高校生のアイデアが文化祭の商品になるまで〜町田総合高校といけもんキッチンのメニュー開発〜

池田 孝

池田 孝

2026.09.29
column_Ikeda Takashi

公立小学校の正規教員を退職し、キッチンカー『いけもんキッチン』で全国を巡る池田 孝(いけだ たかし)さんの連載コラム第3弾です。高校生が考えたアイデアが、試食と話し合いを重ね、文化祭で販売する本物の商品になりました。完成したメニューの約9割は、生徒たちの発想から生まれたものです。そこには、教室の中だけでは味わえない学びがありました。

依頼から始まったメニュー開発

見出し1画像嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_池田 孝_メニュー開発
生徒たちのアイデアが生まれた話し合い(著者撮影)

きっかけは、町田総合高校からいただいた一件の依頼でした。文化祭で初めてキッチンカーを呼びたい。そして、できることなら生徒たちと一緒にオリジナルメニューを考えてほしい。そんな希望を聞き、私はすぐに面白そうだと思いました。

私は20年以上、学校現場で子どもたちと関わってきました。現在はキッチンカーの「いけもんキッチン」を運営し、子どもたちの「やってみたい」を実際の形にする活動を続けています。今回の依頼は、教育とキッチンカーという自分の二つの経験をつなげられる機会でした。

最初の話し合いでは、私が普段行っている活動や、いけもんキッチンで販売しているメニューを紹介しました。そのうえで、生徒たちには「おいしそう」「かわいい」だけでは商品にならないことも話しました。材料費はいくらかかるのか。短い時間で何個作れるのか。注文が集中しても提供できるのか。そして、事業として成り立つ価格はいくらなのか。実際に販売する以上、どれも避けて通れない視点です。

説明を聞いたあと、生徒たちは黒板いっぱいにアイデアを出してくれました。味の組み合わせだけでなく、写真に撮りたくなる見た目や、文化祭らしい楽しさまで考えていました。話し合いの結果、商品はホットドッグとドリンクに絞られました。

生徒の発想を試食会で商品にする

見出し2画像嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_池田 孝_試食会
試作品を手にした生徒たち 味と見た目をみんなで確かめた(著者撮影)

ホットドッグのテーマは、アボカドとバジルソース。ドリンクは、カップの底にゼリーを入れ、サイダーを注ぎ、上にフルーツを飾るというアイデアでした。どちらも、普段のいけもんキッチンにはなかった高校生らしい発想です。

私はその案を持ち帰り、実際に作れる形を考えました。具材や盛り付けを変えながら何種類かの試作品を用意し、次はみんなで試食会です。ひと口食べて「いや、これめっちゃおいしい」と声が上がりました。おいしさを確かめるだけでなく、商品としてどう仕上げるかについても、生徒たちは率直に意見を出してくれました。

ホットドッグには、「最後にチーズをのせたらどうだろう」という案が出ました。一方で、「でも、それをすると提供に時間がかかるのでは」と、当日の動きまで考える声も出ました。ドリンクでは、シロップを入れる位置を比べ、「こちらの方が見た目がいい」と、味と同じくらい見た目も大切にしました。

文化祭では、限られたスペースで次々と注文に応えなければなりません。魅力的でも、作るのに時間がかかりすぎるメニューは販売が難しくなります。最終的な材料、分量、作り方、提供手順は私が整理しましたが、商品の中身は約9割が生徒たちのアイデアです。自分たちの案が、試作を通して少しずつ本物の商品へ変わっていきました。

完成した商品が文化祭で届いた

見出し3画像嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_池田 孝_文化祭で届いた
完成した二つのオリジナルメニュー(著者撮影)

完成したホットドッグは、「とろーり炙りチーズのアボカドバジルソースドッグ」。アボカドとバジルソースに炙りチーズを合わせ、800円で販売しました。

ドリンクは、生徒が考えた名前をそのまま生かした「トロピカルスカッシュドリンク」です。ゼリー、サイダー、フルーツを組み合わせ、見た目も楽しい一杯になりました。レギュラーサイズは600円。さらに、試食会で「大きいサイズがあったらいいよね」と出た声から、880ミリリットルのメガサイズを900円で用意しました。

文化祭当日は、生徒たちがメニュー看板だけでなく、列の最後尾を知らせる看板も作ってくれました。販売中はレジにも立ち、自分たちが考えた商品をお客さまに届けました。アイデアを出して終わるのではなく、作る人、売る人、買う人の動きまで体験したことで、商品づくりが一つの流れとしてつながったように感じます。

見出し4画像嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_池田 孝_文化祭の様子
生徒たちが準備した販売用メニューと手作り看板。文化祭当日はレジと受け渡しも担当した(著者撮影)

商品を手にしたお客さまからは、「本当においしい」「めっちゃかわいい」という声が次々に聞こえてきました。文化祭では、「とろーり炙りチーズのアボカドバジルソースドッグ」を97個、「トロピカルスカッシュドリンク」を110杯販売しました。多くの方に手に取っていただけたこともうれしかったのですが、それ以上に、生徒たちのアイデアがお客さまの反応となって返ってきたことに価値がありました。

自分が考えたものに誰かがお金を払い、「おいしい」と言ってくれる。その経験は、教室で正解を当てる学習とは違います。考えたことが社会の中で通用するかを試し、反応を受け取り、次の改善を考える。そこには、本物だからこそ生まれる緊張感と喜びがあります。

子どもたちは、自由で面白いアイデアをたくさん持っています。ただ、アイデアを出すだけで終わることも少なくありません。そこに大人が、経験、技術、場所、人とのつながりを持ち寄れば、子どもの発想を実際の商品や活動に変えることができます。

今回、私は最後のオペレーションを整えましたが、主役は生徒たちでした。私は、生徒の案を否定せず、実現するにはどうしたらよいかを一緒に考えました。完成した商品は、生徒だけでも、私だけでも作れなかったものです。文化祭の最後に撮った集合写真には、やり切った笑顔が並んでいました。

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文化祭終了後 キッチンカーの前で撮影した集合写真(著者撮影)

学校と地域の大人がつながると、学びは教室の外へ広がります。これからもキッチンカーを、食べ物を売る場所だけでなく、子どもたちの「やってみたい」を試せる場所にしていきたいと思います。今回生まれた二つのメニューは、その可能性を生徒たちと一緒に形にした、大切な一歩になりました。