和をもって尊しと為す~人間関係の中で社会性を育てる

清水 弘美

清水 弘美

2022.07.29
アイキャッチ画像_嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_清水弘美さん_学校

全国学校行事研究会の会長・全国道徳特別活動研究会副会長などを務める清水さん。2015年には、モンゴル・エジプトなど各国の教育者が前任校を視察に訪れ、「特別活動」「日本型教育」のモデル校として新聞各紙で大きく紹介され、話題となりました。今回のコラムでは、現代社会に必要とされる「特別活動」の重要性をお話しいただきます。

社会性を身に付ける「最後の砦」は学校教育

見出し1_嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_清水弘美さん_勉強

日本で最初の憲法「17条憲法」で聖徳太子はその第一条に「以和為尊(和を以て尊しと為す)」と謳っています。日本人は人間関係を豊かにしながら社会を作ることのできる文化を持っているのです。暴力、権力、経済力などの力技で強引に社会の方向を決めるのではなく、皆で話し合って皆が嬉しい社会を作るという考え方が今の日本文化の根底に流れています。

みんなが嬉しい社会を作るには、一人一人に豊かな社会性が必要です。自分のことも他の人のことも大切にしながら、社会のなかで生きていく力です。とはいえ子供は社会性をもって生まれては来ません。社会性は教育活動の中で体験を通して身に付けるものです。

社会性を身に付ける基本は家庭教育です。かつてはたくさんの兄弟の中で、もまれて理不尽な経験もできました。体の弱い祖父母もいました。様々な立場の中で育ちながら子供たちは自分の振る舞いを学んだのです。

家庭から一歩外へ出ると、近所の大人たちが生活しており、社会の中でのルールを学ぶことができました。地域には年上や年下の子どもたちがいて、弱いものへの態度や、皆をまとめる力などを身に付けていきました。

しかし、核家族化、少子化などから、家庭の教育力は弱くなりました。地域の関係も疎遠になり、子供たちは学年を超えて外で遊ぶことが少なくなりました。思いやりを持ったり、我慢をしたりする社会性を身に付けさせる機会が減少し、社会性を伸ばす機会が激減しています。

今では学校教育が最後の砦です。異年齢の子供たちが集まり、子供社会を作りながら生活する場所が学校です。その中で自分の居場所を見つけたり、役割を果たしたり、自分たちで自分たちの生活を作る経験をしながら、社会性を身に付けることのできる唯一の場所です。

かつて学校は知識・技術を教えて身に付けさせることが主たる仕事でした。でも今は知識だけなら検索すればすぐに手に入ります。教科書を読めばわかるものもたくさんあります。

黙って話を聞き、言われたとおりに行動し「先生次は何をすればいいですか」、「マニュアルをください、そうしたら完璧にやって見せます」という子どもを育てては、受け身ばかりで、自分たちが主体となって社会を作るという力が育たないのです。

聖徳太子の「以和為尊」を特別活動によって実現

見出し2_嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_清水弘美さん_協調

では、どうしたら学校教育の中で、主体的に学ぶようになるのでしょうか。「主体的に学びなさい」と言われた段階で、既に主体的ではありません。教師が教えるだけの授業の中には、子供たちの学びたいという「願い」がないからです。

学校教育の中で最も社会性を育てられるのは、特別活動です。特別活動という教育活動はほとんど知られていません。それもそのはず特別活動という言葉は学校の中にはありません。特別活動は、学級活動・児童会活動・クラブ活動・学校行事などの子供たちの主体的な活動の総称だからです。

子供たちが自分たちの社会をより良いものにしたいと願い、困ったことを解決したい!みんなで楽しいものを作りたい!おもしろそうなことをやってみたい!自分のアイデアで工夫したい!誰かを喜ばせたい!そんな「~たい!」という願いから始まる活動なのです。

学校は子供たちのリアルな社会です。自分の願いが自分とその仲間たちの手によって叶っていく体験の中で、自分が大事にされているという実感を得たり、友達のことを尊敬したりという感覚を味わうことができます。

学校は、特別活動を充実させ、子ども自身に自ら学びたいという意欲を持たせたり、社会の役に立てることが嬉しいことだと感じさせたりすることが最も大切な仕事です。

特別活動で体験させる、お互いの存在を大切にしながらも、自分の考えをしっかり伝えて自己実現し、皆の意見を受け入れつつ合意形成していくという活動は、よりより社会、誰一人取り残されない社会を実現できる力を育てます。まさに「和を以て尊しと為す」です。

聖徳太子は17条憲法の中で、人々がそれぞれの個性を生かしながら、皆で協働して社会をつくっていきなさいと、日本初の憲法を定めました。

その考え方は、学校教育ではかろうじて「特別活動」に引き継がれています。しかし特別活動で育つ力は数値化しにくいものなので軽視され、そのために子供たちの主体性や自己肯定感などの社会性が下がっています。

一日も早く「学力向上」「偏差値」「順位」などという価値観から、教師は子供たちを解放して、社会性を育てる特別活動に軸足を変えなくてはなりません。特別活動は社会の形成者としての力を育て主体的な教育の基盤を作る素晴らしい活動なのです。