営業出身の医療ソーシャルワーカーが描く、地域支援のこれから

鈴木 勝喜

鈴木 勝喜

2025.08.27
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鈴木勝喜(すずきかつのぶ)さんは東洋大学法学部卒業後、大手ハウスメーカー、銀行、置き薬のルート営業など8年間営業職を経験し、療養型病院の渉外担当として医療業界に参入。社会福祉士の資格を取得し、現在は都内の企業立病院で医療ソーシャルワーカーとして勤務されています。地域の連携担当として「地域と病院の架け橋」となるべく活動している鈴木さんに、これまでの経緯と今後の展望についてお伺いしました。

営業マンから福祉の現場へ、医療ソーシャルワーカーという選択

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私は今“医療ソーシャルワーカー”の仕事を本業として活動しています。病院という現場で、患者さんやご家族の生活上の困りごとに向き合いながら、社会制度や地域資源を活用し、一人ひとりが自分らしく生活を続けていけるよう支援をしています。

病気はそれ自体も大きな出来事ですが、それに伴う“生活の変化”もまた人を大きく揺さぶります。入院によって仕事を休まざるを得ない方、治療費に不安を抱える方、家族の介護をめぐって悩む方などがいらっしゃいます。医療ソーシャルワーカーは、そんな方々の生活再建に向け制度を案内し、時には地域の商店街やご近所さんまで巻き込んで支える、いわば「地域との橋渡し役」です。病院内の支援だけでなく、講演会やイベントの開催、地域との連携強化にも取り組んでいます。医療と生活は切り離せないからこそ、医療の枠にとらわれない働きかけが必要だと感じています

そんな私も元々は福祉とは無縁の人生を歩んでいました。大学では法学を学び、卒業後は営業職として、8年間で3社を経験しました。まったく別の業界にいた私が医療福祉の世界に足を踏み入れたのは、転職先がたまたま病院だったという偶然からです。そこにいたソーシャルワーカーの姿や、病院内で交わされる支援のやり取りを間近で見た時、「人と人をつなげて課題を解決する仕事ってなんだか面白そうだな」と感じたのが始まりでした。

この仕事の面白さは、自分一人で完結しないところにあります。支援は一人ではできません。制度だけではカバーできない場面に直面することも多々あります。そうしたとき、地域のつながりや人との関係性が大きな力になる。その“つながりの創造”こそが、医療ソーシャルワーカーの醍醐味だと私は思っています。

“困る前に届く福祉”を、地域とともに

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本業に加え、今は「地域に向けたもう一歩先の活動」にも挑戦しています。一つは、障がい者の情報格差をなくす活動です。障がいを持つ方は、必要な情報にアクセスしづらいという課題を抱えています。そこで、公式LINE、ウェブページ、SNSを活用し、必要な情報をもっと分かりやすく届ける仕組みを構築中です。

もうひとつは、仕事と介護の両立に関する研究です。介護離職という言葉が一般化してきた今、「なぜ人は仕事を辞めざるを得ないのか」「どうすれば辞めずにすむのか」といった問いに向き合いながら、社会に発信できる形を模索しています。研究というと堅い印象かもしれませんが、目的は“暮らしの安心”を守るための提案づくりです。福祉の専門家だけでなく、営業職や異業種の方とも連携しながら、横断的に取り組んでいます。

こうした活動の原動力になっているのは、自分の中の「出遅れ感」かもしれません。福祉の世界に後から入った自分には、すでに10年選手の同世代がたくさんいました。その人たちと同じルートを歩いていては、追いつけないと感じました。だからこそ、他の分野の人と積極的につながり、新しい視点を持つことを大事にしています。初めは知らない業種の人と話すのは怖かったけれど、飛び込んでみたら楽しかったです。今ではむしろ知らない世界を知ることにワクワクしています。

支援が必要になる前に、安心して生きられる社会をつくる

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将来的には医療や福祉の支援がなくても、人が安心して生きていける社会を目指したいと思っています。困難に直面した時「大丈夫」と思える状態を、事が起こる前からつくっていく。そんな“福祉の予防”が、これからの社会には欠かせないと感じています。高齢化が進むなかで、病気になっても困らない、あるいは病気にならない身体づくりや、地域の支え合いがますます大切になっていくでしょう。

だからこそ堅苦しくない、楽しく学べる場づくりにも取り組んでいきます。「勉強会」と構えるのではなく「参加してみたらいつの間にか大事なことを学べていた」というようなイベントが理想です。実際、ユニバーサルイベントなどで障害のある方とふれあいながら、楽しさを通じた気づきの大切さを実感しました。

“困った人を助ける”から、“困らなくていい社会をつくる”へ。

ソーシャルワーカーとして、地域の一員として、そして一人の生活者として。私はこれからも自由に、柔軟に、そして楽しみながらそんな未来を探し、形にしていきたいと思っています。

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