思います。

作品は大きく分けて2種類があり、透明標本自身である「標本作品」と、その姿を撮影した「写真作品」です。標本作品は生物ごとの造形美を引き出せるように、写真作品はまるで生きている姿を切り取ったような瞬間を目指して制作・撮影をしています。

伝わりやすい表現として「作品」ということが多いですが、自分自身が作っているという認識は適切ではないとも感じています。僕も先人の方々が築き上げた手法を使わせてもらっている一人ですし、そもそも造形を作っているのはその生き物自身です。その気持ちと敬意を忘れずに、自分の思う生物の美しさを探求していければと思います。

作品を通して感じてほしい世界。「作品は生き物」

見出し4画像_嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_冨田伊織さん_標本キューブ

僕が透明標本に感動したきっかけは、生き物が大好きで、その美しさを自分自身でもっと感じたいと思ったからです。生物は生きている瞬間がなにより力強く綺麗だと思いますが、それだけでは見えない世界もたくさんあります。透明標本となった生き物たちを見てもらうことで、今まで感じられなかった一面を見てもらえたら、「やっぱり生き物は美しい」と感じてもらえたら嬉しいです。

2022年は自分の出身である埼玉県狭山市での展覧会をはじめ、さまざまな場所で作品たちを見ていただくことができました。これからも新しい作品たちをたくさんの方に見てもらえるように活動していきます。

冨田伊織  新世界『透明標本』HP

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