もたざる者

元プロボクサーで、現在は『脳機能改善ストレッチ』で経営者やアスリートをサポートしている和嶋俊光(わじま としみつ)さんの連載コラムです。何も持っていないことは、不利なのか。それとも武器なのか。貧乏、家庭環境、選べない現実。普通とは違う環境の中で育ったからこそ見えたものがある。“もたざる者”として生きた原点を綴っていただきました。
それが普通だと思っていた
正直、当時はしんどいと思ったことはなかった。
なぜなら、他の家庭を知らなかったから。
それが“普通”だと思っていた。
父親の怒号。
ガラスや鏡が割れる音。
母親の悲鳴。
それが、どこの家でも起きている
“よくある夫婦喧嘩”だと思っていた。
疑うことすらなかった。
家は貧乏だった。
でも、それも特別なことじゃない。
それが当たり前の生活だった。
だから、小学校3年生の頃には
新聞配達のバイトをしていた。
毎日配ると、月に1万2000円ぐらいになる。
そのうち2000円だけを自分の小遣いにして、
残りの1万円は家に入れる。
それも当たり前だった。
「偉い」と言われたことはない。
「大変だね」と言われたこともない。
だって、それが普通だったから。
13歳、一家の稼ぎ頭になるという選択

中学に入って、その“普通”は大きく変わる。
父親が、いろいろあって逮捕された。
気づけば、
母親と3人兄弟の4人家族。
そして自分は、
一家の稼ぎ頭のひとりになっていた。
家賃は5万円の借家。
その5万円は、
自分がアルバイトで稼いでいた。
当時の時給は680円が相場。
その中で、
700円のバイトを必死に探したのを覚えている。
少しでも高いところで働く。
それがそのまま生活に直結するから。
22時までしか働けない。
その中で5万円以上を稼ぐには、
ほぼ毎日働くしかない。
学校が終わったら、そのままバイト。
休むという選択肢はなかった。
やらなきゃ、生活が回らない。
ただそれだけ。
失うものがないから、すべてを賭ける

今思えば、
この時に完全に決まったと思う。
“自分の人生は、自分でなんとかする”
誰かが助けてくれるわけじゃない。
環境が整うのを待つ余裕もない。
だったら、自分でやるしかない。
もたざる者には、
最初から“守るもの”がない。
だからこそ、全部を賭けられる。
普通の人は、失うことを恐れる。
でもこっちは違う。
そもそも、失うものがない。
だから踏み込める。
やるか、やるか。この感覚が、
この先の人生すべてのベースになっていった。