職場の人間関係を劇的に改善するアドラー式コミュニケーション

アドラー心理学を用いた、子育て・起業・自己実現サポートを行う、あいさんの連載コラム第3弾です。「上司とうまくいかない」「同僚との関係がギクシャクする」「部下が言うことを聞かない」。職場の人間関係の悩みは、ビジネスパーソンの最大のストレス源です。厚生労働省の調査では、退職理由の第1位が「人間関係」であることが明らかになっています。しかし、アドラー心理学のコミュニケーション術を実践すれば、驚くほど人間関係が改善します。家族関係の改善から起業まで果たしたアドラー心理学講師が、職場で明日から使える実践的なコミュニケーション術を解説します。
なぜ職場の人間関係は、こじれるのか

職場の人間関係がこじれる根本原因は何でしょうか。アドラー心理学は、明確な答えを提示します。それは「縦の関係」にあります。
日本の企業文化は、伝統的に上下関係を重視してきました。上司は命令し、部下は従う。先輩が後輩を指導する。この「縦の関係」が当たり前とされてきたのです。しかし、この構造こそが、職場のストレスを生み出す最大の要因なのです。
私自身、会社員時代は典型的な「縦の関係」の中で働いていました。上司の機嫌を常に伺い、理不尽な指示にも黙って従う。自分の意見を言えば「生意気だ」と言われる。そんな環境で、日々消耗していました。
リクルートワークス研究所の調査によれば、職場のストレスの約60%が「人間関係」に起因しており、その中でも「上司との関係」が最も多いと報告されています。さらに、パワーハラスメントの相談件数は年々増加の一途をたどっています。
なぜ「縦の関係」は問題なのか。アドラーは次のように指摘します。
縦の関係が生む3つの問題:
- 評価への恐れ – 上から評価される恐怖で、本音が言えなくなる
- 権力争い – 支配と反発の構造が、対立を生む
- 承認欲求の暴走 – 認められたい欲求が、嫉妬や競争を生む
たとえば、上司が部下に「この企画、ダメだね」と評価すれば、部下は傷つき、やる気を失います。あるいは反発して、心の中で権力争いが始まります。「言われた通りにやったのに、文句を言われた」という不満が蓄積していくのです。
一方、同僚との関係でも「縦の関係」は潜在的に存在します。「あの人は評価されているのに、自分は評価されない」という嫉妬。「自分の方が仕事ができるのに」という優越感。これらはすべて、相手を上か下かで判断する「縦の関係」の思考から生まれます。
アドラーが提唱するのは「横の関係」です。上下ではなく、対等な関係。評価するのではなく、共感する。支配するのではなく、協力する。この「横の関係」こそが、職場の人間関係を劇的に改善する鍵なのです。
「課題の分離」が、職場のストレスを消す

アドラー心理学で最も実践的な概念の一つが「課題の分離」です。これを職場で応用すると、驚くほどストレスが軽減します。
「課題の分離」とは、シンプルに言えば「これは誰の課題か?」を見極めることです。そして、他者の課題には踏み込まず、自分の課題に集中する。逆に、自分の課題にも相手を踏み込ませない。この線引きが、職場のストレスを激減させるのです。
ケース1:上司の機嫌が悪い
多くの人は、上司の機嫌が悪いと「自分のせいかな」「何か悪いことしたかな」と不安になります。しかし、ちょっと待ってください。上司の機嫌は、誰の課題でしょうか?
答えは明確です。「上司の課題」です。上司の機嫌は、上司自身がコントロールすべきもの。もしかしたら、家庭で何かあったのかもしれません。体調が悪いのかもしれません。あるいは、別の部下のことで悩んでいるのかもしれません。
いずれにせよ、それは「上司の課題」であり、あなたの課題ではありません。必要以上に気を遣い、自分を責める必要はないのです。
私がこの視点を知ったとき、肩の荷が降りました。上司の不機嫌に一喜一憂していた自分が、いかにエネルギーを無駄にしていたか気づいたのです。
ケース2:同僚が仕事をサボっている
チームで仕事をしているとき、明らかに手を抜いている同僚がいる。イライラして、「ちゃんとやってよ!」と言いたくなります。しかし、ここでも問いかけましょう。「これは誰の課題か?」
同僚が仕事をサボることで最終的に困るのは、その同僚自身です。評価が下がるのも、信頼を失うのも、本人です。つまり「同僚の課題」。
ただし、そのサボりがあなたの仕事に直接影響する場合は話が別です。「あなたの担当部分が遅れると、私の仕事が進まない」というのは「あなたの課題」です。この場合、対等な立場で事実を伝えることが必要です。
「〇〇さんの部分が遅れていて、私の作業が止まっているんです。いつ頃できそうですか?」と、感情的にならず、事実を伝える。これがアドラー流のコミュニケーションです。
ケース3:部下が成長しない
管理職の方からよく聞く悩みが「部下が成長しない」というものです。一生懸命指導しているのに、部下が変わらない。しかし、ここでも「課題の分離」が重要です。
部下が成長するかどうかは、最終的には「部下の課題」です。上司ができるのは、環境を整えたり、機会を提供したり、必要なサポートをすることまで。成長するかどうかを決めるのは、部下自身なのです。
私が起業してから気づいたのは、「人を変えることはできない」という事実です。変われるのは自分だけ。他者を変えようとすることは、他者の課題に土足で踏み込む行為なのです。
ただし、「部下を育てる環境をつくる」ことは「上司の課題」です。この線引きを明確にすることで、過度な責任感から解放され、適切なサポートに集中できるようになります。
明日から使える!職場の「横の関係」構築術

理論はわかったけれど、「具体的にどうすればいいの?」という方のために、明日から職場で実践できる「横の関係」構築術を3つご紹介します。
①「Iメッセージ」で、対等に伝える
「横の関係」を築く最も効果的な方法が「Iメッセージ」です。これは、主語を「あなた」ではなく「私」にするコミュニケーション技術です。
従来のYouメッセージ: 「あなたの報告が遅いから、困るんだよ」(批判・攻撃)
アドラー流のIメッセージ: 「報告が遅れると、私はスケジュールが組めなくて困っているんです」(事実・感情)
この違いは決定的です。Youメッセージは、相手を批判し、防衛反応を引き起こします。「言い訳したくなる」「反論したくnahる」という反発を生むのです。
一方、Iメッセージは、自分の感情や困りごとを伝えるだけ。相手を攻撃していないので、防衛反応が起きにくい。そして、「対等な立場での相談」という形になるのです。
私が会社員時代、上司に「Iメッセージ」で伝えたときの変化は驚くものでした。「この指示だと、私は混乱してしまうんです」と正直に伝えたところ、上司は「そうか、わかりにくかったね」と丁寧に説明し直してくれました。
Youメッセージで「指示がわかりにくいです」と言っていたら、「ちゃんと聞いてないからだ」と反論されていたでしょう。Iメッセージは、対立を避け、協力関係を築く最強のツールなのです。
②「良い意図」を探し、共感から始める
アドラー心理学の核心の一つが、「相手の行動には必ず良い意図がある」という視点です。これを職場で実践すると、人間関係が劇的に改善します。
たとえば、細かいことまで指示してくる上司。「うるさいな」「信頼されてないのかな」とネガティブに捉えがちです。しかし、「良い意図」を探してみましょう。
「この上司は、プロジェクトを成功させたいんだ」「私に失敗してほしくないんだ」。そう考えると、見え方が変わります。上司の行動は「支配」ではなく「心配」だと理解できるのです。
この視点を持つと、対応も変わります。「細かく指示されて嫌だ」と反発する代わりに、「ご心配ありがとうございます。〇〇の部分は、こういう方針で進めますが、問題ないでしょうか?」と、先回りして報告することができます。
すると上司は安心し、細かい指示が減っていきます。これは、相手を変えようとしたわけではありません。相手の「良い意図」を理解し、自分の対応を変えただけです。
部下との関係でも同じです。指示に従わない部下がいたら、「反抗的だ」と決めつける前に、「この人なりの考えがあるのかもしれない」と良い意図を探す。「〇〇さんは、どう思いますか?」と意見を聞いてみる。
すると、実は部下なりに理由があったことがわかります。「この方法だと、お客様に迷惑がかかると思ったんです」というように。そこから、対等な対話が始まるのです。
③「ありがとう」と「助かります」で、貢献感を生む
職場の人間関係を良好に保つ最もシンプルで効果的な方法が、「ありがとう」と「助かります」を伝えることです。
アドラーは「幸福とは貢献感である」と言いました。人は、誰かの役に立っていると実感できたとき、喜びを感じます。これは職場でも同じです。
上司に報告したとき。「ありがとう、助かったよ」と言われたら、「また頑張ろう」と思えます。同僚が手伝ってくれたとき。「ありがとう、本当に助かった」と伝えれば、関係が深まります。
私が起業してから意識的に実践しているのが、「ありがとう」を具体的に伝えることです。「ありがとう」だけでなく、「〇〇してくれて、本当に助かりました。おかげで△△ができました」と、具体的な貢献を伝えるのです。
すると、相手は「自分の行動が役に立ったんだ」と実感できます。この小さな積み重ねが、チーム全体の雰囲気を変え、協力関係を強化していくのです。
部下に対しても、「ありがとう」は効果的です。「褒める」のではなく、「感謝する」。これが「横の関係」を保ちながら、相手を勇気づける方法なのです。
「この資料、わかりやすくまとめてくれてありがとう。プレゼンがスムーズにできたよ」と伝えれば、部下は「自分の仕事が役に立った」と実感し、次もやる気が出ます。
職場を変えるのは、あなたの「関わり方」
職場の人間関係が辛いとき、多くの人は「環境を変えたい」「転職したい」と考えます。しかし、アドラー心理学は教えてくれます。「問題は環境ではなく、関わり方にある」と。
縦の関係を横の関係に変える。他者の課題に踏み込まない。Iメッセージで対等に伝える。相手の良い意図を探す。感謝を具体的に伝える。
これらの小さな実践が、職場の空気を変えていきます。そして何より、あなた自身が楽になります。他者を変えようとするのではなく、自分の関わり方を変える。それだけで、驚くほど人間関係が改善するのです。
明日、職場で誰か一人に「ありがとう、助かりました」と伝えてみてください。その小さな一歩が、あなたの職場を、そして人生を変える始まりになるはずです。
【著者プロフィール】
あい / アドラー心理学講師・著者
2児の母。アドラー心理学の実践で、たった3カ月で家族崩壊から家族円満へ変化。2024年起業。「思考のクセ診断」を開発し、100名以上の子育て・自己実現をサポート。関西・大阪万博登壇。国際アドラー心理学会(IAIP ASIA2026)日本代表。10カ月連続ベストセラー著書『アドラー流子育てやってみた』。Instagram: @ai_sensei_0310
【関連情報】
▶無料LINE登録で「アドラー流子育て17大特典」プレゼント中
▶思考のクセ診断・個別相談はInstagram DMまたは公式LINEへ