「金融教育」を福利厚生にするという挑戦

笹田 良太(ささだ りょうた)さんは、第一生命保険株式会社にて13年間勤務後、2021年に独立し、株式会社LVACを設立。企業向け金融教育、福利厚生・企業型DC導入支援、資産形成・ライフプラン支援を展開されています。「100年企業サポートプログラム」を通じて、地方企業の持続的成長と金融教育の普及に取り組んでいる笹田さんに、今後のビジョンや展望についてお伺いしました。
100年続く企業と、100年生きる個人のために

私が代表を務めている株式会社LVACは、今で6期目に入りました。創業してからずっとやってきたことは、「お金を増やす話」をすることではなくて、「人生の幸福度をどうやって上げていくか」というテーマでの金融教育です。これまで、個人の経営者の方、個人事業主、公務員、会社員の方など、本当に立場を問わずマネーセミナーをやってきました。いわば、お金の啓蒙活動です。
そして今、私が一番力を入れているのが、創業100年を目指す企業に向けた『100年企業サポートプログラム』です。これは、経営者と従業員の方が、経済的に自立していくための金融教育を、福利厚生として会社の制度に組み込むことができるものです。社員の方が「お金の不安」を抱えたまま働くのか、それとも安心して仕事に集中できるのか。この違いは、実は会社の未来にものすごく影響します。
よく「金融教育って、誰向けなんですか?」と聞かれますが、業種も職種も関係ありません。お金は資本主義社会に生きている限り、誰もが必ず関わるもので、だからこそ誰にとっても必要です。でもそれが逆に難しくもあって、「じゃあ、誰のためにやるのか?」を本気で考えた結果、日本が世界一の“100年企業大国”であることに行き着きました。世界の100年企業の6割以上が日本にある。だったらその企業と、そこで働く人たちに金融教育で貢献できたら、地域経済や日本全体にもいい影響を与えられるんじゃないか。そう思って、今の形に絞っていきました。
日本では「お金」を学ばないまま、大人になるのが当たり前になっている

日本で「お金」について、幼稚園から大学までの間に体系的に学んだ記憶がある人は、どれくらいいるでしょうか。金融庁の調査によると、「お金について十分な知識がある」と感じている人は、全体の1割程度にとどまっています。この数字を見て、どう感じますか?
私自身、学校でも家庭でも、お金や投資について深く教わった記憶はほとんどありません。むしろ「投資は危ないもの」「株には手を出すな」そんな言葉の方が身近でした。実際、私の家庭でも、父が株の投資で損をした経験があり、「投資はするな」と教えられて育ったので、投資とは全く縁のない世界にいた人間です。同じような境遇の方々も、いらっしゃるのではないでしょうか。
そんな私が、お金について本気で考えるようになったきっかけの1つが、大学時代のアメリカ留学でした。当時、日本では低金利が続いていました。私が留学していた2006年当時、日本の普通預金金利は0.001%。銀行にお金を預けていても、ほとんど増えない状況でした。一方で、アメリカでは普通預金でも0.5〜1%、定期預金にすれば4%を超える金利がついていました。同じ「お金を預ける」という行為なのに、なぜここまで結果が違うのか。なぜ日本では、お金がほとんど増えない状態が当たり前になっているのか。なぜアメリカではお金が“働く”仕組みが、ごく当たり前のように存在しているのか。この差に強い違和感を覚えたことが、私が金利や経済の仕組みについて本格的に学び始める大きなきっかけとなりました。
では、なぜ日本ではお金について学ぶ機会がこれほど少ないのでしょうか。日本では長い間、「お金の話をすることは、はしたない」「投資の話は危ないもの」といった価値観が、家庭や社会の中に根付いてきました。学校でも家庭でも、積極的に教えられることが少ないまま、社会に出てから失敗をし、壁にぶつかりながら、体当たりで覚えていく。これが日本の金融教育の現実です。一方で、アメリカやヨーロッパでは状況が大きく異なります。アメリカやヨーロッパでは、お金の教育は本当に当たり前です。6歳くらいから、投資やお金の仕組みについて学び、投資信託や株式という言葉も、特別なものではありません。お金は「怖いもの」ではなく、人生を支えるための実用的な知識として教えられています。
日本は、世界でもトップクラスの長寿国です。100歳まで生きることも、珍しくはありません。しかし、長生きする一方で、お金の準備が十分かというと、決してそうとは言えない状況です。インフレは進み、円の価値は下がり続け、年金だけで老後を支えられるかといえば、正直かなり厳しいのが現実です。みなさんの子どもが成人するくらいまでは何とかなるかもしれません。しかしその先、70歳以降に待っている現実は、「老後破産」という言葉と向き合わざるを得ない状況かもしれません。だからこそ、私は専門家として、「今から学び、今から実践しなければ、本当に間に合わない」という、強い危機感を持っています。
金融教育は「制度」にして初めて意味を持つ

「セミナーを一回やれば十分なんですか?」と聞かれますが、答えはNOです。私はよくライザップの例えを出すのですが、トレーニングを一回学んだだけで結果が出る人はいないように、食事指導、個別サポート、継続フォローがあって初めて結果にコミットできる。金融教育も全く同じです。
定期的なセミナー、個別相談、実践のサポート、そして継続的なフォロー。この三つが揃って、初めて「意味のある金融教育」になる。つみたてNISAを始めたのは良いことですが、ただその先の出口戦略まで考えられている人は正直ほとんどいません。入口・中間・出口までを自分と家族の人生設計に組み込まないと、「幸せになりたい」という言葉はただの理想論で終わってしまいます。
また経営者の方に、「社員の老後やお金の不安は、会社の課題ですか?」といつも問いかけています。自助努力だと言うならそれも一つの考え方です。でも社員が一番不安に感じているのはお金と老後のことです。そこに会社として向き合い、福利厚生として金融教育を制度化する企業は、間違いなく強くなる。社員が安心して働ける環境は、人材の定着につながり、採用にも効いてくると思います。
私自身、関われる人の数には限りがあります。この身が動く限り、自分の専門領域で誰かの人生の選択肢を増やしたい。好きな人と好きな場所で好きなことができる。そんな当たり前を当たり前に選べる社会をつくる。その一助になれるならこれ以上の仕事はないと思っています。