今野 裕之
医療法人社団TLC医療会ブレインケアクリニック名誉院長
精神科医

精神科専門医・認知症診療医として、リコード法や栄養療法を用いた最先端の治療を実践する今野裕之(こんの ひろゆき)さん。著書やテレビ出演を通じ、脳のパフォーマンス向上と認知症予防の啓発に尽力されています。今回は、認知症をテーマに綴って頂きました。
4月14日から16日まで、国際アルツハイマー病協会主催の国際会議に参加してきました。
この会議は、医師や研究者だけが集まる専門家の場ではありません。認知症を抱えながら生きている当事者の方々、そのご家族や介護者、各国の大臣や行政担当者まで、文字通り世界中から人々が集う、非常に大きなイベントです。オープニングセレモニーにはスペインの女王と王女もご出席になり、この問題が国家レベルでいかに重視されているかを肌で感じました。ちなみに協会では認知症の患者さんのことを「認知症と共に生きる人(People Living with Dementia)」という表現を使っていましたが、この言い回しは認知症の人を社会の一員として受け入れる社会を作ろうという考えが反映されていると感じ、印象的でした。

皆さんは「認知症」という言葉を聞いて、どんなイメージを持つでしょうか。
「年をとれば仕方ない」「なってしまったら終わり」「治療法がないから怖い」、そう感じている方は、まだ少なくないと思います。
しかし今、世界の認知症医療は大きく変わっています。
会議で共有されていた世界標準の認識はこうです。「認知症は、きちんと対策すれば発症リスクを約半分まで下げられる。そして発症したとしても、早期であれば症状の改善や進行の抑制が可能である」。これが、現在のグローバルスタンダードになっています。
さらに一歩踏み込んで、「認知症になったとしても、自立した生活を送れる社会をどうつくるか」という議論が、世界各国で真剣に行われていました。医療の話だけでなく、街づくり、テクノロジー、介護の仕組み、政策立案まで、あらゆる角度から「認知症と生きる社会」が語られていたのです。私自身、「こんな取り組みがすでに行われていたのか」と驚かされる報告が多く、非常に刺激的な3日間でした。
今回私たちは、顧問として関わっている介護施設「3ReSホーム比叡山坂本」(滋賀県大津市)で実施されている認知症予防プログラムの成果を会議で発表してきました。
このプログラムに10カ月間参加した入居者17名を対象に、認知機能・日常生活能力・睡眠の質などの変化を追跡したデータです。結果として、参加者の過半数で認知機能の維持または改善が確認されました。これだけでも十分に意義ある成果ですが、中でも一つの事例が、会場に大きな反響をもたらしました。
103歳のアルツハイマー病の女性が、プログラム参加中に認知機能を維持できただけでなく、元々は歩けなかったのが介助なしで歩けるようになり、さらには手すりを使えば階段の上り下りまでできるようになったのです。
103歳で、アルツハイマー病でも、人は変われる。
この事実が、「認知症になったら何もできない」という諦めに対して、世界に向けて一つの希望を示せたのではないかと、私は信じています。
国際会議ならではの醍醐味は、世界中から集まった人々との交流です。今回もヨーロッパ、アジア、アフリカと、本当に多様な国々からの参加者と意見を交わす機会がありました。医療制度も文化も異なる中で、それぞれの国が認知症とどう向き合っているかを聞くことは、日本での実践を見直すうえでも大きな刺激になりました。
「認知症」は決して一つの国や地域だけの問題ではなく、人類共通の課題として、今まさに世界が手を取り合って取り組んでいる。そのことを、改めて強く実感した会議でもありました。
奇しくも今年は、クリニックを立ち上げてから10年目という節目の年です。
振り返れば、決して平坦な道のりではありませんでした。それでもここまで続けてこられたのは、ひとえに支えてくださった患者さん、スタッフ、そして多くの仲間たちのおかげです。心から感謝しています。
この10年で積み上げてきた知見を土台に、今年はさらに多くの方の健康に貢献できるよう、新しいチャレンジを計画しています。「認知症は防げる、そして変われる」——その可能性を一人でも多くの方に届けることが、私の使命だと改めて感じています。
至らない点もまだまだ多いですが、引き続きご支援のほど、どうぞよろしくお願いいたします。