ファイナンスアカデミーの講師が役員給与のポイントと注意点を徹底解説

小林 史明

小林 史明

2024.06.08
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小林史明さんは、株式会社Communeの代表取締役で、他にも、ニコニコホビーの代表、ファイナンスアカデミーの講師も務めています。本コラムでは、税理士法人に携わっている経験から、会社運営するうえでの役員給与に関することや、適正な設定方法などをお話いただきました。

役員給与の損金算入が認められる3つの区分

見出し1画像_嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_小林 史明さん

役員給与は、会社運営において重要な要素ですが、その取り扱いには税務上の厳格なルールが存在します。税務上、役員給与は「定期同額給与」「事前確定届出給与」「業績連動給与」の3つに分類され、それぞれ損金に算入される要件が異なります。損金とは税務上の費用を指し、損金になるためには、税法という一定のルールに従ったものでないと認められません。

・定期同額給与
定期同額給与は、毎月同額を支給する給与のことです。税務上、役員に対する給与の中で最も一般的な形式です。毎月同じ金額を支給するため、企業の損益計算が安定しやすいメリットがあります。また、支給額が一定であることで損金として認められ、法人税などの節税効果があります。

事前によく検討すべきなのは、支給額が職務執行期間を通じて変更できないということです。例外として、役員の職務内容の変更や会社の業績の著しい悪化など、客観的な理由であれば変更可能になります。

・事前確定届出給与
事前確定届出給与は、役員に対するボーナスや賞与を指します。事前に支給日と支給額を確定させ、所轄税務署に届け出ることで損金算入の道が開かれます。その後の経営成績に関わらず、届出額を予定日に支給する必要があるため、事前にしっかりとした予想のもとに決定される必要があります。

株主総会で決議し、所轄税務署に届出を行い、支給日と金額を厳守することで、税務調査においても適正な手続きを踏んでいるものと認められます。ただし、届出を怠った場合や実際の支給額が届出と1円でも異なる場合、支給日が予定日と1日でも異なる場合は、全額が損金不算入となるリスクがあります。そのため、慎重な計画と確実な手続きが求められます。

・業績連動給与
業績連動給与は、会社の業績に連動して支給される給与です。たとえば、売上や利益に応じて支給額が変動する仕組みです。これにより、役員のモチベーション向上や会社の業績向上に寄与する効果があります。

業績連動給与は、現状大企業のみに適用が制限されているため、日本の大部分を占めている中小企業においては適用ができません。いわゆるオーナー企業であることが多い中小企業では、役員給与は利益操作に用いられる可能性が高いことから、上記手続きを設けて、損金算入を制限する建て付けになっており、この業績連動給与はこの考え方の最たる例と言えます。

役員給与が損金算入されない場合

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役員給与は、会社法上は定款や株主総会によって自由に決定できますが、上述のとおり、税務上は制約を設けることで、その損金に算入するための条件を明確に規定して、利益操作につながる行為を制限しています。

定期同額給与であっても、経営状況から見て不相応に高額と税務署に判断された場合、損金算入が認められないことがあります。

たとえば、類似する企業の給与水準、職務に対する対価性などを考慮しても余りあるほど、

役員給与が高額に設定されている場合、税務署はその金額が適正な対価を反映していない(利益操作である)と判断する可能性があります。結果として、その高額な給与は損金算入が認められず、会社の税負担が増加する可能性があります。

事前確定届出給与については、届出内容と実際の支給が異なる場合や、業績連動給与の算定方法が不適切な場合も、損金算入が認められません。事前確定届出給与の場合、たとえば、届出た支給額よりも多く支給したり、支給日を変更したりすると、全額が損金不算入となります。このため、事前の計画と確実な実行が求められます。

業績連動給与においては、その算定方法が不透明である場合や、業績指標が適切でない場合も、損金算入が認められません。業績連動給与を導入する際は、売上や利益などの具体的な業績指標に基づき、透明性の高い算定方法を設定することが重要です。

同族会社の場合は特に注意が必要です。同族会社では、役員給与の金額設定に対して税務署の目が厳しく、合理的な根拠が求められます。たとえば、家族経営の会社で、親族の役員に対して高額な給与を支給する場合、その金額が市場の相場と比べて不相応に高いと判断されると、損金算入が認められない可能性があります。

このように、役員給与の金額設定は、会社の業績や財務状況、他の役員・従業員の給与とのバランスなどを総合的に勘案し、実態が伴った合理的な根拠を持って行うべきです。経営者の独断で決めると、予期せぬ税務リスクを招くおそれがあります。

適正な役員給与の設定には、税理士や会計士などの専門家の助言を活用することが有効です。専門家の知識と経験を活用することで、税務リスクを最小限に抑えつつ、会社の利益を最大化することが可能となります。私も常に税理士と連携し、法令を遵守するよう心掛けています。

役員給与が損金算入されない場合のリスクを理解し、適切な対応を取ることで、会社の健全な経営を維持することができます。税務署との不要なトラブルを避け、会社の成長を支えるためには、役員給与の設定に関する知識と経験を持ち、慎重に対応することが求められます。

役員給与の適切な設定方法

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役員給与を適切に設定し、無用の税務リスクを回避するためには、以下のポイントを押さえることが重要です。

・役員報酬の決定方法
定款または株主総会で役員報酬の限度額や算定方法を定め、その範囲内で各役員の具体的金額を取締役会で決定します。これにより、役員報酬の透明性を確保し、税務上のリスクを低減できます。

・会社の業績と財務状況の分析
会社の業績や財務状況を客観的に分析し、役員の職責に見合った水準に設定することが重要です。役員給与が適正であるかを判断するためには、他の役員や従業員の給与とのバランスも考慮する必要があります。

・変更時の手続きと証跡
役員給与の変更が必要な場合は、事由や手続きを整え、議事録などの証跡を残すことが重要です。役員の職務内容の変更や業績の著しい悪化などが認められる場合には、客観的な根拠をもって株主総会で決議をしていきます。これにより、適正な手続きを踏んでいることを説明する、株主・税務署に対する対外的なひとつの材料になります。

・専門家への相談
税理士など専門家に相談し、定期的にチェックを受けることも重要です。役員給与の設定を安易に考えず、会社の状況変化にも柔軟に対応しながら、適正な運用を心掛けることが、税務リスクの回避につながります。

以上のポイントを押さえることで、役員給与を適切に設定し、無用な税務リスクを避けることができます。会社の健全な経営を支えるために、役員給与の設定には、慎重さと計画性が求められるのです。