なぜアジアでアドラー心理学の「課題の分離」が爆発的に人気になったのか

あい

あい

2025.12.31

アドラー心理学を用いた、子育て・起業・自己実現サポートを行う、あいさんの連載コラム第4弾です。アドラー心理学をベースとした「嫌われる勇気」は日本で500万部、韓国で200万部、中国・台湾でも驚異的な売上を記録しました。特に注目されたのが「課題の分離」という概念です。なぜアジアで、この100年前に生まれた考え方が、これほど爆発的に支持されるのでしょうか。一方、欧米では同じ概念がアジアほどの社会現象にはなっていません。この温度差の裏には、アジア特有の文化的背景があります。国際アドラー心理学会で、日本人ママ代表として、アジア圏のアドラー受容を研究するあいさんが、その理由を解き明かします。

個人主義の欧米、集団主義のアジア文化が生む反応の違い

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アドラー心理学の中でも、日本で最も有名になった概念が「課題の分離」です。「これは誰の課題か?」を見極め、他者の課題には踏み込まない。シンプルな考え方ですが、なぜこれがアジアで特に大きな反響を呼んだのでしょうか。

答えは、欧米とアジアの文化的な違いにあります。心理学者ホフステードの「文化次元論」によれば、欧米諸国は「個人主義文化」、アジア諸国は「集団主義文化」に分類されます。個人主義文化では、個人の自立と自己決定が重視されます。18歳になれば親元を離れ、自分の人生は自分で決める。これが一般的です。

もちろん、欧米でもアドラー心理学は教育現場やカウンセリングで広く活用されており、決して無視されているわけではありません。ドイツやオーストリアでは学校教育に導入され、アメリカでは家族療法の基礎として学ばれています。しかし、個人主義が既に根付いている社会では、「課題の分離」は新しい発見というより、既存の価値観を言語化したものとして受け止められる傾向があります。

一方、アジアの集団主義文化では、個人よりも家族・共同体が優先されます。特に儒教文化圏(日本・韓国・中国・台湾・シンガポール)では、「親孝行」「家族の和」が最重要視されてきました。個人の意見よりも、家族の意向。自分のやりたいことよりも、親の期待。この価値観の中で育った私たちにとって、「課題の分離」は新鮮で、時に衝撃的な概念だったのです。

私自身、典型的なアジア的家庭で育ちました。親は「あなたのため」と言いながら、進路、結婚相手、子育ての方法まで関心を持っていました。私も「親孝行しなければ」と、自分の気持ちを押し殺すことがありました。しかし、アドラーの「課題の分離」を知ったとき、大きな気づきを得たのです。

「私の人生は、私の課題。親の人生は、親の課題」

このシンプルな線引きが、多くのアジア人に新たな視点を提供しました。実際、私がこれまでサポートしてきた100名以上の方々の多くが、「課題の分離を知って、家族関係のストレスが軽減した」と語っています。欧米では日常的な概念が、アジアでは人生を変える大きなヒントになったのです。

儒教文化圏が抱える3つの「過干渉問題」

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アジア、特に儒教文化圏で「課題の分離」が強く求められる背景には、3つの深刻な社会問題があります。

①教育虐待:子どもの人生への過度な介入

日本では「教育虐待」という言葉が社会問題化しています。韓国では受験競争の過熱が、中国では「鶏娃(ジーワー)」と呼ばれる教育熱心な親の存在が注目されています。これらはすべて、「親が子どもの人生に過度に介入する」という共通の構造を持っています。

「良い大学に入らなければ、良い人生は送れない」
「私たちが選んだ道は、あなたのため」
親は善意で子どもの人生を導こうとします。しかし、アドラーは明確に指摘します。「子どもの人生は、子どもの課題である」と。

内閣府が実施した「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」では、日本の若者の自己肯定感が、調査対象国の中で低い水準にあることが示されています。この背景には、「親の期待に応えなければ」というプレッシャーが影響していると考えられます。課題の分離を理解することで、親は「子どもの人生を決めるのは子ども自身」と認識し、子どもは「親の期待に必ずしも応える必要はない」と気づくことができます。

私自身、娘の習い事を次々と増やし、「あなたの将来のため」と言いながら、実は「良い母親だと思われたい」という自分の課題を娘に押し付けていました。課題の分離を実践してから、娘に「何をやりたい?」と聞けるようになり、娘は自分で考え、選択する力を育て始めました。

②嫁姑問題:境界線のない家族関係

アジアで根深い問題の一つが、嫁姑問題です。日本の離婚理由の上位に「配偶者の家族との不和」が挙げられることもあり、韓国では「名節ストレス(旧正月の帰省ストレス)」が話題になることもあります。

なぜ嫁姑問題が深刻化しやすいのか。それは、アジアの家族文化に「明確な境界線」という概念が根付きにくいからです。「家族なんだから、何でも言い合える」「嫁は家族の一員なんだから」。こうした考え方が、時に過度な介入を正当化してきました。

しかし、課題の分離は明確な境界線を提示します。
「義母の人生は義母の課題、私の人生は私の課題」
「夫の実家との関係は、まず夫が考えるべき課題」
この線引きを意識することで、不要なストレスを軽減できます。

私が忙しく働いていると、友人から「子どもが可哀想」「母親なのに家にいないなんて」と心配されました。以前なら自己嫌悪に陥っていたでしょう。しかし、「これは友人の価値観であり、私の人生は私が決める」と理解できたとき、心が軽くなりました。友人の意見は尊重しますが、最終決定は私がする。この境界線が、むしろ関係を良好に保つ助けになりました。

③介護問題:「親孝行」の重圧

アジアの高齢化社会で深刻化しているのが、介護問題です。総務省の調査によれば、日本では介護・看護を理由とした離職者が年間約10万人に上ります。韓国でも「孝行のプレッシャー」で精神的に追い詰められる人が増えていると報じられています。

儒教文化では「親の面倒を見るのは当然」とされてきました。しかし、現実には、仕事、子育て、自分の人生との両立は困難です。そして、「親孝行できない自分」を責め、罪悪感に苛まれます。

アドラーの課題の分離は、この問題にも新しい視点を提供します。「親の老後は、まず親自身が考える課題」「子どもがどこまで関わるかは、子どもが決めていい」。これは冷たいのではありません。境界線を明確にすることで、無理のない範囲でサポートできるようになるのです。

ある受講生の方は、「課題の分離を知って、初めて親に『できること・できないこと』を率直に伝えられた。親も理解してくれて、関係が良くなった」と話していました。我慢と犠牲ではなく、対等な対話。これがアドラー流の関係性です。

韓国・中国・台湾、アジア各国のアドラーブーム

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「課題の分離」への共感は、日本だけではありません。アジア全域で、大きなアドラーブームが起きています。

韓国:「嫌われる勇気」200万部の反響

韓国では「嫌われる勇気」が200万部を突破し、長期間ベストセラーリストに残り続けました。なぜこれほど支持されるのか。それは、韓国社会の「序列文化」「外見重視」「激しい競争」に疲れた人々が、「他者の評価から自由になる」というメッセージに共感したからだと考えられます。

韓国のアドラー心理学会では、企業研修、学校教育、カウンセリングなど、幅広い分野での活動が行われています。特に注目されているのが「課題の分離」と「勇気づけ」です。

私が韓国のアドラー実践者と交流したとき、「親から精神的に自立するために、課題の分離の考え方が助けになった」という声を多く聞きました。結婚しても親の意見に影響される、子育てにも親が関与する。そんな状況を整理するために、アドラーが参考になったというのです。

中国:若者が求める「個人の選択」

中国でも「嫌われる勇気」は注目を集めました。特に若い世代(80后、90后、00后)に読まれています。一人っ子政策で育った彼らの中には、親の期待を一身に背負い、「家族の代表」として生きることを意識してきた人も少なくありません。

しかし、経済発展とともに、個人の選択を重視する価値観も芽生え始めています。「自分の人生は自分で決めたい」「親の期待だけでなく、自分のやりたいことも大切にしたい」。この思いに、アドラーの「課題の分離」が響いたようです。

中国のSNS「小紅書(RED)」では、「課題的分离(課題の分離)」というハッシュタグで、多数の投稿が見られます。「親の期待との向き合い方が変わった」「仕事の人間関係が楽になった」という体験談が共有されています。

台湾:「嫌われる勇気」が話題に

台湾でも「嫌われる勇気」は大きな反響を呼びました。書店では特設コーナーが設けられ、メディアでも取り上げられました。「課題の分離」は日常会話でも言及されるほど浸透しています。

台湾もまた、儒教文化と家族主義が根強い社会です。しかし同時に、民主化以降、個人の自由や人権を重視する文化も育ってきました。この「伝統と近代の狭間」で悩む人々にとって、アドラーは「どちらも大切にしながら、自分らしく生きる」ヒントを提供してくれたのです。

2026年に開催される国際アドラー心理学会(IAIP ASIA2026)では、アジア各国の実践者が集まる予定です。そこで見えてくるのは、文化的背景は違えど、「家族との適切な距離感」「他者の期待との向き合い方」という共通の関心です。アドラー心理学は、アジア人が抱える普遍的な悩みにヒントを与えてくれるのです。

まとめ:アジアの未来を変える「課題の分離」

欧米では既に社会に根付いている個人主義的な考え方が、なぜアジアではこれほど新鮮に受け止められるのか。それは、数千年続いた儒教文化、集団主義文化の中で、私たちが「個人」よりも「全体」を優先してきたからです。

しかし、時代は変わりつつあります。グローバル化、価値観の多様化、SNSによる情報の民主化。アジアの人々、特に若い世代は、「自分らしく生きたい」と願っています。その願いを実現するヒントの一つが、アドラーの「課題の分離」なのです。

親の期待に応えるためだけに生きるのではない。家族のために自分を完全に犠牲にするのではない。他者の課題と自分の課題を見極め、自分の人生は自分で決める。この視点が、アジアの未来を少しずつ変えていきます。

あなたも今日から、小さな一歩を踏み出してみませんか。「これは誰の課題か?」と問いかけてみる。他者の期待だけでなく、自分の気持ちも大切にしてみる。その小さな実践が、あなた自身の人生を、より生きやすいものに変えていくかもしれません。

【著者プロフィール】
あい / アドラー心理学講師・著者
2児の母。アドラー心理学の実践で、たった3カ月で家族崩壊から家族円満へ変化。2024年起業。「思考のクセ診断」を開発し、100名以上の子育て・自己実現をサポート。関西・大阪万博登壇。国際アドラー心理学会(IAIP ASIA2026)日本代表。10ヶ月連続ベストセラー著書『アドラー流子育てやってみた』。Instagram: @ai_sensei_0310【関連情報】
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