子育てとキャリアの両立を支える『ママズオン』の挑戦

石井 淑子

石井 淑子

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石井淑子(いしいよしこ)さんは地域に根差した活動を軸に、ハンドメイド作家やママ起業家を支援する『ママズオン』を設立。現在では、1000人以上のメンバーが集まり、女性が活躍できる場を提供し続けています。「お世話になった人に恩返しをしたい」と語る石井さんに、コミュニティ立ち上げに至った経緯や、今後のビジョンを伺いました。

看護師としてキャリアを積むなか、結婚・出産・離婚を経験

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子どもが好きで運動神経も良かった私は、体育の先生になることを夢見ていました。しかし、母子家庭で経済的に余裕がなく、日本体育大学への進学は叶いませんでした。代わりに、先輩が通っていた都立の看護学校へ進学する道を選びました。

体育大学への夢を断たれたときには反抗期真っ只中で、やさぐれていた時期もありましたが(笑)、入学金や学費を自分で工面しながら3年間通い、無事に卒業。病院勤務の看護師として社会人のスタートを切りました。

私が就職した2002年は、ちょうど『東京ER構想』が導入されたタイミングでした。この構想は、都立病院が24時間365日どんな患者も受け入れる体制を整えるというもの。その影響で私たち新卒者も50人ほど採用され、配属先はICU(集中治療室)となりました。

爆発事故や火傷の重傷者が運ばれてくるような外科メインの現場で、6年間経験を積みました。この間に妊娠を経験して、肉体的にも精神的にも過酷な状況でしたが、自分の成長を実感できた日々でした。

25歳の時、夫の借金問題をきっかけに離婚しました。その頃にはすでに2人の子どもがいたため、夜勤ができなくなり特別養護老人ホームでの勤務をすることに。この老人ホームで働く同僚と再婚しましたが、結局3年後に離婚。その後は、高齢者と障がい者が共存する複合施設で働き始め、13年ほど勤務しました。

35歳の時、この施設で看護師長に就任。約200床の大規模施設を任される責任は大きかったものの、同時にやりがいを感じて自分の役割に誇りを持って働きました。

ママさんコミュニティ『ママズオン』を設立

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私ひとりで3人の子どもを育てながら、フルタイムで施設の看護師長として働く毎日は、まさに息つく間もない状態。そんな私の唯一の息抜きは、月に1回通うお花の教室でした。

その頃、周りではハンドメイドがブームになっていて、私もやってみようと思い立ち、子どもたちと一緒にハンドメイド作品をつくって近所のマルシェで販売を始めました。子どもたちも一緒に「いらっしゃいませ!」と元気よく声をかけてくれ、家族みんなで楽しめる時間が増えました。

マルシェへの出店を通じて感じたのは、「子どもと一緒に参加できる場がもっと欲しい」ということです。当時、子どもを預ける場所がなく、一緒に行動せざるを得ない状況が多かったのですが、同じように感じているママたちも多いはず。そこで、「子どもと一緒に参加できるイベントを自分でつくろう!」と考えました。

私が目指したのは、イベント中に子どもが参加者全員から見守られ、安心して楽しめる環境づくり。こうして生まれたのが、ママさんコミュニティ『ママズオン』で、イベントはすべてお子さんとの参加OKです。

『ママズオン』は3つの活動を軸にしていて、メイン事業は女性の起業コンサルティングです。特にWebマーケティングを中心に、オンライン起業塾を運営。ママさんたちが成功に向けて一歩を踏み出すサポートを行っています。

2つ目の活動は、東京・品川にあるハンドメイドの委託販売店『ママズの家』の運営です。店舗内にブースを設け、お茶会やものづくりワークショップを開催。また、レンタルスペースとしても利用可能で、占いやカラーセラピー、打ち合わせなど幅広い用途に対応しています。

3つ目が、現在最も力を入れているイベントの企画・運営事業です。駅前のマルシェやショッピングモールでのマーケットなどのイベントを企画し、ママさんたちが参加できる機会を提供しています。これまでの経験を活かしてワークショップや物販の企画を行い、集客のサポートも担当しています。

最近では企業とコラボレートして、商業施設のリニューアルイベントや駅ナカショッピングモールでの店舗コラボイベントなども増えてきました。こうした取り組みを通じて、ママさんたちの活動の幅をさらに広げるお手伝いをしています。

他には、企業様のイベント時での託児依頼サービス事業をスタート予定です。小さなお子さんがいると、イベント中に「帰りたい」と言い出して、泣く泣くその場を後にする経験をした方も多いのではないでしょうか。せっかくの機会を無駄にしないため、保育士の資格を持つメンバーが子どもを預かり、安心して過ごせる環境を提供できればと思います。

『ママズオン』のメンバーには、なぜか保育士がたくさんいます。さらに、私のように元看護師というバックグラウンドを持つ人も少なくありません。この強みを活かし、保育士と看護師がタッグを組んで託児事業を立ち上げる構想を進めています。

『ママズオン』の大きな魅力は、多種多様な業種や経験を持つメンバーが集まっていることです。現在、コミュニティには1000人以上のメンバーが在籍し、それぞれの知識や経験を活かしてさまざまなアイデアが生まれています。「こんなサービスがあったらいいよね」といった会話から、実際に形になることも少なくありません。

女性が活躍できる社会を目指して

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シングルマザーとして過ごしていた時期、私は経済的にも精神的にもどん底でした。そんな私を支えてくれたのは、近所の方々や民生委員の方々、そしてママ友たちでした。

私がお金がない時には、何十個ものレトルトカレーを持ってきてくれたり、子どもの制服が買えない状況で、綺麗なお下がりを集めてくれたりと、さまざまな形で助けてもらいました。

現在、私は委託販売店『ママズの家』を運営していますが、この場所は、私が辛い時に助けてもらった恩返しの場でもあります。もちろん、作家さんたちの作品を販売して収益を上げることも重要ですが、本当の目的は地域貢献にあります。

『ママズの家』は地域の皆さんとのつながりを大切にしながら、街の活性化のためにイベントを企画しています。障がいを持った方がつくったクッキーや、就労継続支援B型で働く女性たちが手掛けたハンドメイド作品も販売しています。こうした活動を通じて、地域の皆さんにとっても価値のある場所を提供できればと考えています。

『ママズオン』は、一見ボランティアのように思われることが多いですが、活動を継続するためにはマネタイズが欠かせません。私たちは、ただのママ友の集まりではなく、事業としてしっかり運営しています。私の思いに共感し、「一緒にやろう」と声をかけてくださる方々のおかげで、『ママズオン』を続けることができています。

女性が社会で活躍することを国も推進していますが、現実にはまだ男性優位の部分が多いと感じます。女性ならではの柔軟な価値観やアイデアがもっと社会に浸透すれば、新しい可能性が開けるはずです。私は、『ママズオン』を通じて、女性やママさんが輝ける環境をさらに広げていきたいと考えています。

こうした取り組みは、私たちだけでは実現できません。この考えに共感してくださる方々や企業を巻き込み、より大きなプロジェクトを実現していくことで、次のステージに進めると思います。

今後はさらに『ママズオン』のメンバーが活躍できる場を増やすことがテーマです。企業様とのコラボ案件もさらに増やしていき、より多くの方々と連携して成長していきたいです。

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