切替 一薫
子育て受験コンシェルジュ
「親が教えないと子どもの成績は上がらない」と悩んでいませんか?1万人以上の子どものノートを研究し、独自の思考育成法で数々の逆転合格を導いてきた教育アドバイザー・切替一薫(きりかえ かずまさ)さんの連載コラム第2弾です。本記事では、多忙な親だからこそ実践できる「教えない問いかけ術」と、科学的に子どもの思考力を伸ばす教育法について綴って頂きました。

「学年が上がるにつれて問題が難しくなり、親の自分では解き方を教えられない」 「教えようとするとどうしてもイライラして、最後は必ず激しい親子喧嘩になってしまう」
多忙な合間を縫って我が子の学習に向き合おうとする保護者の方々から、最も多く寄せられる悩みです。特に中学受験では「親が勉強の中身を理解し、手取り足取り教えなければ、子どもの学力は伸びないのではないか」という不安に駆られ、夜遅くまでテキストと格闘し、我が子に宿題を熱心に教えようとしては疲弊してしまう家庭が後を絶ちません。最近は高校受験でも親が教えることが増えてきています。しかも最近は夫婦共働きなご家庭が増えてきました。そんな中で勉強を教える時間を確保するのですから、簡単なことではありません。
ところが自営業者や経営者で、ほとんど見てあげる時間がないご家庭にも関わらず、優秀な子が多いのも事実です。なぜ受験に成功させたくて伴走に力を入れているのに、うまく行かないのでしょうか。なぜ忙しくて見てあげられないご家庭の方がうまくいくのでしょうか。
実はここには、塾が仕掛ける「養殖教育の罠」が関係しているのです。しかもこの罠は、真面目で教育熱心な親ほどはまりやすく、無自覚に巻き込まれ、子どもの才能を潰してしまうのです。なので私は、教えようと思ってうまくいっていない保護者の方にはこのように話しています。
「親は勉強の中身など、1ミリも理解していなくていい。むしろ、教えようとすればするほど、子どもの才能と思考力は確実に潰れていく」
親が「先生役」を買って出ることが、なぜ科学的・心理的に見ても破滅的な結末を招くのか。そして、勉強の中身が分からない多忙な親が自然と実践している「問いかけの技術」とは何なのか。その構造と実践法を解説していきます。

なぜ、親が子どもに勉強を教えようとすると、決まって険悪な空気が漂い、怒号が飛び交う事態に陥るのでしょうか。それには構造的に明確な理由があります。
① 親は「解き方」を教えているつもりで、子どもは「丸にする方法」を学んでいる
親が机の横について解説を始めるとき、親の頭の中には「この解法を理解させたい」「解けるようになってほしい」という意図があります。 しかし、教えられている側の子どもの頭の中を支配しているのは、まったく別の感情です。
それは、「どうすればこの重苦しい時間から早く解放されるか」「どうすれば怒られずに丸をもらえるか」という防衛本能だけです。
親が熱弁を振るえば振るうほど、子どもは親の表情や顔色を窺い、親が期待している「正解のセリフ」を当てることだけに頭を使い始めます。思考しているように見えて、その実、脳の思考エンジンは完全に停止しているのです。その結果、数日前に教えたはずの問題なのに、週末のテストではまったく解けないという現象が起き、「昨日あんなに教えたのになんでできないの!」と親が爆発することになるのです。
② 「教える親」は、子どもにとって「味方」から「敵」に変わる
子どもにとって家庭とは、本来、外(学校や塾)で競争にさらされた後に戻ってくる唯一の安全地帯(セーフティネット)でなければなりません。 ところが親が先生役になり、上から目線で「なんでこんなのも分からないの?」「もっと集中しなさい」とダメ出しを始めると、子どもにとって親は「自分を評価し、裁く敵」へと変わります。
私はこれまで、親が勉強の話をした瞬間に子どもが猛烈に不機嫌になったり、壁を作って部屋に閉じこもったりするケースを数え切れないほど見てきました。これは反抗期が原因なのではなく、「親が敵のポジションに立ってしまっていることに対する防衛反応」に過ぎません。味方だと思えない相手から何を教えられようと、子どもの脳は言葉をシャットアウトしてしまうのです。
③ 子どもの伸び代の限界が「親の力量」で固定される
親が解説役(いわゆる親塾)を務める最大の構造的欠陥は、「子どもの成長の上限が、親の子育てレベル・学力レベルの限界でストップしてしまう」点にあります。なぜなら親が自身の知識を持って教えるということは、それ以上のことを学ぶ時間にはならないからです。そのため、親が持っている知識や解法パターンの枠の中でしか物事を捉えられなくなり、子どもが自力で親の頭脳や発想を超えて突き抜けていくチャンスを、親自らの手で奪い取ってしまうため、成績が伸び悩むのです。ハッキリ言ってしまえば、親ができないことは、子どももできるようにはならない、ということです。だから親は教えず、親以外からの習得率を高めておく方が、親を超えてくれる確率が高くなるのです。

では、親が勉強の中身を教えずに、どうやって子どもの学力を引き上げるのか。 その答えはシンプルです。「教えること(Teach)」を手放し、「問いを投げて放置する(Ask & Wait)」へとシフトすることです。実はこれは子どもに教えるよりも簡単なことであり、親である優位性を活かせる方法でもあるのです。だから自営業者や経営者で忙しいご家庭が、自然とできてしまうのです。もう少し具体的に掘り下げて見てみましょう。
①「何を学んだか(知識)」より「どう学んだか(プロセス)」にしか価値はない
多くの親御さんは「公式を知っているか」「年号を覚えているか」といった知識の有無に一喜一憂し、正解すれば褒め、間違えれば教え込もうとします。 しかし、現代において単なる知識そのものに大した価値はありません。スマートフォンやAIを使えば、事実や解法パターンなど数秒で引き出せる時代です。そして昨今の入試では、知識がなくても問題文や与えられた資料を読めば答えにたどり着ける問題が増えてきています。つまりこれからの学びでは、「何を学んだか(知識)」より「どう学んだか(プロセス)」にしか価値はないのです。そして「その知識をどうやって手に入れたのか」という獲得のプロセスは、将来にわたって再現性を持つ、価値の高いスキルとなります。
たとえば、足し算を学ぶとき、身の回りの生活から「どうしても足し合わせる必要性」を感じて自力で学んだ子は、どんな場面で足し算を使うべきかを自分で考えて応用できるようになります。 両親共に忙しい家庭では、子どもは自分で考える必要性に迫られるため、必然的に自力で学ぶ時間が多くなります。一方で、大人から解法を教えられて学んだ子は、「人に教えてもらわないと学べない子(養殖型)」になっていきます。親が教えようとする家庭では、まさにこの教えられた通り解く「考えない勉強」が習慣化することになり、「教えられて素直に聞くこと」を褒められた子は他人の指示待ちになり、「我慢して机に向かうこと」を褒められた子は、勉強を単なる苦行として処理するようになります。
知識や点数そのものではなく、「自ら疑問を持ち、自力で調べ、試行錯誤して解決した」というプロセスを肯定すること。これこそが、自走する子どもを育てるための絶対的な教育原則です。
②親の役割は「先生」ではなく「問いを投げる壁打ち相手」
では自営業者や経営者で忙しいご家庭では、一体どのような接し方になっているのでしょうか。親がやっているのは、問題を解くことではなく、子どもの思考を巡らせるための「問いかけ」を投げることだけです。ちょっと想像してみて下さい。あなたは多忙な親で、子どもに勉強を教える時間がありません。子どもが「これ分からないから教えて」とノートを持ってきたらどうしますか?
忙しいなら、絶対に解説を読んだり、解き方を教えようとしてはいけません。そんなことをすれば、わからない問題が出てくる度に親が教える時間を確保しなければならず、さらに親も勉強して子どものレベルを引き上げなければならなくなります。そうなると生活が破綻してしまうのは目に見えていますよね。となると、親の手を煩わせず、極力自分で勉強してもらうのがベストなはずです。なのでただ、こう返してください。
「お父さん(お母さん)もやり方は分からないな。それより、どこまでは分かったのか説明してみて?」
「どうしてそう考えたの?」
「どうすればこの問題を解けるようになる?」
これだけで十分です。子どもは自分の頭の中にある曖昧な思考を、親という「壁」に向かって言葉(アウトプット)にせざるを得なくなります。子どもは、だれかに説明しようと言語化した瞬間に、自分がどこで躓いているかを脳内で自己認識(メタ認知)し、自ら勝手に解決策に気づきやすくなるからです。

親が先生役を完全に降り、子どもの自律学習を引き出すために、家庭で即実践できる「引き算の対話術」を具体的に解説します。
① 答えを教えず「どうしようか?」と子どもの目線まで下りる
問題が解けずに手が止まっている子どもを見たとき、つい上から「早く解きなさい」「テキストを見なさい」と指示を出しがちですが、これをやってしまうと、指示がないと動けなくなっていきます。そうなると返って面倒なことが増えていくことは、容易に想像できるでしょう。決めてあげなきゃやらない、決めてあげてもやらない、となっていってしまいますから。では一番成功率が高いのはどんな接し方でしょうか。夫婦ともに自営業者や経営者で忙しいご家庭ではどのような接し方をしているのでしょうか。誰でも真似できる簡単な方法があります。それが親が子どもより低い目線に立ち、「困ったね、どうしようか?」と一緒になって悩むスタンスを取ることです。この方法なら、親が教えるために解説とにらめっこする必要も、教える時間も必要ありません。
親が教える側に回ると主導権は親に移り、子どもの自己責任感は消失します。しかし、「どうすれば解決できると思う?」と一緒に首をかしげることで、子どもは「これは自分が解決すべき課題なのだ」と自分事として捉え、自発的にノートやテキストをめくり始めます。つまり、次にわからない問題にあたったときは、自分で解決する方法を考えてくれる可能性が出てくるので、親が教える負担はどんどん軽くなるということです。
② 「突っぱねる」なら、結果のすべてを尊重する覚悟を持つ
質問に来た子どもに対して、「自分で考えなさい」と突き放すこと自体は間違いではありません。自律を促す上で、あえて手を貸さない場面は必要です。 しかし、ここで極めて重要な心構えがあります。
「突き放した以上、その子が下した判断や、その後に起きた結果のすべてを受け入れ、尊重する覚悟を持つこと」です。
多くの親は、口では「自分でやりなさい」と突っぱねておきながら、子どもが親の想定と違うやり方をしたり、テストで悪い点を取ってきたりすると、「だから言ったでしょ!」「なんでそんなやり方したの!」と強烈なダメ出しをしてしまいます。 覚悟のない突き放しは、ただの育児放棄であり、子どもをさらに混乱させるだけです。 「自分でやってごらん」と手を放したのなら、たとえ宿題を忘れて先生に怒られようが、テストで0点を取ってこようが、一切責めてはいけません。「自分で決めて試した結果」を尊重し、そこから子どもが何を学んだのかを静かに見守る姿勢が、本当の自走力を育みます。
③ できた「正解」を無視し、間違えた「プロセス」を面白がる
子どもが100点を取ってきたとき、私は大して褒めません。「おー、すごいね」と塩対応で終わらせます。満点はそのテストで測れる枠組みの上限に達しただけであり、そこには新たな学びの余白がないからです。もっと言ってしまえば、その満点が合格を引き寄せてくれるものでも、進学後の成績を保証してくれるものでもないのです。一方、間違いには多くの学びのチャンスが生まれます。なので逆に子どもが豪快に間違えてきたときこそ、大いに面白がり、歓迎します。
「このバツ、すごく面白い間違え方してるね! どうしてこう考えたの?」
間違えたプロセスの中にこそ、その子の独自の思考パターンや、飛躍の種が詰まっています。間違えることを歓迎される家庭環境があって初めて、子どもは失敗を恐れずに仮説を立て、果敢に難問へ挑む「野生的な思考力」を手に入れることができるのです。
「子どもに勉強を教えてあげられない」と引け目を感じる必要など、どこにもありません。学力や解法を教えるだけの存在なら、プロの講師やAI、解説動画がいくらでも代行してくれます。しかし、「何があっても子どもの味方でい続け、その子の思考プロセスを信じて見守ること」は、世界中で親であるあなたにしか絶対にできません。
親が教えることをやめ、点数や偏差値へのこだわりを手放したとき、家庭から無駄なバトルが消え去ります。 そして子どもは、「自分の頭で考え、自分の足で歩く楽しさ」を発見し、親が想像もしなかったスピードで勝手に伸び始めていくのです。
ところがこの話をすると、「そもそもうちの子はやらないから質問も出てこない。」とか「優秀な子の話でしょ?」といった話を耳にします。全くそんなことはありません。私のところには、既存の塾スタイルで勉強させ、教え、うまくいかなかった親子が何百人も来ています。そのうち、親が接し方を変えたら、子どもが自分で勉強するようになった確率は5分の4です。つまり、これらは特別な家庭の話ではなく、親の覚悟の話だということです。
あなたはお子様のために使う時間がたっぷりありますか?それとも忙しい中で子育てをしていますか?もし忙しい中で子育てをしているなら、勉強を教える役目など今すぐ手放してください。思い切って手放せば、子どもは徐々に変わってきます。今日から、お子さんが遊んでいて勉強しなければ、「一緒に遊ぼうか」と声をかけてみて下さい。解けなくて悩んでいるなら、「ここまでどうやって考えたか教えて」と声をかけてみて下さい。忙しいからできるこの接し方が、子どもたちの学習のベースを育て、これから先も勉強していく子どもたちを、本当の意味で守ってくれるのです。