中小企業が利用すべき倒産防止共済とは?ファイナンシャルアカデミーの講師が活用ポイントと注意点を解説
小林史明さんは、株式会社Communeの代表取締役で、他にも、ニコニコホビーの代表、ファイナンスアカデミーの講師も務めています。近年、改正が加わり話題になっているこの倒産防止共済について、基本的な仕組みや活用術、改正内容などをお話いただきました。
倒産防止共済の趣旨と活用の実態
倒産防止共済は、中小企業の取引先が倒産した場合に連鎖倒産を防ぐために1978年にスタートした制度です。正式名称は「中小企業倒産防止共済」で、経営セーフティ共済とも呼ばれます。
売上先の会社が倒産すると、自社への入金が滞る。入金がなければ自社は仕入代金が払えないといった具合で、取引先一社のお金のめぐりが悪くなることを端緒に、連鎖的に倒産する会社が出てきてしまう可能性があります。これを加入者の相互扶助の精神により防ごうとするのが、この制度の本来の目的です。
加入するには1年以上事業を継続している中小企業者であることが条件で、業種ごとに資本金や従業員数の範囲が定められています。掛金は月額5,000円から20万円まで5,000円単位で設定でき、積立て掛金総額の上限は800万円です。解約も任意で行うことができ、12カ月以上掛金を納めていれば、納付月数にもよりますが、最低でも掛金総額の75%以上の解約手当金を受け取ることができます。
この共済制度の大きな特徴は、掛金が会社でいうところの損金、または個人事業主でいえば必要経費に算入できる点です。これにより、生命保険のような相互扶助をしながらも、節税効果が十分に期待できるため、今では多くの中小企業が活用しています。
上述した節税効果が副次的にあるため、本来の制度趣旨から逸れているという声も多く出ています。経済産業省が発表している加入者アンケートでは、約3割が「税制上の優遇措置があるため」を加入理由に挙げており、そのうち約2割が節税のみを目的としていると結論付けています。
また、この節税目的の利用を後押ししているのが、掛金納付期間に応じた解約手当金の仕組みです。掛金納付期間が40カ月以上であれば解約(機構解約は除く)時に掛金全額が戻ってくるため、一時的な節税効果を狙って一定期間だけ加入し、その後解約するといった行動が横行しています。実際、約33%が加入後3年目(36カ月)、4年目(48カ月)に解約しており、解約して2年未満で再加入するケースも約8割に上ります。
この実態を受け、倒産防止共済が本来の目的とは異なる趣旨で利用されるケースが目立っていることから、今般の法改正がなされることになりました。
倒産防止共済の活用術と注意点
上述のとおり、倒産防止共済は法改正が行われ、節税が以前よりしにくくなります。ただ、まったくメリットがない訳ではないので、仕組みを理解し、適切に節税を図っていきましょう。それでは、倒産防止共済を効果的に活用するために、まず基本的な仕組みや利点を理解していくことにします。
最初に、掛金はすべて経費計上できるため、節税対策として非常に有効です。確定申告時に所定の明細書を添付することで、年間最大240万円(20万円/月×12カ月)を経費として計上できます。この明細書を申告時に添付し忘れると、経費計上が認められませんので注意ください。
また、取引先が倒産していなくても、一時貸付金を利用することができる点も魅力です。この貸付金は利率0.9%(令和6年4月1日時点の利率)で、借入限度額の範囲内で30万円以上から利用可能であり、担保や保証人も不要です。
これにより、急な資金需要が発生した場合でも、柔軟に対応することができます。たとえば、日本政策金融公庫で創業時に借り入れをする場合は、大体1~3%の利率になりますので、これを考慮するとメリットが大きい制度ではないでしょうか。
しかし、注意点もいくつかあります。
まず、解約すると元本割れする可能性があります。納付月数が12ヶ月未満の場合は掛金が掛け捨てになり、40カ月未満の場合、解約事由によっては元本割れするため、長期的な視点で積立てることが重要です。また解約手当金は受け取ったときに収入として課税対象になるため、戦略を立てないと想定以上の税金を納める必要が出てくる可能性があります。したがって、出口戦略をもって加入し、返還時のタイミングも図ることが得策です。
いざ本来の目的によって機構から共済金の貸付けを受ける場合ですが、共済金貸付額の10%が掛金総額から控除される点にも注意が必要です。つまり、積み立ててきた掛金の権利が、共済金貸付額の10%分消滅するということです。
たとえば、今までの掛金総額が100万円であり、取引先の倒産で600万円の機構から共済金貸付けを受ける場合、60万円(600万円×10%)が掛金から控除されるため、掛金総額は40万円(60万円は権利がなくなる)となってしまいます。共済金の借り入れは無利子と謳ってはいますが、実質的な利子のようなものと捉えることもできますね。
さらには、脱退と再加入を繰り返すことで、積立期間・積立額が変動し、本来備えるべき連鎖倒産リスクに対して十分な貸付を受けられなくなる恐れもあります。これらの点を踏まえた上で、倒産防止共済を効果的に活用することが求められます。
倒産防止共済の改正内容と小規模企業共済
倒産防止共済に関して大きな改正が行われました。
掛金が会社でいうところの損金、個人事業主でいえば必要経費に算入できるということは、冒頭でも申し上げたとおりです。ただし改正によって、その範囲が制限されることになりました。
つまり、解約から早期の再加入をすることにより、本来の目的から逸脱した節税策に歯止めをかけるため、解約後の再加入こそできますが、2年間は掛金は損金あるいは必要経費にはできないという改正がなされたのです。これは令和6年10 月1日以後の共済契約の解約について適用するとされています。
適用時期までにまだ期間があるので、それまでに何か対策が打てる方としては、令和6年9 月30日以前に、掛金納付済みの月数が40カ月以上経過する会社です。この会社は適用時期までに解約し、再加入をすることで、今までの恩恵を最後にもう一度受けることができます。
一方で、令和6年10 月1日以後に、掛金納付済みの月数が40カ月以上経過する方は、期日前に解約すれば元本割れが発生してしまいますし、これから新規で加入を考えている会社は、当該期日までに40カ月を経過することができませんので、これも掛金が掛け捨てになってしまう、又は元本割れが発生します。
この改正は、倒産防止共済の利用方法の適正化を促すものとなっています。節税目的だけでなく、本来の連鎖倒産防止という趣旨を理解し、戦略的に適用することが重要です。改正点を踏まえたうえで、倒産防止共済をどのように活用するかを再検討することが求められます。
さて、倒産防止共済と同じ独立行政法人中小企業基盤整備機構が用意する共済制度として、小規模企業共済があります。小規模企業共済は、個人事業主が事業を廃止したり役員が退職する際に備えるために加入する共済制度です。倒産防止共済が取引先の倒産によるリスクに備えるのに対し、小規模企業共済は経営者自身の退職後の生活を支えるための制度です。
小規模企業共済の掛金は月額1,000円から70,000円まで自由に設定でき、掛金は全額課税対象所得から控除ができます。また、共済金は退職時に一括で受け取ることができ、受け取った共済金は、一括受取りの場合、退職所得扱いになるため、節税効果が高い(退職所得に該当する場合は、退職所得控除があります)です。
倒産防止共済とは異なり、小規模企業共済は経営者自身のための制度であり、企業全体のリスク管理としては役立ちません。そのため、経営者は倒産防止共済と小規模企業共済を併用することで、企業と自身の両方のリスクに備えることができます。
まとめ
以上のように、倒産防止共済は本来、中小企業の相互扶助を目的とした制度ですが、節税目的での利用が横行した結果、改正が入ることになりました。これは、適法ではあるが制度趣旨に合った運用がされていないために法改正に至る、最たる例であるといえます。
今一度、単なる節税手段としてだけではなく、取引先の倒産リスクに備える本来の目的を理解した上で加入・運用していくことが肝要です。どんな制度も節税メリットを享受しつつも、ただそれだけに目がくらむことなく、いざという時に会社を守ることができるように、会社運営をしていただけたら幸いです。