本業に+αの挑戦を|パラレル活動で広がる可能性

岡田 慶子

岡田 慶子

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パラレル活動家Ⓡの岡田慶子です。今回は、会社員として介護に関する2つの事業の統括責任者を務めながら、子どもの学習支援を行うNPO法人「寺子屋みなてらす」の代表理事としても活動する三宅祐也(みやけゆうや)さんをご紹介します。事業責任者としての顔と、地域に根ざした支援活動を行うNPO代表という2つの顔を持つ彼の歩みには、これからの働き方のヒントが詰まっています。

介護の仕事をする!

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三宅さんが「介護の仕事をしたい」と思った背景には、2つのきっかけがありました。岡山県で生まれ育ち、幼少の頃から地域の伝統芸能「備中神楽(びっちゅうかぐら)」を習っていた彼は、週末に老人ホームや施設を慰問して舞っていたそうです。その慰問先で介護士たちが笑顔で働く姿を目にし、「こんなふうに楽しそうに働ける仕事を自分もやりたい」と感じたといいます。産業が少なく、仕事を選ぶ選択肢の少ない地元では、周囲の大人たちが仕事を楽しんでいる様子を見たことがなかったため、この出会いが鮮烈だったそうです。さらに、当時の慰問先で出会った98歳の川上さんという方から、広島での戦争体験を聞いたことも理由の一つだったとのこと。歴史の教科書にも載っていないリアルな話に触れ、「この業界には宝のような知恵や経験が詰まっている!面白い!!」と感じたことが、介護士という道を選ぶ後押しになったのです。

三宅さんは中学生から、長期休みに嬉々として朝から夕方までフルタイムでボランティアを始めます。「他の仕事なんて考えられない」と言う彼に、バイト先の社員から「絶対に介護の学校に行くな。経済の勉強をしろ。そうじゃないと俺みたいになるぞ」と言われ、商学部への進学を決めたそうです。当時はただ、その言葉を素直に受け止めていたものの、後から振り返ると「介護だけの世界に埋没するな」というメッセージを理解できるのと同時に、その方の問題意識は常に三宅さんの行動の原点にあると話してくれました。

介護事業の新風になる!

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就活は当然、介護業界。ピンとくる企業に出会えずにいたところ、ベンチャー企業で介護事業が立ち上がったことを知ります。施設のオープン直前という状況に、自分のやりたいことが実現できる場だと直感し、内定が出る前に会社の人事へダイレクトにアクセスし、夜行バスで会社に駆けつけて「とってください!」と直談判したそう。熱意は実り、晴れて介護職員としてのキャリアがスタートしました。

入社後は、現場での仕事の楽しさを感じながらも、優秀な同僚たちとの比較の中で劣等感を抱き、「自分はこのままでは勝てない。何で勝負するか」と悩むようになります。同じ土俵ではなく、自分を活かせる場や仕事をつくろうと営業部を立ち上げるなど新規事業で実績を積みつつも、「楽しくて大好きな介護現場の仕事では自分しか満たせない。自分の人生を賭けて、もっと多くの人の幸せに関わることをしたい」と考え、1年後に現場を離れると上司に宣言しました。とはいえ、その時点で何をどうするかは決まっていなかったとのこと。模索する彼は外へと行動を広げていきました。

町の声に応えて仲間と踏み出した一歩

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介護事業の一環として地元の町会長を始めとする高齢者の方々との接点が増える中、三宅さんは「スマホの使い方を教えてほしい」という要望に応えます。そんなことがきっかけで地元での親交が深まり、町会の集まりなどに呼ばれるように。雑談をしているうちに、参加者から地域の課題を聞く機会が増えていきます。皆の強い関心は地元の子どもたちの不登校でした。町会で開催された「学習支援事業に関する勉強会」での流れから、地元江東区内での開設を打診された三宅さんは、「やってみよう」と特定非営利活動法人法人みなてらすの立ち上げを決意します。

特筆すべきは、強力な仲間と始めたことです。会社の同僚で、事業運営でも助けてくれた超優秀なW氏に最初に相談すると、即座に「やろう!」と快諾。さらにW氏は「三宅が代表理事をやれ。そして、夢だけを語れ。俺は理事ではない事務局として黒子になって運営を支える」と言ってくれたそうです。その言葉通り、得意が見事に分かれたW氏との連携は、互いの強みを生かし合え、ストレスなく組織運営につながっているようです。数十人の会員とともに週に一度、小中学生、さらには高校生を迎える寺子屋は安定的に運営され、今年は都内の別区だけでなく、とある縁から四国にまで展開予定とのことです。子どもの学習支援という性質上、運営には安定性が求められるため、10年、20年先を見据えた組織づくりにも力を注いでいるというから頼もしい限りです。

現在、三宅さんは会社員とみなてらすでの活動の他、この活動から派生した”お困りごと”に対応する会社も運営しています。「そんなに自力で動けるなら、独立も考えているの?」と聞くと、彼はキッパリと「全く考えていない」と言います。「”社員を大事にする”ことを理念に掲げ、愚直にそれを求める今の会社が大好きで、こんな自分を信頼してくれていることがわかるし、会社もメンバーも大好きだから」と。さらに「実はNPOを立ち上げる前には、いつか転職というのも頭をよぎったんですよ。でも、NPOで活動しながら、やっぱりこの会社が好きだとわかったし、この会社でまだまだ挑戦したいことがあって、今や転職したい気持ちは全くないんです。いよいよ会社が好きになったくらいなんです」。

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2倍の人生を楽しもう

「どちらもあるから楽しい。2倍の人生なんです」──本業とNPO、それぞれに真摯に取り組む三宅さんは、そう笑顔を見せてくれました。

入社2年目で「会社の仕事だけじゃ勝負できない」と思い悩んだ日から、彼は自分ならではの軸を探し、試し、重ねてきました。そして今、自らの強みを活かしながら、誰かの力になれる場をいくつも築いています。

実は、この記事の執筆後、彼はもうひとつの“居場所づくり”に挑戦を始めました。地域で「友だちのいるBAR」をコンセプトにしたスナック『トレス・カーサ』 を立ち上げたのです。

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子ども支援や高齢者福祉、地域活動に関わる仲間たちが、ゆるやかにつながりながら、思いや活動を語り合える、安心・安全な“自分の場”。店名は仲間とのブレストで決まりました。

トレス→三
カーサ→宅(家)

この場が仲間にとっての『傘』であること、会員制で運営されるこの場で、カウンターに立つ方一人ひとりが、また誰かの「傘」となってほしい…。そんな想いは、プレ・オープンながらすでに人が人を呼ぶかたちで育ち始めています。

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三宅さんの“パラレルな人生”は、まだまだ進化中。その歩みは、私たち一人ひとりが「本業+α」で生み出せる未来の可能性を力強く教えてくれます。多面的に人生を楽しみ、既成の枠にとらわれず、自分のキャリアを創り、異なる人と交わる中で、新たなつながりや発見を得ていく──。
パラレル活動の醍醐味であり、私たちが自由に描ける未来の選択肢だと考えています。

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