ワールドカップに出場した日本代表プレイヤーが語る『タッチラグビー』の奥深さ
怪我によってラグビーを断念せざるを得なかった竹村正夫(たけむらまさお)さんは、38歳でタッチラグビーという競技を知り、2024年7月には日本代表としてワールドカップに出場するまでに至りました。「タッチラグビー業界を盛り上げたい」と語る竹村さんに、タッチラグビーの魅力や、今後の展望について伺いました。
タッチラグビーとの出会いから、日本代表を目指すまで
僕は12歳からラグビーを始め、28歳まで続けていました。ただ、首のヘルニアになってしまい、3度の入院を経験しました。医師から「これ以上は危険だ」と警告され、ラグビーを引退する決意を固めました。もともと実家が自営業だったこともあり、この機会に自分も起業に専念しようと決めたのです。
名古屋から東京に移り、約10年かけて起業の準備を進めました。38歳くらいに仕事が一段落したタイミングで、新しい人との出会いや適度な運動を求めて、個人参加できるスポーツを探し始めました。そこで『タッチラグビー』というスポーツに出会い、ラグビー経験もあったので始めてみることにしました。
何度か個人参加を繰り返すうちに顔見知りも増え、ある日チームのメンバーから「一緒にやりませんか」と声をかけてもらい、チームに加わって活動を開始しました。当時はワールドカップが開催されていることも知らず、ただ健康維持や体を動かすことを目的に楽しんでいた感覚です。
最初は、タッチラグビーは接触がないので、足が速い若い人たちが有利だと思っていました。しかし、実際にはとても頭を使うスポーツなのです。チームにも慣れてきて、色々とコミュニケーションを
取らせていただく中で、ワールドカップが開催されていること、日本代表チームが存在していること、
そしてチームの中に日本代表選手が多数在籍していることを知りました。そこには、自分より年上の方や、「けっこうふくよかな体格だな〜」と思う方、「足も自分の方が早いな〜」と感じる方も数名いて、ただ速く走れるだけでは通用しない、戦略的なスポーツであると改めて実感しました。
2019年のワールドカップが終了した頃、自分も代表を目指してみたいという思いが湧き上がりました。基本的にはルールをある程度理解していれば、代表候補としてのテーブルに乗ることができます。ルールテストを経て、チーム内で希望を伝えて代表候補に登録され、後日に連絡が届きました。そうして代表チームでの挑戦が始まったのです。
初めの2年は怒られることも多く、何度もくじけそうになりました。しかし、慣れてきてコンビネーションが整い始めると、怒られるというより「修正する」という指導に変わり、次第に自分のプレーにも自信が持てるようになりました。
年齢や性別に関係なく、誰もが楽しめるタッチラグビーの魅力
タッチラグビーワールドカップは、 30代以上、 40代以上、50代以上のように年代別でカテゴリーが分かれています。さらに女子、男女混合といったカテゴリーもあります。タッチラグビーは年齢、性別、スポーツ経験の有無を問わず、誰でも楽しめる生涯スポーツに近いものです。力押しではなく、戦略が重要なスポーツで、いかに相手の意表を突くか、裏をかくかがカギとなります。この頭脳戦の要素がタッチラグビーの奥深さであり、プレーの楽しさでもあると感じています。
タッチラグビーのもう1つの特徴として、試合展開が非常にスピーディなことがあげられます。試合は20分ハーフという短い時間で行われ、サッカーやラグビーのようにプレーが頻繁に止まることはありません。攻守が途切れることなく繰り返されるため、観戦する側も目まぐるしい展開に引き込まれます。また、ほんの少し小指が触れてもタッチが成立するため、ギリギリのスリル満点の勝負が繰り広げられます。
外から見ていると試合の展開がよく分かります。「こうやってスペースを広げていくんだ」「巧みに相手を誘導して得点したな」といったプレーの意図が見えやすいのです。
タッチラグビーをオリンピック競技にするために
僕の夢というか目標は、タッチラグビーをオリンピック種目にすることです。そのためにも、まずは自分が代表選手として結果を残し、このスポーツの可能性を広めていきたいと考えています。タッチラグビーが日本でさらに広がり、オリンピック競技として認知されれば、多くの人が興味を持つでしょう。
実際、僕のようにラグビー経験者でありながら、怪我の影響で競技から離れた人や、30代、40代になり怪我への不安からタッチラグビーに転向する人も少なくありません。タッチラグビーは、ラグビー経験者の選択肢としても大きな意味を持っているのです。
ラグビー業界と連携して、ラグビーから転向する人や、逆にタッチラグビーを経てラグビーを目指す人々のための橋渡しができれば理想的です。タッチラグビーを入口として、楕円球を追いかける楽しさを体感する。慣れてきたら、タッチラグビーを続けてもいいし、ラグビーに転向してもいいし、どちらもプレイしても良いと考えています。
また、ラグビー経験者には、経営者になる人が多いともよく聞きます。ラグビーを通じて育まれるコミュニケーション力やリーダーシップは、社会で活かされる重要なスキルです。こうした価値を早くから知る機会が広がれば、次世代を担う人材がさらに育つのではないかと思っています。