<アート×書道>流派に縛られず新たな可能性を切り開く書道アーティストの挑戦
MOGRA(もぐら)さんは、6歳から書道を学び始め、30歳で脱サラして書道アーティストとして独立しました。SNSやライブ配信の活動の他にも、美術館やギャラリーでも作品を展示。書道とアートを融合させた新しいスタイルで、多くの人を魅了しています。書道の可能性を追求するMOGRAさんに、詳しくお話を伺いました。
人との出会いをきっかけに、書道の活動を再開
僕は小学校1年生から高校卒業まで、ずっと書道を続けていたのですが、大学生になると忙しくて、なかなか続けられなくなり、一旦離れていました。地元である静岡の大学を卒業後、愛知の大手企業に営業職として入社しました。そのまま7年勤務し、28歳のときに東京の建設設備会社に転職します。
28歳で愛知から東京へ転職したとき、新しい環境で「これからの人生をどう生きたいのか」と深く考えるようになりました。「30歳までに起業したい」という思いもあったので、東京では自己啓発セミナーや起業セミナーなどに、積極的に参加して情報収集していました。
そんな中、ある人と出会いました。その人に「夢はあるの?」と聞かれ、僕は「老後に書道教室を開きたい」と答えたんです。すると、「60、70歳で書道教室をはじめるのは大変だよ」と言われました。
さらに、「今その夢に向かって何か行動してる?」と聞かれたのですが、僕はそれに対して何もしていないことに気付いたんです。その瞬間に「今すぐ書道をやらなきゃ」と思い行動を開始。当時『メルカリ』にライブ配信機能があって、自分でもできそうだと思えたので、そこで文字を書いて販売することにしました。
令和になったタイミングもあって、夜中に配信していたのにも関わらず、売上が一般的な会社員の月収を超えるまでになりました。
ライブ配信や展示会への出展で知名度を獲得
そこから会社を辞めてメルカリのライブ配信で頑張っていこうと、思いきって退職届を提出しました。仕事を辞めるのは怖かったですが、内側から湧き上がる“何か”に突き動かされたのです。振り返ると、あのときの決断は軽率だったかもしれません。普段はしっかりと準備をするタイプですが、あのときは衝動のままに従いました。それが今の私を形作っているので、結果的には正しかったと思います。
しかし、退職届を出した翌日、メルカリの配信サービスの終了のお知らせ(1カ月後に終了)が届きました。会社を辞めたので住んでいたマンションからあと一カ月で出なくてはいけないという状況でもあったので、次の一手を考えなければなりませんでした。
それなら思いきって環境を変えるために、大阪に行ってみることにしました。大阪では路上での書道パフォーマンスに挑戦しようとしたのですが、すぐに新型コロナウイルスの流行により、外での活動が難しくなりました。
それならばライブ配信で書道を伝えたいと思い、『楽天ライブ』に挑戦しました。たくさんの視聴者の応援のおかげでテレビやCMに出演する機会もいただき、トップライバーとなりました。
しかし、実際に書道で収入が得られているわけではないので、自分の中で歯がゆさを感じていたのも事実です。そこで新たなチャレンジとして、『東京都美術館』での展示会に出展することに。ありがたいことに、450点の中からトップに近い称号をいただきました。その後も他の展示会に挑戦し、多くの人に自分のことを知っていただけるようになりました。
流派や派閥に縛られない“新しい書道”を目指して
2022年に初めての個展を大阪、宮崎、福岡で開催しました。個展の準備や資金面は大変ですが、全国の皆さんに作品を楽しんでもらえることはやりがいがあります。2023年の個展は、クラウドファンディングで多くの方に支援していただき、無事に開催することができました。
書道には伝統があり、流派や派閥などが存在します。とても厳しい世界ですが、僕はそれらに縛られず自分のスタイルで書道をしていて、アートと書道を融合させて新しい可能性を探っています。一般的な半紙に文字を書くのではなく、土台からこだわり、イラストや絵を描いたり、さまざまな素材を使ってみたり、“新しい書道”をつくり上げていきたいんです。
小学校のときに楽しんでいたあの感覚を、大人になった今でも感じてほしいです。筆ペンでも良いので、表現する楽しさを知ることが大切です。「書道はもっと自由で、もっと面白いんだよ」ということを伝えたいですね。
書道は、2021年に無形文化財に登録されています。この素晴らしい日本の伝統文化を、僕なりの方法で未来へとつなげていくことが僕の目指す書道、そして僕の生き方です。
これからも、流派や派閥に縛られない新しい書道を追求し、より多くの人に書道の魅力を伝えていきたいと考えています。そして、日本だけでなく世界にも目を向けて、多文化の中で書道の新たな可能性を見つけていきたいです。